第103話 亡者の墓②

 地下迷宮ダンジョン『亡者の墓』二日目。二十二階層からのスタートだ。この辺りはレベル40くらいのアンデットが多く、あっさり進むとはいかなくなっている。

 勇者達のレベルは現在30ほど。この地下迷宮ダンジョンで8つほど上がってはいるが、さすがに40台を相手にするのには時間がかかっている。

 まあ、踏破するのが目的ではないので、時間をかけてでもしっかり倒してレベルを上げてもらいたいものだ。


 今のところ時間はかかっているが、危なげなく倒しているので、僕達指導陣は準備はしているが戦闘には参加していない。この辺りになってくると、カオリさんの治癒魔法で与えられるダメージも微々たるものになっているので、光魔法で牽制しつつ、治癒と結界でサポートに回っている。こういったところは、きちんと教えを守っているので好感が持てるね。


 メインアタッカーを務めるショウタは、ミコからの強化魔法を受け三体のスケルトンナイトを相手に奮闘している。ミコはショウタの強化魔法を切らさないようにしながら、要所要所で火の玉ファイアーボール火の壁ファイアーウォールで牽制し、スケルトンナイトが後衛に向かってくるのを防いでいる。


「レイ、勇者ってこの3人しかいないのかな? もうひとり、盾役がいるともっと安定しそうなんだけどね」


「あー、少なくとも聖国にはこの3人しかいないな。他の国は知らないが、自国の最高戦力を易々とよその国に渡すとは思えないしな」


 思いついたことを言ってみたけど、確かにレイの言う通りだよね。相手が単体なら問題ないだろうけど、複数相手にこのメンバーだとちょっときつそう。魔王が正々堂々戦ってくれればいいけど……そう上手くいくとは思えない。


 とはいえ、僕は所詮雇われの身。今は勇者達のレベル上げをしっかりとサポートしなくては。


 少し時間はかかったが、3体のスケルトンナイトを倒した3人は少しの休憩をとってから、先へと進む。


「あー、このまま行くと挟み撃ちですね」


 スケルトンナイトを倒した後、しばらく進むと前方に3体、後方に4体の魔物を探知した。探知持ちは僕しかいないため、他に気がついている人はいなさそ……レイと目が合った。こいつはわかっているな。


「どうするでござるか? 後ろの魔物は我々が退治するでござるか?」


「そうした方がよさそうだね。っていうかさ、俺達ってお互いの実力を知らないままじゃない? ここらでいっちょ魔物と戦ってみて、連携を深めてみるっていうのはどうだい?」


 コジローさんの提案を受け、レイがつけ加える。確かにレイの言う通り、僕等は互いの指導しているところしか見ていない。勇者達の活躍にもよるけど、もしかしたら僕達が戦わなければならない日が来ないとは限らない。


 その時のためにお互いの力を知っておくのもいいかもね。


 ふと聖女様を見てみると、レイの言葉に無表情で頷いている。おかしいな。僕と話すときは全く反応がないのに……


「ショウタさん、前方にリッチとダークレイス2体が待ち構えています。3人で当たってください。僕達は後ろから来るダークレイス達を相手にしますので。あっ、リッチもレイスも物理攻撃は効きにくいので、ショウタさんは陽動に回ってミコさんの攻撃魔法メインで戦った方がいいですよ」


 僕は勇者達にアドバイスを入れてから、戦闘隊形を確認する。神滅を持ったコジローさんをメインアタッカーに、レイが攻撃魔法担当、聖女様が後方支援に回り、僕はその聖女様を守りつつ、いつでも結界を発動できる準備をしておく。


 しかし、この階層の魔物程度では神滅を持つコジローさんの相手になるとは思えない。ましてや、魔法攻撃力が4000を超えるレイに至っては、魔法の一撃で瞬殺できるだろうに。まあ、連携を確認するんだからその辺りはきちんと手加減すると思うけど。


 先に接敵したのは勇者達だ。僕のアドバイス通り、ショウタが前に出て魔物達の気を引き、その隙にミコが炎魔法を用意している。おそらく狙いはダークレイスの方だろう。弱いところから倒していくようだ。


 さて、勇者達の戦闘も心配だけどこちらもそろそろ始まりそうだ。折れ曲がった通路の先から出てくるのに合わせて、まずはレイが一発不意打ちをかますことになった。タイミングは探知を使える僕が教える。


「今だ!」

光の雨ライトニングレイン!」


 僕の合図に合わせてレイが使ったのは光魔法Sランクのライトニングレインだ。無数の光の矢が魔物達の頭上から降り注ぎ、跡形もなく霧散させていく。今の魔物は前方のリッチが呼び寄せた、ダークレイス4体だと思うけど……連携どこいった?


「「…………」」


 コジローさんと僕がジト目でレイを見つめる。なぜか聖女様だけ無表情のまま顔の前で手を組み、祈るようなポーズをとっている。これで顔でも赤らめてれば、恋する乙女に見えそうなもんだけど、表情がないからよくわからないな。


「てへ、やっちまった!」


 レイが僕の中にいたら絶対気持ち悪いと言ったであろう男のてへぺろを見せつけられた僕達は、心を無にして勇者達の戦いへと目を向ける。


 すでにダークレイスの1体が倒され、残るはリッチともう1体のダークレイスのみだ。しかし、リッチは割と知能が高い上位の魔物で属性攻撃を持たないショウタを無視して、ミコを狙い始めた。

 始めに放った暗黒の霧ダークミスト(睡眠)はカオリさんの精神防御マインドディフェンスと魔法防御力の高さで何とか切り抜けたけど、カオリさんの結界魔法のランクはそれほど高くないので、次にもっとランクの高い魔法を使われたら防ぎきれないかもしれない。

 それは当のカオリさんも気がついたようで、先にリッチを倒すようにショウタとミコに指示を出している。


 といっても、レイは4体同時に消滅させたけど、ダークレイスも勇者達にとっては決して無視できないレベルの魔物なわけで、リッチに狙いを定めた隙を突かれて、ダークレイスの闇の鞭ダークウィップがミコへと迫る。


「はい、これはひとつ貸しだからね」


 僕はその闇の鞭を結界魔法で受け止めた。


「あ、ありがとうございます」

「くっ、すまない!」


 僕の結界魔法に気がついたミコとショウタが、リッチから目をそらさずにお礼を言ってきた。カオリさんは、リッチの攻撃を防ぐのに手一杯で気がついていないようだ。


「この階層で少し、レベルとスキルを上げた方がよさそうですね」

「そうでござるな。ステータスでは負けてないでござるが、スキルで後れをとってるでござる」

「同感だな。ここなら格上だから上がりも早いだろう」


 僕とコジローさんとレイの意見が一致した。しばらくはこの階に留まることになりそうだ。えっ? 聖女様の意見? 無表情で頷いているから問題ないでしょ。


 この後、勇者達は何とかリッチを倒したところでミコの魔力が尽きたため、コジローさんが先ほどの鬱憤を晴らすかのように、ダークレイスを一刀のもとに斬り捨て戦いを終わらせた。


 そして、休憩がてら先ほどの戦いの反省会を行い、しばらくこの階層でレベル上げに励むことを伝えた。


 結局、この階層で2日間戦い続け、3人ともレベル40になったところで次の階層へと進むことになった。

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