第100話 指導者試験

「それで、レイは転生してからどんな生活をしてたんだい?」


 ひとしきりレイの転生を喜んだ僕は、今度はレイのその後について知りたくなったので聞いてみたい。

 レイは今の身体の持ち主だった、レイモンドが喉に何かを詰まらせて死んだ瞬間に転生したらしい。

 彼の記憶はうっすらとしか残っていないみたいで、取り繕うのが大変だったとか。ただ、レイモンドは相当嫌われ者だったようで、ちょっとお行儀良くしたら評価が爆上がりだったのがよかったそうだ。


 それから、今度は僕がレイがいなくなってからの話をした。鍛治師を極めたこと。ついでに付与師も極めたことを。


 それを聞いたレイは素直に喜んでくれた。そうだよね。こういういいところもあったよね。時折みられた、レイの優しさを思い出し再びほっこりした気分になっていた僕に、レイは耳元でこんなことを呟いた。


「俺はこっちにきてから、すでに経験済みだぜ!」


 おぉぉぉぉい!? なんてことを言い出すんだ!? 経験済みだどぉぉぉ!? うらやま……けしからん!

 クソ! 勝ち誇った顔が憎たらしい!


 そんな話題に付き合う気がない僕は、レイに勇者について尋ねた。そしたら脳内……じゃない、リアルエロ賢者は勇者指導に一緒に参加すれと言い出した。

 確かに精霊術とか結界魔法とかは教えられるし、異世界の料理にも興味があるから学者にジョブチェンジしたし……うん、断る理由がないねこれ。


 結局、レイが口利きしてくれるということで、勇者達の指導をお手伝いすることにした。そしてこの日は、時間が許す限りレイと語り合って、久しぶりに翻弄されながらも楽しい時間を過ごすことができた。




▽▽▽




 翌日、レイが口利きした結果か、教皇の使いが僕の泊まっている宿にやって来て、再び城に来るよう言ってきた。


 あらかじめ準備しておいた僕は、すぐに昨日と同じ道を辿り城へと到着する。今回は昨日の謁見間ではなく、城の中庭にある訓練場に案内された。

 どうやらここで、僕の力が試されるようだ。さすがに、レイの口利きだけですぐ採用となるわけではないか。


 レイが教皇様に口利きしたのは、結界師としての僕だったので、とりあえず白魔導であり結界師でもあるカオリの指導者になり得るかの試験らしい。試験方法は至って簡単。それぞれの指導者達の攻撃を防げるかどうかだそうだ。

 うん? 至って簡単? 聖女さんは参加しないとして、コジローさんとレイの攻撃を防ぐって普通の人には無理なのでは?


 一言もの申そうかとも思ったけど、何だか二人ともやる気みたいだし、僕ならできると思うからとりあえず受けてみるか。


 さすがにコジローさんは神滅は使わずに、今まで使っていた刀を構える。その後ろでレイがニコニコしながら杖を構えている。あのエロ賢者め、随分楽しそうだな。きちんと前衛と後衛に別れているところに悪意を感じるぞ。


「では、いくでござるよ!」


 レイの魔法を警戒していると、コジローさんが一声かけてから突っ込んできた。全く、この人は相変わらず正々堂々なんだね。


 腰に差している剣をまだ抜いていないということは、抜刀術を使う気だね。 Sランクのコジローさんの動きは素早いが、今の僕にとってはそれほどでもない。かといって、結界師の試験なのに躱してしまっては本末転倒だろう。僕はコジローさんの一振りに合わせて結界を一枚張る。


「抜刀術・速!」

物理防御フィジカルディフェンス


 コジローさんの刀が僕の結界に当たり、金属音を響かせる。しかし、コジローさんの攻撃力では僕の結界を砕くのは無理だったようだ。


「こいつはどうする? 炎核爆発ニュークリア・エクスプロージョン!」


 コジローさんの攻撃に合わせてレイが放ってきたのは、炎魔法Sクラスの炎核爆発ニュークリア・エクスプロージョンだ。しかも、僕の背後に現れるように。まったく、いやらしい攻撃をしてくれる。


魔法防御マナディフェンス!」


 僕は魔力探知で確認した爆発地点を魔法防御マナディフェンスの箱で覆った。


 ドゴォォォォォン!


 うわ、何とか周囲への被害は防げたけどさすが魔法攻撃力4000超え、僕の結界は一撃で粉砕されてしまった。


「っ!? 結界で魔法を覆うなんて!? すごい!」


 何か、見てる人達の方から声が聞こえてきたけどちょっと気にしてられないな。


「さすがライト。だがこれはどうかな?」


 次にレイが放つのは……なるほど、数での勝負に来たか。


絶対防御アブソリュート・ディフェンス


 僕を三百六十度包囲する氷の針アイスニードルだ。今度は自分を中心に半円状の結界を展開する。


 ズドドドドドド! ズガァン!


 僕の結界に当たった氷の針が砕け散り、キラキラと辺りに舞っている。その幻想的な光景の中、コジローさんが僕の結界に抜刀術をぶつけてきた。視界の悪さを利用した上手い攻撃だ。だけど残念。絶対防御アブソリュート・ディフェンスは物理攻撃にも耐えられるからね。


「!? まさかあれは絶対防御アブソリュート・ディフェンス!? もしかして、コジローさんの攻撃も読んでいた!?」


 またまた誰かが何かを言ってるみたいだけど、うるさくてよく聞こえない。


 さて、ここまではいいんだけどこの後はどうしようか。こっちから攻撃していいのかな? それともずーっと防御し続けないといけないのかな。っていうか、誰が終了の合図を出してくれるんだろう。


 どう見ても、この試験に見とれてて合図が出そうにない。仕方がない、僕が終わらせるとするか。


絶対防御アブソリュート・ディフェンス


 僕はコジローさんとレイを結界に閉じ込めた。2人とも結界の中で両手を挙げて降参のポーズをとった。うん、これで終わりだね。




「合格じゃ。ライト殿にカオリの指導をお願いするとしよう。詳しいことはレイ殿に聞いてくれ。それと侍女をひとりつける故、ここでの生活についてはその者に確認するとよいじゃろう」


 僕が二人を結界に閉じ込めたことで、無事試験は合格で終了した。よし、これで異世界の勇者達とお近づきになれるぞ。何やら、目をキラキラさせている女の人がいるけど、期待を裏切らないようにしなきゃね。そして、異世界の料理についてあれこれ聞かなくては。

 おっと、学者のラーニングスキルも上げて早く"知識共有"を手に入れないとね。実際の映像があった方が、その料理の理解も深まりそうだし。


 その後、僕は侍女にこれから寝泊まりする部屋へと案内してもらった。

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