追放編5 変わってしまった

 フルードを殺す。そのために力をつけてきた。そのために生きてきた。


 それでもまだ足りない。こんな程度の力ではまだフルードには届かない。


「俺は、間違ってないよな.....父さん.....」



『いいか、エルリック!力は――』


 ふと、最後に聞いた父さんの声が頭によぎる。


 あれ.....父さんは最後になんて言ってたんだっけ.....思い出せない.....


『いいか坊主、覚えておけ!本当の強さとはこの世の全てを破壊する力のことだっ!全ての生物を殺す、そのための強さだ!』


 フルードに言われたことはすぐに思い出せるのに.....どうして.....


「力は自分のためじゃなくて誰かのために使え」


 ふと声が聞こえて振り返ると、そこには柔らかく笑っているセレーネが立っていた。


「あなたのお父様が最後に残した言葉です」


「.....そうだったな」


 セレーネは俺に近ずき俺の両手を包み込むようにして握る。


「今のあなたはどうです?なんのために戦っているんですか?」


「俺は、みんなを護るために――」


「嘘をおっしゃい。復讐のためでしょう」


 俺が言い終わる前に、セレーネにそう言われる。


「先程、戦っている時のエルリックが一瞬、フルードと重なって見えたのです」


 セレーネは俺を真っ直ぐ見つめてはっきりとした口調で語りかけてくる。


「このままではきっと、あなたもフルードのような戦うことしか考えられない怪物になってしまいます。それは絶対に嫌です」


「俺が、フルードに.....よせよ」


 俺はセレーネの手を払って彼女に背を向ける。


「お願いです!!」


 セレーネがいつになく取り乱して、俺に後ろから抱きつく。


「私、頑張りますから.....何でもしますから.....お願いです。昔の優しかったあなたに.....戻ってください.....」


 彼女は涙ぐんだ声で俺にそう言う。


 俺はどうすることも出来ずにただ黙っていることしか出来なかった。




 その後、しばらくしてから俺はアラゴンが用意してくれた騎士団の寮に帰っていた。


 バタン、とベットに倒れ込みセレーネに言われたことを思い出す。


『昔の優しかったあなたに.....戻ってください.....』


「俺自身は、変わったつもりなんてなかったんだけどな.....」


 コンコン


 急に窓がノックされて俺は現実に引き戻される。ここはそんなに低いかいでは階ではない。こんなことが出来るやつは.....


「セレーネか」


 俺はため息をつきながら窓の方に向かう。


 窓を開けるとそこにはモコモコのパジャマ姿のセレーネがいた。浮遊魔法でふわふわと器用に浮いている。


「寒いです。早く入れてください」

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