第8話:今度こそチェリー味。

美都ちゃんの家と僕の家は同じ方向・・・そしていつも途中のT字路から

右と左に分かれる。

そのT字路までは彼女と一緒。


「芳樹・・・私・・・芳樹の一番好きなところってどこだって思う?」


「え?・・・今更?・・・なんでそんなこと聞くの?」


「いいから答えろ」


「え〜と・・・あ〜・・・たとえば頼りないところ・・・」


「うん・・・」


「あと・・・へたれなところとか優柔不断なところとか・・・」


「まあな・・・でもそれって全部、負の感情じゃん?」

「ネガティブな感情だろ?」


「そうかもしれないけど・・・それ以外僕になにがあるっての?・・・」


「芳樹はもっといいところあるよ」

「私ね、芳樹の真っ直ぐで素直なところが一番好きなの?」


「素直?・・・僕が?」


「そうだよ、それって一番大事なことだよ」

「素直っていうことはさ、いろんな要素を持ってるってことだよ」

「 変なプライドないし・・・自己中じゃないし、わがままでもない」

「私の言葉をちゃんと受け止めて理解して私のことを人格を認めてくれてる」


「芳樹に告られた時、私は頼りない男がマストなのって言ったけど、

本当は君の真っ直ぐでブレないところが好きだって思ってたの・・・」


「それに芳樹は、よそ見することなく一生懸命私を好きでいてくれる」

「今の私にとって君が一番大切な存在だよ、芳樹・・・」


T字路の分かれ道で、美都ちゃんはそう言った。


まさか美都ちゃんからそんな切々と想いを語られるとは思わなかった。

彼女の性格からして思ったことをクチに出さないでいるのはイヤ

なんだろうな。


そして美都ちゃんは周りをキョロキョロ見回して誰もいないことを

確認すると僕に近寄って、そっとキスした。


「恋人同士のコミュニケーション・・・今日はありがとうと、また明日ね

のキスだよ」

「さすがに学校の中じゃできないからね」

「芳樹・・・好きだよ・・・愛してるって言葉は照れるけど・・・」

「うん、まあそう思ってる」


「じゃ〜また明日な、バイバイ・・・」


そう言い残して美都ちゃんは笑顔で手を振りながら帰って行った。

遠ざかっていく僕の彼女、僕の恋人。

小さくなっていく美都ちゃんが僕のほうを振り返って手を振るのが見えた。


僕も思い切りアピールするように彼女に両手を振った。


そして愛しい僕の彼女は坂の向こうに消えていった。

なぜか分かんないけど今日はとても切ない気持ちなんだ、美都ちゃん。


「また明日も会おうね、美都ちゃん」

「僕も照れるけど・・・君のこと愛してるって言いたい・・・」


美都ちゃんとは、もう初キスじゃなかったけど、でも今度はちゃんと

チェリー味がした。


つづく。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る