第94話 世界樹の聖弓

 世界樹の枝をもらってきた僕は、精霊達にお礼を言っていったん自分達の世界に帰ってもらい、空間転移テレポーテーションでエルフの国へと帰ってきた。結界を抜けて、女王様のお屋敷に戻る途中にウィルフィットさんに声をかけられる。何か驚いた顔してるけど、何かあったのかな?


「おま、おま、お前。そ、その手に持ってるものはまさか?」


 何だかおまおま言ってて気持ち悪いけど、この手にあるものが気になるなら教えてあげましょう。


「えーと、これは世界樹の枝ですね。ドリアードに分けてもらいました」


「世界樹の枝だと!? お前それがどんなものかわかってるのか!?」


 えーと、興奮気味に詰め寄られたけど、正直これがどういう扱いを受けているのかはわかりません。この剣幕を見るに取ってきちゃいけないものだったのか? でも、普通にくれたしね。


 よくわからないので、ウィルフィットさんに聞いてみたらどうやら世界樹の枝は伝説級の素材らしい。そもそも、世界樹の元にたどり着くのが困難でましてや傷をつけようとすると、精霊達から攻撃されてしまうそうだ。うん、今なら転移で行けるしその精霊達がくれたんだけどね。

 300年ほど前に世界樹の枝で作られた弓はあまりの強さに奪い合いとなり、結局はSランク冒険者の手に渡った後、死ぬ直前にどこかに隠されてしまったとか。


 と言うお話を聞きましたが、あんまり僕のお仕事とは関係ありませんでした。なぜか、僕を引き留めようとするウィルフィットさんを置いて僕は女王様のお屋敷にある自分の部屋へと戻る。


(作業部屋は今、女王様が使ってるから僕はここで弓を作らせてもらおう)


 僕は部屋を汚さないように、部屋の内部全体に結界を張りその中で作業を開始する。結界マジ便利。魔法の袋マジックバッグから作業台と各種鍛冶道具を取り出し、いざ作業開始!


 まずは弓の原型を作っていこうか。今回は祭器ということもあり、全長二メートルほどの大きめの長弓を作ろうと思う。弓の形をオリハルコンのナイフで削って整え、さらにグリップ部分を作る。おっと、削るときに魔力を込めるのを忘れないようにね。

 世界樹の枝は魔力保有量はアダマンタイトよりちょっと上の6000だ。基礎攻撃力も250と高いので、2回魔力を込めて100%にしてやると攻撃力が50%上がる。つまり、攻撃力375の弓が完成する予定だ。

 

 それから弓を足下に置き、片手で上端を支え真ん中をもう片方の手で押しながら、湾曲を作っていく。これは、かなりのステータスが必要かも。

 ほどよく曲がったところで両端に切れ込みを入れて、弦は……以前倒したブルードラゴンのひげを使うか。料理に使えなかったけど、取っておいてよかった。

 弦を張り終えたら、実際に引きながら微妙なバランスを調整していく。うん、いい感じになってきた。

 最後に簡単な装飾を彫って出来上がり!


 さて、続いて付与に行きたいところだけど、ここはきちんと考えないとね。付与師のランクがSだと三つの魔法を重ね掛けできるんだけど、Bランクだと思われてるからね。二つにしておこうか。

 となると、どんな属性を付与しようか悩むね。祭器にふさわしい付与にしたいけど……正直何がふさわしいか何てわからないな。誰かに聞いてみるか。



 女王様はまだ作業しているようなので、ふらっと外に出て歩いてみる。すると、向こうから知った顔の人物が歩いてくるのが見えた。あの人結構暇なのかな?


「こんにちは、ウィルフィットさん。今、お時間ありますか?」


「あ、ライト! お前、さっきはよくも俺を置いて……」


 ウィルフィットさんは先ほどのことに対して文句を言ってきたけど、今はそれどころじゃないので強引に話題を変えなくては。


「ところでウィルフィットさん。祭器となる弓にはどのような付与がふさわしいと思いますか?」


「俺はソルマリア女王が夜はどんな恰好をしているのかが……ああん!? 祭器の付与だと? そんなもん、まずひとつは聖属性に決まってるだろう! なんたって祭器だからな。あ、聖属性の代わりに光属性でもいいぞ。それから、今までの例でいくと……風属性が多いかな、弓の場合は。他にも実用性を兼ねて、強化魔法を付与していることもあったな。攻撃力アップとか敏捷アップとか」


 ふむふむ。やはり若く見えても長く生きているだけある。思ったよりもしっかりとしたアドバイスをくれた。ウィルフィットさんの言う通り、まず聖属性は決定だね。Bランクの範囲回復エリアリカバリー辺りを付与してみよう。


 もう一つはどうしようかな。属性二個持ちもいいけど、ここは強化魔法を付与しようかな。定番だけど、せっかくだから武器としての価値も高いものにしたいから。

 そうすると何の強化魔法がいいかな。エルフ族のための祭器だから……弱点を補う攻撃力か、特長を伸ばす敏捷か。うん、攻撃力にしよう。


 アドバイスをくれたウィルフィットさんにお礼を言って、僕は自室へと戻る。今回は付与クリスタルを使わずに直接付与する方法を試してみようと思う。


 僕は世界樹の枝でできた弓を握り、付与クリスタルに魔法を込めるときと同じように、弓に直接魔法を付与してみる。すると……


「うん、普通にできてしまった」


 やはり魔法と付与術のスキルを持っていると、付与クリスタルを通さずに属性や魔法を付与できるようだ。

 僕が付与したのは聖魔法Bランクの範囲回復エリアリカバリーだ。Bランクなので僕の魔法攻撃力が1.2倍になり、そこから十分の一の属性値が付与されるので、聖属性値520の弓の完成だ。

 そこにさらに攻撃力アップの強化魔法を付与すると、強化魔法はAランクだから攻撃力が1.2倍になる。よって最終的には攻撃力450、聖属性520という”世界樹の聖弓”が出来上がった。


(さて、ソルマリア女王に見せてくるかな。合格点を貰えるといいんだけど)

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