第93話 世界樹の枝

 祭器。祭事に用いる器具。


 うん、わかってたよ。でも、そんな大事な役目を僕に任せていいのかな? 僕まだここに来たばっかりだよ? 人族だし。


 その辺りを女王様に確認したけど、どうやら規定的には問題ないらしい。いや、規定的には問題なくても、エルフの方々の意にそぐわないでしょう。そういって、お断りしようとしたんだけど、女王様が一度口にしたことは撤回できないとかなんとか。何て面倒くさい決まりなんだ。


 仕方がないので、とりあえず話だけでも聞いてみることにした。


 それによると、祭器とは言っても以前取り戻した剣ではなくて、もっと価値の低い今回の祭にのみ使われる弓に付与するそうだ。その弓は祭のクライマックスで、この国一番の弓使いが的に向かって撃つものらしい。


 確かに国宝みたいな扱いになっているガスティン師匠の剣に付与するよりはましだけど、それでも結構重要な役割なんじゃないかな? 隣で聞いてるウィルフィットさんがもの凄い形相で睨んできてるし……

 だけど、最終的に女王様の圧に負けて引き受けることにしました。散々お世話になったしね。断れませんでした。


 さて、そうと決まれば早速準備に入ろうか。どうやらこの課題、武器を調達するところから始まるみたい。祭器と言われるくらいだから、その辺で売っている弓なんかは以てのほかだ。

 それこそ、ドワーフ職人に依頼するか地下迷宮ダンジョン産のものを使うことが多いらしい。


(うん、自分で作ろう)


 だが僕は付与術士でありがながら、鍛冶師でもあり料理人でもある。絶対自分で作った方が質の良い弓ができそうだ。それに、自分で作ったものの方が付与するにも気合いが入るしね。


 幸いここは森の中だ。材料となる木にはことかかない。すぐにでも森の中に入って祭器の弓にふさわしい木を見つけるとしよう。


 僕は女王様のお屋敷を出て、いったん地面に降り立つ。それから、森の中へと移動し、案内役として精霊達を呼び出した。


「俺様参上! 今日は何して遊ぶんだ?」

「遊ぶんだ?」


 男の子の風の精霊シル君に続き、女の子の精霊フィーちゃんを召喚する。


「今日はね。宝探しをするんだよ!」


 僕の言葉にキャッキャと喜ぶ二人の精霊。更に続けて、火の精霊のサラダと土の精霊ノーム君と水の精霊ディーネさんを召喚した。あ、ちなみに名前は僕が勝手につけました。


「オッス、久しぶりの召喚だな! 今日はどんな魔物を倒すんだ?」

「……お久しぶりです」

「あらあら、今日は全員集合なのですね。一体何をなさるおつもりで?」


 僕は精霊達に祭器の弓を作ることを伝え、その材料となる良質な木がこの森に生えていないか聞いてみた。すると、全員が一斉に森の奥を指さした。


「こっちの方向に真っ直ぐ進むと、とっても大きな木があるの。あのね、あのね、みんなはその木のことを世界樹って呼んでるの」


 風の精霊フィーちゃんが一生懸命教えてくれる。何これ、とってもかわいいんですけど!?


「……その木にはドリアードさんがお住まいです」


 ノーム君が控えめに追加情報をくれる。


「主なら、お願いすれば枝の一本でももらえそうだな!」


 サラダはそう言っているが、世界樹の枝って何だかとっても希少価値がありそうだね。本当に分けてもらえるかな?


 ディーネさんはその様子を見ながら、静かに微笑んでいる。みんなにとってのお姉様的な存在だ。


 僕は精霊達に促されるまま、森の奥へと進んでいった。




 途中で現れるブラッドベアーやアングリーボア、ジャイアントディアなどの魔物を倒しながら進んで行く。僕の役に立つところを見せたいのか、精霊達が積極的に働いてくれたから、僕は魔力を消費するだけでほとんど何もしていない。あっ、でも火の精霊のサラダは木に火が燃え移ったら困るから、あんまり攻撃には参加しないようにお願いした。


 ちょっと文句を言ってたけど、休憩の時に薪に火をつけてもらうようお願いしたら嬉しそうにしていたからよしとしよう。


 そんな感じで森の中を歩くこと二時間ほど、明らかに周りの木々とは大きさも雰囲気も違う一本の木が目の前に現れた。幹の太さは大人二十人でも囲めないくらい太く、てっぺんが見えないくらい高い。


「えっへん! これが世界樹だぞ! すごいだろう!」


 道中であまり活躍できなかったサラダが、真っ先に教えてくれた。何だか、胸を反らして得意げなのが可愛らしい。


 さて、この魔力をふんだんに含んでいそうな世界樹の枝でももらえらば、素晴らしい弓が作れそうだけど、これ勝手に取っちゃまずいよね? 僕がアゴに手を当てて考えていると、ノーム君がいい仕事をしてくれました。


「……ドリアードさんいる?」


 ノーム君の小さな呼びかけに応えるような形で、木でできたお人形さんのような精霊が世界樹の前に現れた。


「あら、みなさんおそろいでどうしました? こんなに集まるなんてめずら……ああ、いい香り!」


 木の精霊ドリアードが仲間にしてほしそうにこちらを見ている。


 もちろん、契約しましたよ。そりゃね、嫌とは言えないですよ。その結果、世界樹の枝を一本もらうことができました。おかげでいい弓が作れそうです。あ、ドリアードの名前はドリアにしました。


 世界樹の枝は堅さもしなやかさも魔力も申し分ない。これなら絶対文句をいわれないだろう。僕は一人増えた仲間を連れて、来た道を戻るのであった。

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