第38話 似た者同士

 手を取り合って、心通わせる二人。大ケヤキの場所から神門を抜けて、境内の中へゆっくりと歩み寄る。その姿はまるで、気心の知れた親友のよう。先ほど出会ったばかりには到底思えず、参拝客から見ても仲の良い兄弟に思えただろう。


 そんな風に、お互いのことを知り得た二人。楽しそうに会話を弾ませながら、木陰で待つ友達の元に向かう。ところが、穏やかな雰囲気でいたのは、夏樹なっちゃんと良夜だけのよう。


 徐々に目的の場所へ辿り着く頃には、待たせていた女の子の表情がくっきりと窺えた。その様子は、不貞腐れた態度をしており、不機嫌そうに睨みつける姿。ゆえに、二人が対面した途端、春花はーちゃんは間髪を入れずに問いただす――。



『――もう、一体どういうこと‼ どんだけ待たせたら気が済むのよ!』

『どんだけって、ほんの数分じゃん』


『数分? まあ、それもそうね。――じゃなくて! 人を待たせたら、何か言うことがあるでしょ!』

『言うこと? それって、自己紹介のこと?』


『自己紹介? ――でもなくて! 私が言ってるのは、ごめんなさいの一言!』

『ああー、はいはい。分かってるって、謝ればいいんでしょ。ごめんごめん』


 春花はーちゃんの憤る姿にも動じない夏樹なっちゃん。いつものことだから慣れているのであろう、少しだけ笑みをこぼし受け流す素振りを見せる。 


『ごめんは1回でいいの! ――ったく、笑って誤魔化ごまかせると思ったら大間違いよ!』


 夏樹なっちゃんの態度が気に入らなかったのか、春花はーちゃんは顔を真っ赤にして怒りだす。 


『あのう……それは僕のせいでもあるから……夏くんは悪くないって言うか……』

『――はあ⁉ あなたには関係ないでしょ! っていうか、声が小さくて、何言ってんのか分かんないわ! 男の子ならもっとハッキリ喋んなさいよ!』


 良夜は、二人のやり取りが尋常でないと感じたのだろう。自分が悪いのだと弱々しく話しかける。ところが、必死で伝えた言葉も虚しく、春花はーちゃんが聞き返す声の大きさにかき消されてしまう。


『えっと、だから……ね』

『良夜ありがとう、僕のことなら大丈夫。今から事情をね、春花はーちゃんに詳しく説明しようと思っていたところ。だから気にしなくても、傍にいてくれるだけでいいよ』


 春花はーちゃんの威圧的な態度に、良夜は物怖ものおじした様子で口ごもる。すると、これを気遣う夏樹なっちゃん。優しげな表情で微笑み、掌をそっと肩へあてる。


『でも……』

『いいからいいから、これはいつものこと』


 良夜は普段の二人を知るはずもない。だからなのか、不安な面持ちで止めに入るも、夏樹なっちゃんは何も問題ないと話す。しかし、これを聞いていた春花はーちゃんは、感情を高ぶらせ声を張り上げる。


『――なんですって‼ いつもとは、どういう意味よ!』

『ああー、だから違うって』


 即座に語尾の言葉へ敏感な反応を示す春花はーちゃん。こうした状況も、至って冷静な対応を取る夏樹なっちゃん。小動物を手なずけるように、興奮した気持ちを優しく宥める。


『なにが違うのよ!』

『そんなことより、とりあえず今日も僕が鬼になるから、さっきの件はこれで勘弁してもらえない?』


『さっきの件? ……って、なんだったかしら? えっと……まあいいわ。夏樹なっちゃんが鬼をしたいって言うんだったら、今回ばかりは許してあげる。けど、つぎ言ったら承知しないわよ!』

『分かってるって』


 我を忘れ、怒り心頭していたからだろう。春花はーちゃんは、何に怒っていたのか思い悩み考える素振りをみせる。それは待たされたことが原因か、それとも日頃の態度を指摘された為なのか。イマイチ状況がよく分からなくなり、先程までのことを許してしまう。


 もしかしたら、今の言い回しは思惑通りだったに違いない。何故なら、夏樹なっちゃん春花はーちゃんから見えない位置に身を反らし、満足そうに薄ら笑いを浮かべていたからだ。


『――で、どういう状況になったの?』

『んっ、なにが?』


『何がじゃなくて、いろいろと話をしたんでしょ』

『あはは、そうだったね』


『あはは、じゃないわよ。夏樹なっちゃんはいつもそう。自分の言いたいことだけ言って、すぐに忘れるんだから』

『そうだっけ?』


 春花はーちゃんは少しだけ頬を膨らませ、得意げな面持ちで日頃の態度を夏樹なっちゃんに伝えた。この一部始終をずっと隣で聞いていた良夜。


『…………えっ?』


 確かに、もっともらしい事を言っているようにも思える。しかしながら、春花はーちゃんも先ほどのことを忘れていたのではないだろうか。こうした二人のやり取りを一部始終みつめていた良夜。この意味をそっと、夏樹なっちゃんに伝えるのであった…………。

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