第96話 最高の刀
「これがライト……殿が創った祭器か……」
うん、女王様の呟きが隣から聞こえてきた。背中がむずがゆくなるから殿付けはやめてほしい……ほら、周りのエルフ達に僕を見る目が明らかにかわったじゃないか。
あのウィルフィットさんですら、ちょっと尊敬した眼差しに変わっている。エルフ達って、気難しいところもあるけど優れた才能はきちんと認める種族だったな。今、思い出したよ。
しかしですよ、よくよく考えるとこれはちょっと不味い展開ではないのでしょうか? 確か、この後は仕留めた魔物の肉を神に捧げて神事は終わりとなるはずなんだけど……ランペイジボアの上半身が消し飛んでしまってます。これ捧げるお肉が少なくなっても問題ないのかな?
何て心配したんだけど、さすがにそんなことでケチがつくことはありませんでした。丁重に捌かれたランペイジボアのお肉が祭壇に捧げられ、女王様の短い祈りの言葉と共に神事が終了した。
神事が終わった後、僕は参加していたエルフのみなさんに囲まれて質問攻めにあってしまった。この一ヶ月、あまり僕に関わらないようにしていたはずなのが嘘のようにぐいぐいと迫ってくる。中には自分に弓を作ってくれと言う人までいて、女王様に怒られていた。
その女王様が、このままじゃ不味いと思ったのかエルフのみなさんを下がらせて、僕を屋敷へと連れて行ってくれた。
「それにしてもお主、とんでもない威力の弓を作ってくれたのう」
「何か、すいません?」
「いや、謝るところではないのじゃが……むしろ、世界一の付与職人じゃよお主は。素直に尊敬するぞ」
お屋敷について早々、女王様に呆れられてしまった。何だか色々やり過ぎちゃった感がありますが、付与術のレベルも30になったしこれでコジローさんに最高の刀を創ってあげられそうだ。となると、この国で学ぶことはもうないかな。
「お主、この国を出るのか?」
僕のそんな雰囲気を察したのか、女王様がそんなことを呟いた。
「はい、女王様には大変お世話になりました。明日、ここを
「そうか、寂しくなるな」
完全に僕の都合に付き合ってもらって、それでいて文句の一つを言うでもなく送り出してくれる。本当に女王様には感謝しかない。お礼になるかどうかわからないけど、世界樹の聖弓はここに置いていこう。
その夜、神事に比べたらささやかだけど僕を送り出すために女王様自ら料理を振る舞ってくれた。女王様は付与だけじゃなく、料理の腕前も一流でした。
そして次の日の朝早く、エルフのみなさんが騒ぎ出さないように僕は女王様とウィルフィットに見送られて、エルフの国を後にした。
「さて、まずは素材を集めるか」
僕はコジローさんのために最高の刀を用意するべく、オリハルコンを探しに行くことにした。確か、ゴルゴンティアの奥の方で採れたはず。あそこなら
僕はベヒーモスを倒した広場を思い出し、空間を渡った。
▽▽▽
「よし、これくらい採れればいいかな」
ゴルゴンティアの下層で、無事オリハルコンを手に入れた僕はいったん親方のところへ戻ることにした。
「親方、お久しぶりです! ガスティンの親方! 親方のおかげで無事、ソルマリア女王様に弟子入りして付与術を極めることができました!」
僕は親方の工房に入るなり、嬉しくて大きな声で近況報告をしてしまった。幸い、親方は休憩していたようで鍛冶の邪魔にならなくてよかった。
「お、おうライトか? 付与術を極めるには随分早い帰りだが、お主であれば何も言うまい。して、ここに帰ってきたということはついに最高の一振りを創るときがきたのか?」
「はい、その通りです親方。工房を貸していただけますか?」
さすがは親方。僕の考えなんてお見通しだ。それに、この工房を見ればわかる。親方も注文が殺到しているのだろう、完成された片手剣や両手剣、槍なんかも並んでいる。そんな忙しい中、あっさりと工房を使うことを許してくれた親方には、感謝しかない。
どうやら僕には、素晴らしい人の縁があるようだ。これは神様にも感謝しなくちゃね。
僕は炉に魔法で火を入れ、オリハルコンに魔力を通し熱していく。真っ赤に熱されたオリハルコンを取り出し、これまたオリハルコンでできた僕専用のハンマーで形を整えていく。もちろん魔力を込めるのを忘れない。一回で3000ほど込められるので、今日はマナポーションを使い2回魔力を込めた後は、形を整えるにとどめておく。
前回と同じように、5日間かけて保有魔力30000のオリハルコンの刀、『竜断』が完成した。さて、明日はこの刀に最高の付与を施すぞ。
「お主が学んできたという付与を見せてもらうぞ!」
僕が最高の一振りを完成させる瞬間を見ようと、親方も緊張の面持ちで待ち構えている。それじゃあ、期待に応えて最高の刀を創ろうじゃありませんか!
「……気合いの入ってるところ悪いんだが、付与クリスタルはどこにあるのだ?」
おっと、そういえば説明するのを忘れてた。確かに普通の付与術を知っていれば、この光景はおかしなものに見えるのかもしれないね。
「親方、詳しくは説明できませんが僕に付与クリスタルは必要ありません!」
「お、おう、そうなのか? すまんな、邪魔をしちまって」
よかった。更に突っ込まれることがなくて。
改めて気合いを入れ直した僕は、最初に切れ味が増す風魔法のテンペストを付与する。テンペストはSSクラスの風魔法だ。SSクラスの魔法を付与すると属性値は僕の魔法攻撃力の2.2倍を十分の一にした値になる。 僕の魔法攻撃力は4078。つまり、897の風属性になる。ついでに風属性ということで切れ味もアップだ。
次に付与するのは強化魔法の攻撃力上昇だ。強化魔法はまだ上がりきっていなくて、Aクラスだから1.6倍しかあがらない。それでも600の1.6倍だから攻撃力960の刀になった。
最後に付与するのは……ちょっと迷うな。属性を付与して追加効果を狙うか、強化魔法の敏捷辺りを付与するか。
僕はしばらく悩んだ結果、雷属性を付与することにした。確か、雷属性を付与すると追加効果で麻痺状態にできることがあるはずだ。雷魔法のインドラジャッジメントを付与する。もちろんSSクラスだ。これで雷属性も897になり、予定通り追加効果"麻痺"までついてきた。
最終的に完成した刀は……
『
「おめえ、なんちゅう刀を打ちやがったんだ……」
親方もそれ以上の言葉がでてこないようだ。
しかし、コジローさんには随分とお世話になった。このくらいの刀じゃないと恩を返せないだろう。もしかしたら、これ以上の刀を見つけてるかもしれないけど、今僕に作れる最高の刀ができあがった。早くコジローさんに見せて喜んでもらいたいな。
僕は唖然とする親方にお礼を言って、コジローさんを探すべくロンディウムへと向かった。
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