第98話 コジローとの再会
「すいません。こちらにお住まいのコジローさんに頼まれたものを届けに来たのですが」
僕は城の前まで来たところで、門を守っているこれまた白い鎧に身を包んだ騎士に用件を告げる。それにしも、近くで見る城は想像以上に大きかった。すごい威圧感だ。
「中に取り次ぐので少々お待ちを」
僕の伝言を中の人に伝え、また直立不動の姿勢に戻る白い騎士。お互いに無言で待つこの時間が気まずい……
そんな地獄のような状況を耐えること数刻、ようやく中からひとりの男性が現れた。白い法衣を着た男性に連れられて中へと入る。てっきり、ここで刀を受け渡しすると思っていたから、予想外の展開に戸惑いながらついていく。
ちりひとつない廊下を静かに歩いて行く二人。横に並んでいる調度品も高価なものに見える。はて、ここは神に許しを請うために建てられた城じゃなかったのかな? それとも、神様は民から集めたお金でこんな高価な調度品を集めることをよしとしてるのだろうか?
ふと思った疑問を胸にしばらく歩くと、大きな扉の前に出た。この扉も精巧な彫刻が施され、随分高そうに見える。ここにはいっぱいお金があるんだな。
高価な扉が音もなく開くと、そこは大広間になっていて奥の方には一段高くなっていた。そこには立派な椅子に座っている、これまた立派な法衣を来たおじいさんがいた。
おそらくアレがここの教皇様とやらなのだろう。
その右隣に三名の若者が、左隣にはコジローさん達三名が座っている。なるほどなるほど、若い三名が勇者達というわけか。反対側の三名はそれぞれの指導者だね。
まさか話題の人物達が全員集合していると思わなかった僕は、思わず入り口で足を止めてしまった。それに気がついた案内役の男性が、僕に中央まで進むように促してきた。
その指示に従って広間の中央まで来たところで、一応、跪いてみる。王国と作法が一緒かどうかわからないけど、何もしないよりいいよね?
「そうかしこまらんでもよいぞ。余はこの国の教皇であるグレゴール・ド・グレゴリーじゃ。そちがコジローが申していたライトじゃな。一流の料理人にして一流の鍛冶師であるとか。ぜひそちが打ったという刀を見せてもらいたくてな、ここまで足を運んでもらったわけじゃよ」
「ライト殿、あいすまなかった。ライト殿が訪ねてきたときのために、ちょっとお主のことを話したら教皇殿が興味を持たれてな、ぜひライト殿が打った刀を見たいと申されて……」
コジローさんはばつの悪そうに頭をかく。でも、僕がすんなりこの国には入れるように気を遣ってくれた結果だから、文句を言うわけにはいかないよね。
「大丈夫ですよ、コジローさん。誰かに見られて困るものでもないですし、僕のことは気にしないでください」
「そう申してもらえるとありがたいでござる」
「それで、そちが打ったという刀はどこにあるのじゃ?」
僕とコジローさんの会話に教皇様が割って入ってきた。それだけ早く刀が見たいということか。全く、せっかちなおじいさんだこと。
僕は手持ちの
「おお、これがライト殿が打った刀でござるか。何とも凄まじオーラを放っているでござるな!」
さすがコジローさん。一目見ただけでこの刀の価値を見抜いてくれたね。チラッと横を見ると、勇者の面々も指導者の方々もこの刀に見入って……おや? ひとりだけ僕の方を向いてにやにやしているヤツがいるぞ。あれは新進気鋭の魔導師だな。刀よりも僕に興味津々といった様子だ。要注意だな。
刀を受け取ったコジローさんが、鞘から神滅を抜いた。風属性と雷属性を持つ神滅は、緑と黄色の光を放っている。
「こ、これはもしや属性付与でござるか!?」
コジローさんが刀を頭上に掲げて、まじまじと見つめている。
「はい、名を
僕が神滅の性能を説明するとその場がしんと静まり返った。誰かの『ごくり』という唾を飲む音だけが聞こえてくる。
「と、とんでもない性能でござるな。その性能が本当なら、今までの刀はみんなおもちゃになってしまうでござるよ」
最初に声を出したのはコジローさんだった。その言葉に他のみなさんもハッと我に返ったようだ。ただひとりだけは、最初から最後まで楽しそうにしていたけどね。
「そちはこのレベルの武器を狙って作れるというのか!? ぜひ我が国専属の鍛冶師に……」
教皇様が何やらぶつぶつおっしゃっています。っていうか、今思ったけど『神滅』って名前は大丈夫なのかな? 仮にもここは神様に許しを請うために建てられた国ですよね? そんな、場所で神滅なんていう名前の武器を披露して怒られないのかな?
でも、教皇様にその気配はないし、というかむしろこの武器を欲しがっているそぶりさえ見える。大丈夫か、この国は?
嫌な予感がした僕は、コジローさんに目で合図を送りすぐに退席することにした。
「それでは僕の用はこれで済んだので、失礼させていただきます」
僕はまだみんなの興奮が収まっていないうちに、さっさとその場を後にする。先ほどの長い廊下を急ぎ足で駆け抜け、入り口の大きな門から出た僕は足を止めざるを得なかった。
「よう、ちょっと付き合えよ。ライト殿」
僕の目の前には、先ほど僕を見てにやにやしていた魔導師の指導者がいた。
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