追放編12 命の価値

 お酒がまわり、ぼんやりした頭でフラフラと夜道を歩く。


 この酒に酔っている時間だけは何も考えなくて済む。

 殺した人の顔をフラッシュバックない。もはやぶつけるところない怒りも静まる。

 これからどうなるのだろうという漠然とした不安と消える。

 セレーネのことも、忘れられる。


 本当はセレーネに会いに行きたい。でももし、セレーネに拒絶されたら?冤罪を信じて貰えなかったら?それこそ俺は……壊れてしまうだろう。


 ふらふらと何も考えずに歩き続けてどれくらいたっただろう。


 ふと顔をあげるとそこには神秘的な景色が広がっていた。目の前には崖があり、満月の光に照らされ、その周りの景色が一層神秘的な輝きを放っていた。暗闇の中で、崖の上から広がる風景は幻想的であり、月明かりがそれを優美に彩っていた。


 俺は1歩、また1歩と崖の方に歩みを進める。


 別に自殺をしたいなどと考えていた訳じゃない。ただ、この綺麗な景色をもっと近くで見たかっただけだった。


「だめぇぇぇぇぇ!!!」


 急に後ろから叫び声が聞こえて我に返る。


 自分を現状に気づく。しかし、歩みを進めようとした足は急には止まらず、踏み出した左足は何も無いところ目掛けて落ちていきそのままバランスを崩して崖から落ちてしまう。


 もう死んでもいいかもしれない。そう思った時だった。


 リリアンが勢いよく崖から飛び降り俺をギュッと抱きつく。そのままどこに隠し持っていたのか先端に重りの着いたロープを投げて崖付近の木に縛り付ける。


 そのまま彼女に抱き抱えられる形で落下が止まる。


「……アンタの命はあなただけのものじゃない。アンタがいらないと思っても、アンタが死ぬことで残された人は一生心に傷を抱えて生きていくことになるのっ!!だから自分勝手に死んじゃダメ!」


「そんなやつもう俺には……」


 いないと言いかけて、俺は一瞬、セレーネのことが頭に浮かぶ。


「……何があったのか知らないけど少しだけお話しましょう?あなたの助けになれるかもしれないから」


 リリアンにそう言われ俺はしずかに頷く。


 俺はロープをつかみリリアンを抱き抱える形で上に引き上げる。


「ちょ、ちょっと!?」


 リリアンは動揺して少しじたばたするがしばらくするとしおらしくなった。


「ありがと」


 俺は少しぶっきらぼうに彼女に礼を言う。


「え……?」


 彼女はそう言われてキョトンとする。

 そんな彼女をチラリとみた後、俺は恥ずかしさを誤魔化すようにまた上に視線を戻す。


「死にたいと思っていた訳じゃないが、生きていたいとも思ってなかった」


 リリアンは顔を上げて俺の方を見る。何か言おうとして口を開けるも、何かを躊躇うようにしてすぐに口を閉じてしまう。


「俺にもいるのかな。死んだら悲しんでくれる人が」


 俺のつぶやきに反応してリリアンは微笑む。


「いるわよ。きっとね」

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