第108話 閑話 シリルのその後⑤
魔人を喰ってパワーアップしたオレサマは、有り余る力を見せつけるがごとく人間や獣人達を襲ってやった。だが、いくら人間や獣人達を喰ってもオレサマの力にはならなかった。所詮、ヤツらは雑魚だということか。
そこでオレサマはさらなるパワーアップのために、他の魔人を探すことにした。確かドルドが言ってたな、本当の理由がどうとか。まずは魔族を探し出して、その本当の理由とやらを聞くとするか。
オレサマはいつの間にか背中に生えていた真っ黒な翼をはためかせて、魔王国目指して飛び立った。
▽▽▽
魔王国へは海を渡らなきゃならねぇ。魔人となったオレサマならひとっ飛びで行けるだろうが、その前に休憩は必要だ。確か港町カルバチアが一番魔王国に近い街だったな。とりあえず、そっち目指して飛んでいくか。
オレサマは人目を気にせず自由に空を飛んでいく。今までにない開放感に気分が高まるぜ。時折、こっちを指さしながら叫んでる商人一行を見つけては、襲いかかって喰い散らかしてやった。
そう言えば、どこぞの商隊を襲わせたときに馬車から飛び出していったガキがいたな。あの顔、よくよく考えてみたらどっかで見たことあるんだが……思い出せねぇ。それより、あの顔を思い出したらイラついて来たぜ。
オレサマは湧き上がるイライラをその辺の魔物にぶつけ、再びカルバチア目指して飛び立った。もちろん目につく生き物は全て殺しながら。
オレサマの翼は思ったよりも頑強にできていたようで、まる二日間ほど飛び続けても問題ないくらいだった。これなら海を渡って魔王国までたどり着けそうだな。だが、さすがのオレサマも何人もの魔人に一度にかかってこられたら勝てないかもしれない。癪ではあるが、カルバチアに近づいたら身を隠してこっそり魔王国に近づかなくてはならないな。
オレサマはカルバチア近くに洞窟を見つけ、そこでしばらく休憩した後、夜暗くなってからひっそりと海へと飛び出した。上手くいけば二日後の夜に魔王国に着くだろう。夜の闇に紛れて、ひっそりと侵入しひとりでいる魔人のを見つけて……ウヒヒ、よだれが止まらないぜ。
オレサマはドルドの血の味を思い出しながら、ひたすら魔王国目指して飛んでいった。
▽▽▽
「ここが魔王国か。美味しそうな匂いがぷんぷんするぜ」
予定通りまる二日間飛び続けたオレサマは、夜の闇に紛れて魔王国への侵入を果たした。ここ魔王国はその名の通り、魔王が統治する国だ。とはいえ、現在魔王は不在のはずだ。あー、百年だが二百年前に勇者に倒されたとか何とか習った気がする。まあ、どっちでもいい。旨い魔人さえがいれば問題ない。
魔王国は街がひとつしかない。魔王城を中心とした城下町だ。何とかそこに入り込み、魔人をひとりづつ……
魔王国の城下町は意外にも警戒が緩かった。それもそのはずか、魔族は自分達のことを最強の種族だと思っている。そんなヤツらが外敵を警戒するはずもない。この街に住んでいる魔族全員が、並の冒険者なら簡単に葬れるほどの力を持っているからな。
魔族の姿をしていりゃ声さえかけられない入り口から堂々と入り、まるで散歩をするかのように辺りをぶらぶら歩き回って街の状況を確認する。夜とはいえ、そこら中に魔人達がうろうろしていて危うくむしゃぶりつきそうになっちまった。危ない危ない。さすがにここで騒ぎを起こせばオレサマとて無事では済まないだろう。
一通り城下町を見回ったオレサマは、ひとりの魔族に狙いを定め後をつけることにした。おそらく、城下町の見回りをしている兵士のような役割を負っていると思われる。かなり強そうなオーラを纏っている。ヤツを喰えればオレサマはもっとパワーアップできるだろう。
「よう同士よ」
オレサマはこの外見を利用して、仲間の振りをして近づく。
「見ない顔だな。こんな時間にところで声をかけて来るとはまともじゃないと判断する」
さすがに無警戒で相手してくれるわけはなかったか。だがそんなことはどうでもいい。オレサマの前にひとりで現れたのが運の尽き。このオレサマの糧になってもらおうか。
オレサマはいきなり攻撃されないようにゆらりと動き出し、対応に迷っている魔人目がけて右手に作りだした黒剣を突き出した。
ガキィィィ!
だが、相手もさすが魔人の国の衛兵らしき存在、オレサマの不意打ちにきっちり反応し、いつの間にか手にした黒い槍でオレサマの剣を防いでいた。が、それも想定内。
「ハッ!」
片手で剣を持つオレサマと両手で槍を持つ衛兵。オレサマは空いた左手をヤツの心臓目がけて突き出した。
「グハァ!」
衛兵の胸に突き刺さるオレサマの左手。その先はがっちり心臓を掴んでいる。それをゆっくりと引き抜いていく。
「グァァァァァ!」
苦痛に歪む魔人の顔。ああ、いい。強者の顔が絶望に沈む姿はそそられる。これからの食事のいいスパイスになりそうだ。
すぐに左手にある心臓を喰いたいところだが、こいつは一番旨いからな。最後にとっておくことにしよう。その前に、目の前に倒れている身体をいただくか。
「ふう、ごちそうさま……って、おや? ちょっと食事に夢中になりすぎたか?」
オレサマが衛兵を喰い終わったところで周りを見てみると、何と魔人達に囲まれてしまっていた。
「き、貴様!? 一体何をしているのかわかってるのか!?」
先ほど喰った魔人よりもう少し若そうな魔人が大声を上げる。うん、こいつも喰ってやろうかな。オレサマは他の魔人達には目もくれず、若い魔人に飛びかかった。
「ギャァァァァ」
右手を食い千切られ若い魔人が叫び声を上げた。途端に四方八方から腕が伸びてきて、オレサマを引き剥がしにかかる。忘れてた。オレサマは魔人達に囲まれているんだった。
「まて、まだ喰い終わっていない!」
まだ右腕しか喰ってないのに引き剥がされてしまったが、さすがのオレサマも何人もの魔人に取り押さえられては身動きができなくなってしまう。うぉぉぉ、喰いたい。もっと喰いたい!
他のことを考えられなくなったオレサマは、暴れに暴れたが続々と集まってきた魔人達に取り押さえられ、結局牢屋へと入れられてしまった。
だが、牢屋でしばらく大人しくしているとさっき喰った衛兵の血がなじんできたのか、再びパワーアップしたようだ。力が溢れてきやがる。この手にはめられた枷なんぞ簡単に壊せそうだ。
だが、今それをやると次侵入するのが面倒になりそうだ。すぐにオレサマを殺す気はなさそうだから、しばらくここでやっかいになるか。ここにいりゃ、魔族の目的とやらもわかるだろう。動くのはそれからでも遅くはない。
オレサマは牢屋の中で食欲をぐっと我慢しながら、時が満ちるのを待つことにした。
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