第105話 亡者の墓④

「さーて、おいらの相手をする残念なヤツはどいつかな?」


 イフリートとなったサラダが、口からチロチロと炎を出しながら舌なめずりをする。精霊達は、僕達の魔法と違って決まった形があるわけではなく、自分の属性を自由自在に操ることができる。


「いけ! ふぇにたん!」


 サラダは目の前に火の鳥を創りだし、ワイバーンゾンビへと突撃させる。ちなみに、ふぇにたんとはサラダが火の鳥につけた名前だ。

 サラダが創りだしたふぇにたんは、その可愛らしい名前とは裏腹に強力な殺傷能力を秘めている。ワイバーンゾンビは猛スピードで飛来する火の鳥を躱しきれずに、その身で受けた。


 ゴゥゥ!


 ふぇにたんが衝突したワイバーンゾンビは巨大な火柱に包まれ、真っ黒になって崩れ落ちてしまった。さらに辺りを見回すと、細切れになったワイバーンゾンビが二体、地面から突き出した槍に串刺しになっているもの、氷の塊に閉じ込められたもの、そして大きな木と融合してしまっているものが目に入った。

 僕が召喚した精霊達はあっという間にワイバーンゾンビを倒してくれたようだ。


「さあ、後はドラゴンゾンビだけですよ! みんなで集中攻撃だ!」


 再び、ドラゴンゾンビ一体になったところで勇者達に声をかけたんだけど、なぜかみんな武器を下ろしぼけーっと精霊達を見つめていた。


「僕もあっちにいきたいな……」

「ヒロシ……」


 ショウタが召喚したノームの切ない呟きに、ショウタが寂しそうな表情を見せる。というか、あのノームの名前『ヒロシ』っていうんだ。どういう意味なんだろう?


 っと、ドラゴンゾンビはこちらの事情など知らずといった感じで吠えている。自分が召喚した眷属があっという間に倒されて怒っているようだ。闇の鎧を纏いこちらへと突っ込んでくる。


「ショウタ! 強化魔法をかけるよ!」


 精霊を召喚したことだし、ついでに強化魔法も使っちゃおう。僕の支援魔導師のランクはSS。四つの強化魔法を重ね掛けできるのだ。ショウタに攻撃力上昇、防御力上昇、敏捷上昇、聖属性を付与する。おっと、聖属性が付与できるのは僕が聖魔法を使えるからだった。普通の支援魔導師には使えない。そう考えると、ミコが強化魔法を使えてよかった。彼女なら五大属性を付与できるようになるだろうから。


「なっ!? これは力が!? みなぎる!?」


 強化魔法のレベルが30になると上昇率は二倍になるからね。これでドラゴンゾンビにも勝てるだろう。


 ショウタは急にステータスが二倍になって戸惑っているみたいだったが、そこはさすが勇者。すぐに動きになれて、ドラゴンゾンビを翻弄し始めた。

 続けて僕はミコに魔法攻撃力上昇の強化魔法をかける。


「何これ!? いつものより全然すごいんですけど!?」


 ミコが作りだした火の玉ファイアーボールがいつもの二倍の大きさに膨れ上がっている。その火の玉ファイアーボールをショウタがドラゴンゾンビから離れた瞬間を狙って撃ち出した。


 ドゴォォォォン!


 見事ドラゴンゾンビの顔に命中した火の玉ファイアーボールが大爆発を起こし、ドラゴンゾンビの顔をのけぞらせた。


「これでぇぇぇ、終わりだぁぁぁぁぁ!!」


 無防備に晒された喉元にショウタの剣が食い込み、そのまま首を切り落とした。


 ズゥゥゥゥン


 さしものドラゴンゾンビも首を斬られては動くこと叶わず、地面に崩れ落ちた後、魔石と頭蓋骨を残して地下迷宮ダンジョンに吸収されていった。




 ドラゴンゾンビを倒した僕達は、転移石が置いてある部屋へと移動しまずは四十階層の転移石に魔力を登録した。その間、ショウタが召喚したノームのヒロシは僕の肩の上によじ登り、うっとりとした様子で他の精霊達と一緒に僕の魔力を楽しんでいるみたいだった。


「おい、ヒロシ。戻ってきておくれよ……」


 そんなヒロシにショウタが泣きそうな顔で情けない声をかける。


「……もう少しだけここにいる」


 精霊魔法は契約だから、最終的にヒロシはショウタの命令には従わなくてはならないが、お願いであれば多少のわがままが許されるようだ。じゃなくて、戻ってあげてよ。ショウタがかわいそうになったので、また機会があれば僕の魔力でよければいつでも提供することを約束して、ヒロシをショウタの元に戻らせた。


「それにしても、ライト殿はいつの間に精霊魔法と強化魔法を使えるようになっていたでござるか?」


 そういえば、精霊魔法も強化魔法もコジローさんと別れてから本格的に練習したんだった。知らないのも無理ないよね。


「えーと、コジローさんと別れた後に練習しました」


 僕がコジローさんに説明したんだけど、レイ以外の周りの人達は納得できなかったみたいだ。


「いやいや、ライト君? おかしいよね? 勇者である俺達でさえダブルなのに、ライト君はいくつのジョブをもってるんだ?」


 あー、そういえば勇者達の前では結界魔法しか使っていなかったからね。うーん、今更誤魔化しても仕方がないか。今見せた分は持ってると認めてしまおう。


「えーと、隠してたわけじゃないんですが、おおっぴらに見せるものでもなかったので黙ってましたが、精霊魔導師と支援魔導師のジョブも持っています」


 僕の説明に驚く勇者達。あの無表情が売りの聖女様も珍しく眉毛をつり上げて反応している。そうだよね。結界魔法も見せてるからトリプル確定だし……あ、コジローさんの刀を打ったこともバレてるんだったかな?


 転移石の間であれこれ質問されたけど、その他のことについては上手く誤魔化しておいた。レイが『誤魔化せてねーよ!』って言って笑っていたけど、嘘だよね?


 それから、ショウタに精霊魔法をミコに強化魔法を教える約束をして四十一階層へと降りていった。

 ここから先は未知の領域だから、みんな気持ちを切り替えて真剣な顔で四十一階層へと踏み出していった。

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