第99話 レイモンド・フラッチャー

 こいつ、僕を追い抜く気配なんてしなかった。おそらく空間転移したんだな。まさか、空間魔法が使える人間がいるとは思わなかった。要注意だぞ、これは。


 僕は目の前の人物から注意を逸らさずに鑑定を行う。


名前 :レイモンド・フラッチャー

性別 :男  

種族 :人族

レベル:100

ジョブ:賢者

クラス:SS

職業 :領主の三男


体力 :1549

魔力 :3776

攻撃力:634

防御力:606

魔法攻撃力:4002

魔法防御力:3898

敏捷 :1207

運 :743


オリジナルギフト:なし


ユニークスキル 

無詠唱・並列思考・消費魔力減少・魔力回復速度上昇

魔法攻撃力上昇(中)・魔法防御力上昇(中)・アイテム効果アップ


ラーニングスキル 

炎魔法SS Lv30・風魔法SS Lv30・土魔法SS Lv30・雷魔法SS Lv30

水(氷)魔法SS Lv30・闇魔法SS Lv30・光魔法SS Lv30・聖魔法SS Lv30

重力魔法SS Lv30・時魔法SS Lv30・空間魔法SS Lv30・錬金術SS Lv30


!? まさか、ジョブが賢者だと!? しかも、ラーニングスキルが全てSSになっている。おかしい、この世界の人族はAクラスまでしか上がらないんじゃなかったのか?


 僕はさらに警戒度を引き上げる。


「ふっ、ここじゃあゆっくり話もできない。ついてきな」


 見た目はまだ大人になりかけの少年のように見えるが、そのステータスはとんでもない。魔法だけなら僕に匹敵する力を持っている。しかし、今のところ敵意は感じられないから、十分警戒した上で後をついて行くことにした。



 僕の警戒はどこ吹く風といった感じで、レイモンドはリラックスした様子で歩いている。そして、一件の店の前で立ち止まった。


『獣人カフェ』


 そう看板に書かれた店は、可愛い獣人が料理や飲み物を運んでくれる店だった。なぜこんなところに僕を連れてきたんだ? 予測不能の行動に頭が混乱する。


「さて、ここならゆっくり話ができるな。おっと、その前に飲み物でも注文するか。そこの可愛らしい猫の獣人さん! 俺達にリンゴジュースを持ってきてくれ!」


 リンゴジュースとは、木になった赤い実の果物を搾ってできたジュースのことだ。甘さの中に少しの酸っぱさが絶妙な加減で混ざり合っている、僕の大好物のジュースとなっている。


「それで、レイモンドさんとやらが僕に何のようですか?」


 出てきたリンゴジュースを一口飲んでから、僕はそう切り出した。


「まあまあ、そう慌てるな。お前さんは俺のことをよく知らないだろうが、俺はお前さんのことをよく知ってるぞ。オリジナルスキル持ちのライト殿」


「!?」


 なぜだ!? なぜ僕のオリジナルスキルのことを知っている!? これは誰にも話したことなどないのに。これを知っている者なんて存在するはずがない。

 まさか、鑑定か? いやしかし、僕の隠蔽はレベル30。これを突破できるものなどそれこそいるはずがない。そもそも、さっき鑑定したときこいつのスキルに鑑定はなかったはず。


「ふふふ、そんなに怖いかをすんなよ。俺は鑑定なんてしてないぜ」


 まずい、心を読まれているのか? そんなスキルは聞いたことがないけど、まさか未発見のスキルなのか!?


「あはははは、ライト! 俺だよ俺、レイ・シャイニングだよ!」


 「…………えぇぇぇぇぇ!? レイ!? レイなのか? いや、そんなはずはない。レイは、レイは僕の中にいて消えてしまったんだ!」


 僕が慌てているを見て楽しんでいるのか? しかも、レイのことまで知ってるなんて。やはり、こいつは心を読んでいるんだな。


「いやぁ、俺ももう消えてしまうと思ったんだけどな、お前が以前失敗したと思っていた転生魔法が俺にかかってたんだよ! そう言う意味ではお前に感謝しているぞ!」


 くっ!? 今はそんなことを考えていなかった。もしかしてこいつのスキルは、記憶を読み取る力があるのか!?


「僕の記憶を読んだのか? でも僕は騙されないぞ!」


 僕は結界魔法Sクラスの反射結界リフレクション・シールドを全身に張り巡らせる。これでこいつの魔法攻撃は反射できるはずだ。


「いや、なんでそういう発想になるんだよ? 俺がレイ本人だって言ってるだろう。転生したんだって」


 なるほど。僕が結界を張ったのを見て、魔法で攻撃するのを諦め、会話で油断させる作戦だね。そんなものに引っかかる僕じゃない!


「そんな言葉には騙されないぞ!」


 それから、自称レイは僕の家族構成や銀の雫との出会い、トルーフェンでの修行の日々を話してきたが、絶対に僕は騙されないぞ。しかし、こいつの記憶を読む力は絶大だ。全く抵抗できる気がしない。


 しかし、段々と向こうも疲れてきたのか。何だかあきれ顔になってきた。


「はあ、ここまで言っても信じられないとはな。わかってはいたが頑固だなお前。よし、俺ができることはあとひとつかない。心して聞けよ!

 古代恋愛術特別編! 好きな相手に意識してもらうには、とにかくたくさん視界に入ることだ。相手の視界に何度も入る内に好意が湧いてくるんだ。偶然を装えばなお効果が高まるぞ!」


「レイ!? 本当にレイだったんだね!」


 こんなくだらないことを言えるのはレイしかいない。まさか、レイが本当に転生したいたとは!


「お前、今まで全く信じてくれなかったのに、随分な手のひら返しだな……」


 なぜかふて腐れているレイを横目に、僕は感動のあまりレイに抱きついてしまっていた。だって、もう聞くことができないと諦めていた古代恋愛術がまた聞けるなんて、最高だろ!

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