追放編14 お邪魔します

「お邪魔します」


 ギギギーっと空くドアをそっと潜り、俺はリリアンの家に入る。

 中は意外と綺麗だ。シンプルな家具にこじんまりとしたテーブル。

 どうやら彼女以外の家族は住んでいないみたいだ。


「育ちがいいのね。どうぞ」


 俺がお邪魔しますと言ったのがおかしかったのか彼女は少し笑う。


「粗茶しかないけどいい?」


「赤ワインをくれるんじゃなかったのか?」


「それはさっきのお店の話しよ。ここにはないわ。というか、飲みたくないでしょうに」


「間違えないな」


 テーブルの前のソファに腰をかけ、俺は道中ずっと気になっていたことをリリアンに尋ねる。


「リリアン、どうして酒場ににいた飲んだくれに話しかけようと思ったんだ?」


「さあね、ただの気まぐれよ。それと……」


 彼女は少し言葉を選ぶようにしばらく考え込む。


「アンタ、ほっといたら死にそうだったし」


 おそらくこっちが本心なのだろうか、俺を助けてくれた時から思ってはが改めて思う。


「優しいんだな」


「うるさい」


 彼女は照れたようにそういうとドスンと俺の隣に座る。


「家族は?1人で暮らしてるみたいだが」


 俺がそう聞くと彼女は少し顔を曇らせる。


「母は持病が悪化して、もうこの世にはいないの。父は……」


 しばらく間があり、意を決したように再び話し始める。


「父は母が死んだあとすぐ、私を置いて……さっきあなたが落ちた崖から身を投げたわ。私を1人置いてね」


 これを聞いてわかった。彼女が俺が崖から落ちた時に言った命の価値について、なぜあそこまで心に響いたのか。


『……アンタの命はあなただけのものじゃない。アンタがいらないと思っても、アンタが死ぬことで残された人は一生心に傷を抱えて生きていくことになるのっ!!だから自分勝手に死んじゃダメ!』


 これは君自身の事だったんだな。


「すまない」


「いいのよ。もう何年も前のことだわ」


 そう言いつつも彼女の顔はどこか寂しそうに見えた。


「今は冒険者として稼いでるの。アタシ、結構強いのよ」


 彼女はふんすっ!っと胸を張る。


 しかし、そしたらひとつ疑問が生まれる。


「だったらなんでこんなおんぼろなところに住んでいる?強い冒険者ならもっといいとこすめるだろ」


「アタシ、少し汚くて狭いところの方が落ち着くのよね。小綺麗なのは性にあわないの」


「お前、男みたいななこと言うのな」


「うっさいわね」


 彼女は少し怒ったように唇を尖らせる。


「今日は遅いしもう寝るわよ」


 ん?家に連れてきて寝るだけならなんのために俺をお前の家まで連れてきたんだ?


「……俺もか?」


「当たり前じゃない。布団持ってくるからそこで寝なさい」



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