第六章 学者編

第97話 神聖国家セイクレイド

 空間転移でロンディウムに到着した僕は、真っ先に冒険者ギルドへと向かう。Sランク冒険者であるコジローさんの所在を知るには、冒険者ギルドが一番だと思ったからだ。


 カランコロン


 小気味よい音を聞きながら、ギルドのドアをくぐる。中にいる人達が一斉に僕を見て何やらささやき合っている。そうか、ここの武術大会で優勝したときのことを覚えている人がいるのかもしれないね。


 何か話しかけられても面倒なので、素早く受付カウンターへと移動し、猫耳の獣人さんにコジローさんの所在について質問してみた。すると興味深い話が聞けた。


 コジローさんはすでにここロンディウムにはおらず、神聖国家セイクレイドへ向けて旅立ったのだとか。何でも、セイクレイドで勇者召喚の儀式が行われ、異世界から三人の勇者が召喚されたのだとか。

 勇者召喚に成功したということは、同時に魔王の誕生が近いことを意味する。ここ最近の魔族の活発な動きも、魔王の復活に合わせてだと考えると納得がいく。


 そこで神聖国家セイクレイドの教皇は、コジローさんに勇者の育成を頼んだのだ。魔王誕生とあっては、コジローさんも断り切れずセイクレイドに向かったというわけだ。


 なるほど、では僕も神聖国家へと向かうとするか。コジローさんにこの『神滅』を渡したいし、異世界の料理にも興味がある。もしかしたら、僕が知らない未知の料理について聞けるかもしれない。そうなれば、僕の実家でしか味わえない異世界料理なんかも提供できたりして。


 となると……ジョブを変えておくか。付与師はすでに極めてしまっているので、次は"学者"にしておこう。学者のユニークスキル"言語理解"は異世界の勇者と会話するのに役立つかもしれないし、Sクラスのラーニングスキル"知識共有"があれば、異世界の料理を言葉だけじゃなく、映像としても紹介して貰えるかもしれないからね。


 僕はジョブを学者に変えて、神聖国家セイクレイドへと向かって出発した。




▽▽▽




「ここが、神聖国家セイクレイドか」


 ロンディウムから空を飛んで二日間。僕の眼下に、白で統一された建物が整然と並び、中央に三本の塔が突き出た大きな建物がある。あれは確かセイクレイド教の総本山となる城だね。


 事前の情報によるとセイクレイドは国民に番号をつけ、厳しく管理しているのだとか。おそらく裏切り者を出さないようにするためなんだろうけど……何だか嫌だな。


 僕はこっそり入って面倒事に巻き込まれるのを避けるため、近くの人目のつかないところに降り立ち、歩いて正門を目指した。




「名前は……ライトと申すか。職業は料理人兼鍛冶師とな。何とも珍妙な組み合わせだな。まあよい。それで貴殿が入国を希望する理由は何だ?」


 正門では白く輝く鎧に身を纏った強そうなおじさんが検問を行っていた。僕は自己紹介した後、コジローさんに依頼品を渡しに来たいったら思いの他あっさりと通してくれた。

 これはコジローさんが事前に僕が訪ねてくることを予想して、伝えておいてくれたことと、僕がSランク昇格のために必要なコジローさんの紹介状を持っていたことが大きい。




「おお、ワールーンやロンディウムもすごかったけど、ここはまた別の意味ですごいな」


 無事、正門をくぐった僕は目の前に広がる街並みに思わず感嘆の声を漏らしてしまった。上から見たときにも思ったが、いざ目の前に白い建物が整然と並んでいるのを見ると圧倒されるね。ただ、人の多さの割には活気が感じられない。みんなにこやかにはしているけど、大声で客を集める店員さんもいなければ、元気に走り回る子どもも見当たらない。


 神聖国家にそんな第一印象を持った僕は、コジローさんの居場所を探すために冒険者ギルドを探すことにした。




 チリリーン


 他の国とはひと味違う音を鳴らすドアをくぐり、冒険者ギルドへと入る。僕としてはあの、『カランコロン』という音の方が好きだけどね。


 色々と他の国とは違う神聖国家セイクレイドだったが、ここ冒険者ギルドだけはさほど変わらないようだ。よかった。ちょっとホッとした。

 僕は受付のお姉さんの前に行き、コジローさんの所在について聞く。すると、コジローさんは中央にある城で寝泊まりをしながら、勇者達に稽古をつけていることがわかった。ついでにその勇者達について聞いてみたら、予想外に色々と教えてくれた。勇者召喚ってもっと秘密裏に行ってるかと思ったよ。


 受付のお姉さんによると、召喚された勇者は三人。全員が重複ダブルの持ち主らしい。剣士と精霊術士を持つショウタ、黒魔導師と支援魔導師を持つミコ、白魔導師と結界師を持つカオリの三名だそうだ。

 さらに勇者達はラーニングスキルがSまで上がるという話だ。さすがは魔王を倒すために召喚されただけあるね。でもSSではないんだと思ってしまった僕がいる。


 コジローさんさんは、このうちのショウタに剣術の稽古をつけているそうだ。他にも、黒魔道士のミコにはレイモンド・フラッチャーという新進気鋭の魔導士が、カオリにはこの国の聖女でもあるシトラスが師についているそうだ。


 僕は勇者についてあれこれ考えながら、コジローさんがいるであろう中央の城を目指して歩き始めた。

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