第111話 魔王国侵入

 四日間の順調な船旅の後、僕達は魔王国へと到着した。事前の情報通り、自分達が最強だと思っている魔人達は見張りを立てることもなく、簡単に島へと入ることができた。


 魔王国はそれほど大きくない。島の中心に城下町があって、さらにその中心に魔王城がある。城下町には普通に魔人達が暮らしているので、その魔人達とは戦いたくない。ということで、僕が囮となって騒ぎを起こしてその隙に四人が魔王城に侵入するという作戦を立てた。

 僕が城下町の北側で騒ぎを起こし、南門から一気に魔王城まで駆け抜けてもらう。僕だけなら逃げることも、その後、転移を使って合流することも簡単だからね。


 あらかじめ決めておいた位置についたところで、僕は北門に向かって地魔法SSランクの隕石落下メテオストライクを放った。ようく考えたら、地魔法のSSクラスを放つのは初めてかも。


「それじゃあ行こうか! 隕石落下メテオストライク!」


 僕がSSランクの魔法を唱えると遙か上空に、巨大な隕石が浮かび上がる。何だか、思ったよりも大きい。ちょっと嫌な予感がしたので、防御壁ではなく大分手前に着弾するように調整する。


 隕石が街に近づくにつれ、城下町の魔人達の騒ぎが大きくなる。隕石を指さして大きな声を出すもの、少しでも遠くに逃げようと走り出すもの、隕石を撃ち落とそうとしているのか魔法を放つものなどがいた。


 ドッゴォォォォォォォォォン!!


 魔人達の魔法も虚しく、この世のものとは思えない衝突音と大爆発が起こり、隕石が落下した。半径五キロメートルはありそうなクレータができ、防御壁を巻き込んでちょっぴり街も壊れている。これはもしかしなくてもやり過ぎたかもしれない……


 魔王国は大混乱に陥り、魔人達が右往左往している姿を横目に僕は空間転移で魔王城の前へと移動し、勇者一行と合流した。



~side シリル~


「ああ? 何だ今の衝撃は? それに随分と外が騒がしいようだが何があった?」


 オレサマはこの騒ぎの原因を知るために老いた魔人の牢番に聞く。だが、その牢番も何が起こったのかわかっていないようだっだ。


「丁度いいタイミングかもかもな」


「ん? それはどういう……!?」


 オレサマは牢番の話は聞かずに、手錠を引きちぎる。唖然とする牢番を尻目に、檻を力任せにひん曲げて空いた隙間から外に出る。ゆっくりと牢番に近づき、怯えるそいつの胸に手刀を突き刺した。

 口をパクパクさせながら、オレサマの顔と自分の胸とを交互に見る年老いた牢番。オレサマがてを引き抜くとその場に崩れ落ちた。どうせこいつを喰らっても大したパワーアップはしないだろうが、いかんせん一ヶ月以上魔人を喰ってない。我慢できずにオレサマは年老いた魔人にかぶりついた。


「くぅ、うめぇぜ。パワーアップはしなかったがそれは後でのお楽しみにとっておくとするか」


 オレサマは地下にあった牢獄から地上へと出て、辺りの状況を確認する。どうやら、北の門に魔法を放ったバカがいるみたいだ。この魔王国にケンカを売るとは頭がおかしいのかね?

 だが、そいつのおかげで街は大混乱している。おかげで、こうしてオレサマも自由に動けているのだから、一応そいつには感謝しておくか。


 力のある魔人達が北へと向かっている中、オレサマは魔王城を目指した。この混乱に乗じて魔王城に侵入できれば、幹部のヤツらに会えるかもしれないからな。そしたら、そいつらを喰って……考えただけでよだれが止まらねぇ


 それに、何やら魔王城から魔力の高まりが感じられる。ひょっとしたら魔王の誕生が近いのかもしれねぇな。上手くいけば、誕生したての魔王を……


 オレサマは今だ混乱が続く城下町を見ながら、『思ったよりも侵入者がやり手だったのかもな』なんて考えつつ、魔王城への侵入を果たした。



~side ミア~


 カルバチアから仲間の船で魔王国へと向かうこと四日、私はついに魔王国へとたどり着いた。仲間の情報では城下町にシリルが入っていったのは確実だけど、その後一ヶ月以上特に城下町で大きな動きはなかったみたい。私は勇者達より早く魔王国に着いたので、城下町の偵察を行うことにした。


「さすがに簡単に城下町には入れないか」


 島に上陸するのは簡単だったが、さすがに城下町に入るにはそれなりに準備が必要だ。城下町には魔人しかいないので、人族の私は目立っちゃう。ここは当初の予定通り、勇者達が来るのを待ってから行動に移すとしよう。


 城下町の近くに身を潜め、食事をとったり、武器の手入れをしながら勇者の登場を待つ。少し時間があったので、シリルをどう倒すかイメージトレーニングもしておいた。そのためには、できるだけ素早くシリルを見つけなければならない。上手くいくだろうか……いや、弱気になっちゃいけない。絶対に見つけて、ライトの無念を晴らすのだ。


 私は私の心を満たすどす黒い何かに身を任せ、静かに闘志を燃やすのであった。


 そして、待つこと数時間、ついにその時がやってきた。勇者達が島へと上陸したのだ。遠目から見ていると、勇者達は一人と四人に分かれたみたい。これは私達もよくやる手ね。一人が陽動役で、その間に四人が潜入する。


 案の定、一人が北側に回り残りが南側で待機している。よし、この陽動作戦に私も乗らせてもらおう。


(タイミングを見計らって、防御壁を乗り越えて……何あれ?)


 西側の防御壁の近くで身を潜めていた私は、突如北側に現れた巨大な隕石を見てその場に尻餅をついてしまった。それもそのはず、遙か上空にあるはずなのにはっきりと肉眼で見えるその大きさ。あんなものが街の真ん中に落ちてきたら、この小さな街など消し飛んでしまうかもしれない。


 一瞬、逃げだそうかという考えが頭をよぎったけど、あれが勇者達の陽動なら町を破壊するということはないと思い直し、何とか踏みとどまった。っていうか、あんなもの創り出せるのなら陽動いらなくない!?


 その巨大な隕石は街を外れて落ちたようだけど、あまりの衝撃にまた尻餅をついてしまった。街の北側には大量の土煙が舞ってよく見えない。とんでもない威力の魔法だってことはわかるけど、今はそんなことを考えている場合ではない。

 視界が悪い上に魔人達は大混乱に陥っている。このチャンスを逃すわけにはいかない。私は手薄になった西側の防御壁を乗り越え、街への侵入を果たした。


 しかし、侵入するには役に立った視界の悪さだが、シリルを探すのには邪魔でしかない。仕方がないのでとりあえず中心にある魔王城へと向かった。シリルが魔人を殺したのかもしれないという情報があったから、ひょっとして魔王を倒して自分が魔王にでもなるつもりなんじゃないかと思ったから。


 結果的に私の予想は正しかった。私と同じように混乱に乗じて魔王城に入る人影を見つけたのだ。魔人になっても面影が残っていた。あれは絶対にシリルだ。


 私は逸る気持ちを抑えて、慎重に、気づかれないようにシリルの後を追うのだった。

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