第92話 付与師のトレーニング

「お主、その手に持っている石はどうしたんじゃ?」


 僕が手に持っているのは、先ほど作ったファイアーボールとファイアーウォールとフレアバーストを付与した石だ。こんな石に付与したとバレたら怒られるかもしれない。


 しかし、僕の心配も虚しく手に持った石を女王様に奪い取られてしまった。その石をまじまじと見つめるソルマリア女王。おそらく鑑定していると思うんだけど……


「ほ、炎属性890じゃと!? お主、この石をどこで手に入れたのじゃ?」


 案の定、僕の持っている石を鑑定したようで、えらく食いつかれてしまった……


「あの、えーと、あっ! ここに来る途中で拾いました!」


 レイがいたら即座にバカにされそうな言い訳しか思いつかなかった。


 もちろん、ソルマリア女王がそんな話を信じるわけなく、興奮した様子で僕に詰め寄ってきた。


「お主、これがどれほど価値があるもので、どれほど無駄なものかわかっておるのか!?」


 ソルマリア女王曰く、炎属性890の付与クリスタルは破格の性能らしい。そもそも、付与クリスタルに込められた魔法は、クリスタルを割ることで一度だけ使用することができる。その時の魔法攻撃力は、ほぼ減衰なしに込められた魔法の分だけ発揮される。


 しかし、武器やアイテムに付与した場合は付与できる属性値は一割ほどだが、武器やアイテムが破損しない限り、半永久的にさらに一割ほどの追加ダメージもしくは耐性を得ることができる。


 つまり、この石で攻撃すれば石自体の攻撃力に加え、炎属性89ダメージを追加で与えることができるのだ。石が壊れない限りだが。無論、炎耐性があったり魔法防御力が高ければダメージを少なくできるが、少なくとも両方を足した値が890を超えない限り、ダメージは0にはできないようだ。


 ソルマリア女王は、これほど高い値の炎属性を石につけた馬鹿者がいると憤慨しているのだった。


(ごめんなさい……)


 心の中で謝りつつも、付与の仕組みを理解できてよかったと前向きに考える。どうやら付与クリスタルに込める魔法の魔法攻撃力は調整できるようなので、自分で作る分はあまり高くなりすぎないようにしようと思った。


 さて、ここからはソルマリア女王様に見てもらいながら、本格的な付与の訓練が始まった。付与クリスタルから武器や防具、アイテムに付与する際のロス率はもちろん付与術のレベルによる影響が大きいが、技術によっても多少減らすことができるそうだ。


 付与クリスタルから魔法を移すタイミングや、魔力の誘導の仕方で効率的に属性を付与することができる。また、ラッキーなことに付与クリスタルは再利用できることがわかった。本来は使用済みのクリスタルを魔導師に渡して魔法を込めてもらうのだが、僕は自分で込めることができるからじゃんじゃん再利用させてもらおうと思う。


 付与するにも自分の魔力を消費するので、普通は短時間に何度も付与することができないようだが、僕のあまりある魔力と重力魔導師のユニークスキル"魔力回復速度上昇"のおかげで、女王様の何倍ものスピードで付与することができる。

 女王様は半ば呆れていたが、それでも最後まで熱心に指導してくれた。


 おかげで、たった一日の訓練で付与術のラーニングスキルが三つ上がり、Lv4になった。あと二つ上がればランクがCになり、Cランクの魔法が付与できるようになる。今夜、みんなが寝静まった後にまたここを使わせてもらおう。


 


 その夜、僕は寝床をひっそりと抜け出し作業室へと来ていた。誰もいないこの時間を利用して、付与術のスキルをできるだけ上げるつもりだ。まずは使い切った付与クリスタルに魔法を込めていく、問題は付与するアイテムの確保だが昼間作った炎属性の石を壊したときに解決した。壊した石のかけらに付与することで。


 おかげで、辺りに炎属性やら土属性やら水属性と言った石のかけらが散らばっていて、間違えて踏むと属性ダメージを受ける地雷のようになってしまっている。とは言え、僕の魔法防御力の前ではほぼノーダメージなんだけどね。


 それより、細かく砕かれた様々な属性を帯びた石のかけらを踏んでいるウチに、段々と面白くなってきてしまった。属性を含んだ石は、壊れるときにその属性の魔力を解放するらしく、それぞれの属性に対応した色の火花を散らして消えていく。


 それが結構、きれいだったので踏み踏みしているうちに色々な属性のかけらを混ぜていっぺんに踏んでみたり、属性ごとに分けたかけらを踏んでみたりと、バリエーションが増えてきた。

 最終的には、外に出てかけらを入れた小さな袋を頭上に放り投げて、ファイアーボールで打ち抜いてみた。すると、一度に爆発したかけらが、夜空に大きな光の花を作り出し、とってもきれいだった。ただし、かなりの爆発音がしたので周囲の家からエルフのみなさんが何事かと出てきてしまいました。はい、ごめんなさい。





 こうして、昼は女王様の教えを受けたり、精霊達と遊んだり、エルフ達に伝わる料理を習ったりしながら、夜はひっそり訓練という生活を一ヶ月ほど続けると、僕の付与術のレベルは21へと上がり、ランクもSとなった。属性のかけらを入れた袋も"花火"と名付けて、赤やら青やら黄色やら、はたまた色々な色が混ざっているものまで完成させてしまった。


 しかしながら、さすがに一ヶ月でSランクまで上がるのは早すぎるようなので、一応ステータスは隠蔽してBランクと言うことにしている。それでも随分早いと女王様は驚いていたけどね。


 そして今日、Bランクへ上がったばかりと思っている僕に女王様から一つの課題が出された。


「ライトよ。今年の祭りに使う祭器の付与をお主にまかせるぞ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る