第110話 魔王国目指して出航

 ショウタ達勇者の案内で、稲が見つかったという洞窟へと向かう。そこは、馬車を停めてから二時間ほどの場所で、小さな滝の裏が入り口となっていた。そりゃ、見つからないわけだ。


 こんなところ、どうやって見つけたのか聞いたら、ゲーム好きなショウタが『滝の裏が怪しい!』って、勝手に見に行ったのだとか。それで稲が見つかったんだならファインプレーだよ。


 結界魔法で水を遮り、濡れないように洞窟へと入る。せっかくだから、精霊達も出しておこう。賑やかな方が楽しいし、サラダがいるとそれだけで明るいからね。

 それを見てショウタもノームのヒロシを召喚したようだ。すぐに僕の肩の上によじ登ってきたけど。


 洞窟の中は一本道で、特に迷うことはなかった。魔物はおらず、小動物を時折見かけるくらいだ。地下迷宮ダンジョンのように危険はないみたいだから、のんびり冒険を楽しんでいる。


 途中休憩をはさみながら、洞窟の中を歩くこと数時間、小さく開けた空間に出た。真ん中にはまるく浅い池のようなものがあり、そこに数十本の稲が生えていた。


「おお! 本当に稲が生えている!」


 僕は小さな池に近寄り、稲を手に取り確認した。


「でしょでしょ! これでお米が食べられるのかな?」


 カオリさんが僕の横にやってきて、一緒に稲を眺めながら肩を寄せてきた。あまりに近くてくっつきそうになったので、十センチメートルくらい空間転移して距離をとる。

 それから、稲の状態を確認して半分ほど頂戴することにした。何本か使って、本当にお米が採れるのか試してみて、残りは栽培用にとっておこう。ついでに、池の底に溜まっている泥も持っていって、似たような環境を作らないとね。


 僕はポーションの空容器を取り出し、池の底の泥を入れる。それを魔法の袋マジックバッグに入れて、みんなに目的を果たしたことを告げた。


「それじゃあ、帰ろうか」


 精霊達を還した後。僕等四人は輪になって手をつなぎ空間転移でレイの待つ馬車の元へとワープした。




▽▽▽




「それで、上手くいったのか?」


 無事に馬車の元へと転移した僕等に、レイが声をかけてくる。僕が洞窟での出来事を伝えたら、レイもぜひお米料理を食べてみたいと言ってくれた。みんなに料理を振る舞うのは、稲の栽培に成功してからになりそうだからその時まで楽しみに待っててほしいと伝える。

 それを聞いた勇者達も、ぜひその時は自分達も食べたいと騒ぎだし、カオリさんが稲の栽培を手伝うと言い出したもんだから魔王を無事倒し終えたら、みんなで稲の栽培に取り組むことになってしまった。


「おいお前ら、お米の話はそれくらいにしてさっさと出発するぞ」


 いつまでも終わらないお米談義にあきれ顔をしながら、レイが先に進もうと促してくる。危ない危ない、本来の目的を忘れるところだった。僕等は場所を馬車の中に移し、お米が採れるようになったらどんな料理を作るので盛り上がりながら、カルバチアへと向かった。




▽▽▽




 尽きないお米料理談義のおかげで、カルバチアまでの道のりはあっという間だった。


 神聖国家セイクレイドから事前に連絡があったからだろう、丁寧な対応を受けて街の中に入った僕等は、まず冒険者ギルドへと向かう。


「いやー、セイクレイドから連絡が来てから、首を長くしてお待ちしておりましたよ、勇者様! それにライト様もお久しぶりでございます。ライト様が登録された魔物料理はそれはそれは人気で! あっ、申し遅れました、私の名前はコンラットといいます。カルバチア冒険者ギルドのギルドマスターを務めさせていただいております!」


 以前よりも、数倍速い高速もみ手で出迎えてくれたギルドマスターのコンラッドさん。まさか、また何かクエストを押しつけてくるんじゃないだろうね?


「確か、魔王国へ渡る船を探しているとか。はい、それはもう全力で用意させていただきましたよ! 準備もできておりますので、すぐにでも出発できますよ! それでついでといっては何ですが、いえ、勇者様であればあーっという間に終わらせてしまえるような、簡単なクエストがございまして……」


 きた、案の定クエストを持ってきたぞ。どれどれ、魔王国にしか棲息しないキングクラウディアの肉の納品だって。いやいや、キングクラウディアってAランクの魔物だよね。魔王討伐のついでに狩ってくるような魔物じゃないでしょ!


 ただ、人のいい勇者達はコンラッドさんの勢いに押されて、このクエストを受けることにしたようだ。僕は勇者達の決定には口出ししなかった。うん、何ていったって彼らを見守る立場だからね。

 レイも呆れ顔をしているけど、僕と同じように何も言わなかった。


 勇者達にクエストを受けさせて満足げなコンラッドさんは、すぐに上機嫌で港へと案内してくれた。移動の間もずうっと喋りっぱなしで、疲れないのかなこの人。


 しかし、厚かましいギルドマスターではあるが約束はきっちり守るようで、商業ギルド所属の一流の船乗りと、立派な船が僕達を待ち受けていた。

 以前、コジローさんと海賊を倒して以来、船での商売も順調なのだとか。商業ギルドのみなさんからも、改めてお礼を言われて嬉しくなってしまった。


 ここから魔王国までは順調にいって四日間くらいかかるらしい。ここに来るまでに買い物を済ませているから、すぐに出発して船の中で少し休ませてもらおうか。五人で船に乗り込み、コンラッドさんの見送りの元、魔王国目指して出航した。

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