第109話 閑話 ミアの執念
ゴルゴンティアで武器を新調した私は、その後のレベル上げを死ぬ気で頑張った。新しく手に入れたオリハルコンの短剣はそれはもう素晴らしいできで、明らかに私は一回り強くなることができた。
各上相手にもダメージが普通に通るようになり、レベル上げもすごく捗る。これはこの短剣を創ってくれたガスティンさんのお弟子さんに感謝だね。この短剣があれば、あの魔人相手でも戦えそうだわ。
それに、暗殺ギルドのみんながレベル上げの手伝いを買って出てくれた。私の個人的な復讐なのに、魔人を放っておくのは危ないって理由をつけて助けてくれたのだ。
おかげで、レベルを90まで上げることができたわ。武器、仲間、師匠。このどれかが欠けても達成できなかったと思う。
このレベルと武器があれば、魔人にだって遅れはとらない。そう確信した私は、いよいよシリルに引導を渡すために旅立つことにした。
仲間の情報によって、シリルが魔人に変化したことがわかっている。シリルが拠点としていた洞窟から出てきた時、魔人の姿をしていたそうだ。
それに、おそらく洞窟の中で私を追い払った魔人を倒したのだと思う。シリルが出て行った後、洞窟の中はもぬけの殻になっていたみたいだから。
少なくともシリルは私と師匠を追い払った魔人より強い。でも、今の私もあの魔人になら勝てる気がする。そして私は暗殺者。真正面からは敵わなくても、殺す方法はいくらでもある。今度は絶対に失敗しない。
今、シリルは魔王国にいるらしい。なぜ、わざわざ魔王国に向かったのかはわからないけど、まだそこにいるのは間違いない。
魔王国は魔人たちの住処だ。普通に考えたら侵入するのは不可能に近い。実際、私の仲間も魔王国の中には入れない。せいぜい、遠くから監視するのが精一杯だ。
だけど、今ならいける。なぜなら、神聖国家が召喚した勇者達が魔王討伐に乗り出したのだ。勇者達は、おともを連れてカルバチアを目指しているみたい。
その情報を掴んだ私はひとりカルバチアへと向かった。
▽▽▽
カルバチアに向かう途中、勇者達一行を見つけたという情報を入手した。とくに姿を隠すわけでもなく、馬車でガルバチアへと向かっているそうだ。
情報をくれた仲間に案内してもらい、遠目で勇者一行を確認できた。事前の情報だと、勇者は三人って聞いていたんだけど、なぜか五人いた。
しかも、姿格好から前衛一人の後衛四人に見える。ふざけてるのかしら? それとも私の見間違い?
でも、何度見直しても前衛一人に後衛四人にしか見えない。うん、もうこれでいいや。どうせ彼等には、私が忍び込むまでの陽動役になってもらえばいいだけだから。
それにしても、あの人達は何をもたもたしてるのかしら? もうすぐ魔王が誕生するというのに、あんなところに馬車を停めてひとりを残してどこかに行ってしまった。
今急げば魔王に誕生を阻止することができるかもしれないし、そうでなくても誕生したばかりの魔王ならそれほど戦闘力が高くないかもしれない。いずれにせよ、急いだ方がいいにきまっているのに何をしているんだろう?
私はどちらを見張ろうか迷ったけど、馬車を置いてカルバチアに行くとは思えないから、馬車を見張ることにした。馬車には魔導師風の男がひとり残っている。かなりの使い手に見えるけど、こちらに気がついている様子はないから私もこのままここで休憩させてもらおう。
それからほぼ丸一日経過したところで、四人が戻ってきた。何やらとっても嬉しそうにしているけど、さすがにこの距離では詳しいことはわからない。魔王討伐より大切なことがあるとは思えないけど、ひょっとしたら魔王を倒すために必要な何かをとってきたのだろうか?
うん、気にしていても仕方ないね。みんなそろったことでようやく動き出したから、このままカルバチアまでご一緒させてもらおう。船は仲間が手配してくれているから、一足先に魔王国に向かって彼らが来るのを待つとしようかな。そして、魔王国でシリルを探して……殺す。
今度こそ、確実に殺す。
もし彼が魔王城にいるならば、彼らが魔王城に侵入するタイミングを見計らって私も忍び込ませてもらおう
私は勇者達一行の馬車の後を追いながら、あらゆるトラブルにも対応できるように、頭の中で様々なパターンを想像するのだった。
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