第95話 エルフの国の神事

 僕が聖弓を作り終えた時には、女王様も作業が終わっていたようで自室へと戻っていた。女王様のお付きのエルフに言づてを頼んで、謁見の間へと来てもらった。


「おおライトか。妾に用とは……その弓、もしや祭器が完成したのか?」


 謁見の間に入ってきた。ソルマリア女王は、僕が持つ弓を見て何のために呼ばれたのかを察したようだ。


「はい、あまり自信はありませんが、今できる最高の祭器が完成したと思います。見ていただけますか?」


 女王様のお眼鏡に叶うかどうかわからないけど、できることはやったしロスもないから大丈夫だと信じたい。

 僕はソルマリア女王に弓を手渡す。女王様は美しい顔でその弓を観察する。ソルマリア女王って何百年と生きてるんだよね。でも、人間でいえば二十代にしか見えない。エルフって本当に長命種なんだね。


「ぱっと見、素晴らしいできに見える。じゃが、妾は鑑定を持っておらんのじゃよ。今鑑定を持ってる者を呼んでいるのじゃが、お主からもこの弓の性能を教えて貰えんかの?」


 おっと、女王様は鑑定を持っていないのか。確か女王様は精霊術と付与術のダブルだから、鑑定を持っていないのは当然か。もちろん、僕は正直に世界樹の聖弓の性能を伝えることにした。


「はい、この世界樹の聖弓は付与が聖属性520と攻撃力上昇です。攻撃力は攻撃力上昇分も含めて、450となっています」


 正直に聖弓の性能を伝えた僕は、おそるおそる上目遣いで女王様の反応を確認する。この性能でがっかりしていないだろうか?


「……」


 女王様は僕の報告を聞いて、小首をかしげてしまった。やはり、性能が低すぎたのか?


「はぁぁぁぁぁ!? なんじゃと!? 攻撃力450、聖属性520じゃと!? お主何ちゅうものつくってくれとるんじゃぁぁぁぁ! 世界中の鍛冶師が超えることを目標としている、魔族が己の力作り出す黒血槍が攻撃力が300、闇属性100なんじゃぞ! なぜそれをあっさり超える弓を作り出してるのじゃぁぁぁぁ! お主が失敗した時用に妾が作った攻撃力200、聖属性80の祭器が恥ずかしくみえるじゃろがぁぁぁぁ!」


 違った。性能が低すぎたのかと思ったら、どうやらこの弓は破格の性能だったみたい。竜断の攻撃力が600だから、それに比べたら低いと思っていたのが間違いだった。


「あの、何かすいません……」


 僕が悪いのかよくわからないけど、とりあえず謝ってやり過ごそう。


「はぁ、はぁ、いやすまぬ。ちょっと取り乱してしもうた。して、ライトよ。ちょっと色々確認したいことがあるのじゃがいいか?」


 弓の性能を聞いた女王様の目が据わっててちょっと怖い……


 この後、鑑定持ちのエルフさんが来て、僕の申告が嘘ではないことがわかり女王様から色々追及される羽目になってしまった。世界樹の枝についてや明らかにロスのない付与についてなどなど……


 世界樹の枝については精霊達が教えてくれたで納得してくれたけど、ロスなしの付与についてはめちゃんこ追求されました。付与クリスタルについては、昔地下迷宮ダンジョンで手に入れたで押し通したけど、ロスなしの付与についてはどんなに言い訳しても納得してくれなかったので、『自分でもよくわからないです!』と叫んで逃げちゃいました……




 あれから、女王様の追求を躱しながら付与術のレベル上げに励み、エルフの国の神事が行われるタイミングで、付与術がレベル30に到達した。


 エルフの国の神事は、かつて反逆戦争に参加した過ちを神に謝罪するために行われているそうだ。実際参加したエルフは少なかったため、人族ほどのスキルの弱体化は免れたみたいだけど、それでもSランクまで到達できる者は希だし、ユニークスキルを二つ持つダブルだってほとんどいないみたい。


