追放編11 赤髪のリリアン
ここはエンプレイヤの隣国、ステイツァールの中の田舎町にある小さな酒屋。
その建物は年月の風雨に耐え、薄汚れている。中にはブスッとした表情をした店主が立ち、静かな酒の香りが漂う。
俺はそこで今日も酔い潰れていた。
裏路地での事件の後、俺はなんとかこの隣国に逃げてきた。
何人もの兵士を押し除けて、斬りつけて、もしかしたら誰かを殺してしまったかも知れない。
いや、自分を誤魔化すのはやめよう。俺は人を殺した。少なくとも3人は確実に殺した。魔物を殺したことは何度も何度もあったが、人を殺したのはその時が初めてだ。
あれから何日経ったのか、自分にもわからない。
人を殺してしまったことによって生じた罪悪感をを酒で溶かそうとするが、心の闇はますます深まるばかりだった。
「……もっと強い酒をくれ」
空になった木のコップをコツンと机に置いて俺は財布代わりの袋から適当にお金を取り出し、机におく。
「これ以上強い酒はない。兄ちゃん毎日ここきてはボロボロになるまで飲んでるけどよ、あんた本当に死んじまうぜ?」
店主は表情を変えずに俺にそう言う。
「……それもありかもしれないな」
そんなことをつぶやしていると、坂場の扉がギーッと開き、1人の少女が、入ってくる。
赤く煌めくショートヘアが軽やかに揺れ、黒いスカートが彼女の美しい脚を際立たせる。
鋭い黄色い瞳で一瞬こっちを見ると、俺から少し離れたところに座る。
ここにきてから何度か彼女をみたが、話はことは一度もない。
俺は構わず店主に注文を繰り返す。
「さっきの酒でいい。それを飲んだら帰る」
店主は黙って酒をつぎ、俺に渡す。
俺がその酒を飲もうとした時、不意に赤い髪の少女から声をかけられる。
「ねえ、アンタ。毎日ここにきてるの?」
俺はその言葉を無視して、コップの酒を半分飲み干す。
「ねえ、無視するんじゃないわよ。アタシはリリアン、アンタは?」
「……人殺しの犯罪者だ」
俺はコップの酒を全て飲み干し、静かに机におく。
「ご馳走様」
そう言って店を出ようとする。
「待ちなさいよ!ちょっと話しましょう?ほら、赤ワインご馳走してあげるから」
赤ワインと言う言葉を少女から聞き、数週間前に起きたことについて思い出す。
そうだ、そういえば俺はあの酒を飲んでから眠くなった、らあれは確か、アラゴンからもらった――
いや、もうどうでもいい、何も考えなくない。
あの状況ではきっとセレーネも俺の事を信じてくれないだろう。俺は何もかも失ったんだ。
「赤ワインは嫌いだ。俺に関わるな」
彼女……リリアンの方を見ずにそう言い、酒場を出る。
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