 それから神事の内容だけど、精霊術を持つエルフ達が精霊と共に神に祈ったり、森で採れた自然の恵みを神に捧げたりするらしい。そして、メインとなるのが祭器で倒した魔物を神に捧げる儀式となる。


 その時使われるのが、僕が創った弓というわけだ。祭器として創られた弓を使って、魔物を仕留めるのがこの神事のメインイベントだそうだ。


 その神事が明日と迫っている。


 もちろん僕は祭器の制作者としてその神事に参加する予定だ。何でも、八百年続くこの神事に人族が参加するのは初めてのことだとか。大丈夫かな、色々と。一抹の不安を抱えながら、眠りにつくのであった。




 翌日、僕の不安など吹き飛ばしてしまうような爽やかな朝を迎えた。この日ばかりは、エルフのみなさんも早起きして準備しているようで、外で人が動く気配が感じられる。


 僕は女王様と一緒に朝食をとり、エルフの神事でのきまりや動きについて再度確認したあと、薄い緑色に染められた布の服に着替え、エルフの国の中央にある広場へと向かった。


 そこでは、広場の中央に神に供える果物が置かれ、その周りには敷物らしきものが敷かれていた。お供えを囲むようにエルフの人達が座り、その中で踊りやお祈りをするとのことだ。


 よく見ると、敷物の中に一際目立つ立派な場所があった。そこだけ赤く染められたクッションのようなものが置いてあり、どうやら女王様がそこに座るようだ。隣には青いクッションのようなものも置いてある。

 あれ? まてよ? 確か僕は女王様の隣に座るように言われてたよね? まさか、あんなに目立つところに座らなきゃならないのか!? まあ、一ヶ月以上もお世話になってるから、この国のエルフ達とは随分仲良くなったから大丈夫だとは思うけど……


 僕は女王様に引きずられ、予想通り赤いクッションの隣の青いクッションに座らされた。うん、ウィルフィットさんの視線が痛い。ひょっとしたら、去年までこの席はウィルフィットさんだったのかもね。


 さて、そんなこんなで痛い視線に耐えていると神事が始まったようで、女王様の一言から始まり、神への祈り、精霊達への感謝と進んでいく。精霊術士を持つエルフ達が精霊達を召喚していく。ほとんどが一人につき精霊一体と契約しているようだ。せっかくなので、僕も精霊達を召喚することにしよう。


「お、久しぶりの召喚だぜ! 今日は何をするんだ?」

「召喚してくれてありがとう! あ、今日はエルフの国の神事なんだ」


 まずは風の精霊のシル君とフィーちゃんを召喚する。


「おいライト! もっとたくさん召喚してくれよ! お前の魔力は旨いんだから!」

「呼んでくれてありがとう……」

「あらあら、今日はエルフの神事でしたか。このようなタイミングで呼んでいただき、嬉しいですわ」


 続いて火の精霊のサラダ、土の精霊のノーム君、水の精霊のディーネさん、木の精霊ドリアを召喚した。


(うん、レイにも見せてあげたかった)


 その華麗な舞も終わり、いよいよ僕が創った弓で魔物を倒す番となった。弓を撃つのはウィルフィットさんで、自分で捕まえてきたランクCの魔物ランペイジボアだ。


 女王様から世界樹の聖弓を受け取ったウィルフィットさんが、眉を跳ね上げる。あれは、世界樹の聖弓の性能に驚いた顔だね! しかしですよ、僕が創った世界樹の聖弓は攻撃力が450。対するランペイジボアの防御力は150。ウィルフィットさんの攻撃力がどのくらいかはわからないけど、相当過剰戦力なのでは?


 その辺りのことがわかっていないのか、首に縄がかかっているランペイジボアに向かって、全力で弓をつがえるウィルフィットさん。


 バシュ!


ウィルフィットさんが放った矢は、空中に白い軌跡を描きながらランペイジボアの額に吸い込まれていく。そして……巨大なランペイジボアの上半身が消し飛んだ。


「「「…………」」」


 その瞬間、辺りが静寂に包まれた。

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