第88話 閑話 とある貴族の三男坊
~side ???~
「お坊ちゃま。どうか許してください。もう我慢できません」
「ダメだ。命令だ。漏らすまで動くな」
とある田舎の領地で領主の三男であるレイモンドは、わがままいっぱいに育ち使用人相手にやりたい放題やっていた。
今日は自分に与えられたメイドをトイレに行かせないで、その様子を肉をパンで包んだものを食べながらニヤニヤと眺めている。
「坊ちゃまもう……」
15歳ほどの少年に屈辱的な状況に追い詰められるメイド。それを見て楽しむエロガキ。
「うぐぅ!?」
その時、レイモンドが頬張ったパンが喉を塞いだ。
椅子から転げ落ち、喉を掻きむしりながら顔を真っ赤に染めるレイモンド。
「ああ、坊ちゃん! 助けてあげたいのはやまやまですが、私は坊ちゃんの命令で動くことができません! ああ、助けたいのに!」
その言葉を聞いて、レイモンドは一瞬、怒ったような表情を見せたが次第に顔色が悪くなっていき……ついには動かなくなってしまった。
~side レイ~
(!? く、苦しい! 何だ? 何かが喉に詰まっているぞ?)
目を覚ました俺は、喉に何かが詰まっていることに気がついた。
(このままでは死んでしまう……
俺は自分の口の中に小さな水の玉を作り、喉に詰まっている何かを押し流した。
「ごほっ! ごほっ! あー、死ぬかと思った!」
無事、喉に詰まった何かを胃の中に収めた俺は、改めてこの状況を確認しようと辺りを見回すと、口に手を当て目を見開き、俺を幽霊でも見るような顔で見つめながら、太ももをもじもじさせているメイドと目が合った。
「ぼ、坊ちゃん。お、お亡くなりになったのでは?」
いや、死にそうにはなったけど死にはしなかったぞ。しかし、無詠唱がなかったら危なかった。声が出せなかったからな。
しかし、このメイド、なぜに高速で太ももをもじもじさせているんだ? そっちが気になって会話の中身が入ってこないぞ。
「いや、見ての通り死んではいないのだが、お前はなぜにそんなにもじもじしているのだ?」
「いや、先ほどまでは見ての通りお亡くなりになっていたのですが……我慢の限界です。お手洗いに行きたいです」
何だこのメイドは。お手洗いに行きたいのならさっさと行けばいいだろうに。
「お手洗いに行きたいのなら、さっさと行って来たらどうだ? 我慢は身体によくないぞ」
「えっ!? 行ってよろしいのですか? それに今、私の身体を気遣ってくださいましたか!?」
何をそんなに驚いているのだこのメイドは。こちらも、この状況をゆっくり確認したいから、ひとりにしてくれた方が助かるというのに。
「さっさと行ってこい。俺はもう大丈夫だから」
その言葉に弾けるように部屋を飛び出して行ったメイド。何だろう、我慢好きなメイドなんだろうか?
それはそうと、今のこの状況を確認しなくては。俺の最後の記憶は……ライトが鍛冶師を極め……確か次はエルフの国に行くって……くそ! エルフの国か、行ってみたかった!
まあいい、いつかライトに案内させよう。
えーと、そこで俺の意識は途絶えて……これは転生したのか? 確かさっきのメイドが見ての通り亡くなっていたって言ってたしな。しかし、転生魔法も使わずに転生できるものなのか?
……あっ! もしかして、あの時か? ライトに転生魔法をかけておくように言ったとき、魔力は減ってるのにかかってないときがあった。あの時は失敗だと思って他が、もしや俺にかかってたんじゃないか? 魔力減ってたし。
おおっと! これは嬉しい誤算だな! ライトに感謝しなくては!
よし、そうとわかれば現状把握だ。まずはステータスか。
名前 :レイモンド・フラッチャー
性別 :男
種族 :人族
レベル:100
ジョブ:賢者
クラス:SS
職業 :領主の三男
体力 :1549
魔力 :3776
攻撃力:634
防御力:606
魔法攻撃力:4002
魔法防御力:3898
敏捷 :1207
運 :743
オリジナルギフト:なし
ユニークスキル
無詠唱・並列思考・消費魔力減少・魔力回復速度上昇
魔法攻撃力上昇(中)・魔法防御力上昇(中)・アイテム効果アップ
ラーニングスキル
炎魔法SS Lv30・風魔法SS Lv30・土魔法SS Lv30・雷魔法SS Lv30
水(氷)魔法SS Lv30・闇魔法SS Lv30・光魔法SS Lv30・聖魔法SS Lv30
重力魔法SS Lv30・時魔法SS Lv30・空間魔法SS Lv30・錬金術SS Lv30
おお、名前はあれだがステータスが転生前に戻ってるぞ! オリジナルギフトはライトにとられちまったようだが、まあいいさ。あいつには世話になったからな。餞別代わりだ。
それと俺の見た目だが、十五歳くらいのガキの姿になってるな。身なりはまあまあよさげだが、一流ってほどではないな。この身体の記憶は……ほとんどないな。
さてどうしたもんか。ああ、さっきのメイドが帰ってきたな。よし、あいつに色々聞いてみるとするか。
▽▽▽
どうやら俺は田舎の領主の三男坊の身体に転生したらしい。もじもじメイドが言うには、俺の名前はレイモンド・フラッチャー。それはもう、我儘で意地悪でいやらしくて最低の人間だったそうだ……
確かにこのわがままボディを見れば、その説明も納得だな。
それで、このメイドにお手洗いを我慢させ、その様子をニヤニヤしながら見てたんだとか……最低だな、俺。いやいや、俺じゃない俺じゃない!
それで、どうやら俺はみんなから嫌われているらしい。
くそ! せっかく上手く転生できたのにこれじゃあ困っちまう! 女の子と手をつないで、あれやこれやしたいのに!
よし、ここはあれだな。イメージ改善大作戦だな。ひたすら善行を積んで言い人間だと思われるのと同時に、このわがままボディもなんとかしないとな。一応、田舎ではあるがいいとこの坊ちゃんだけあって、顔の作りは悪くないと思う。やせれば、チャンスはありそうだ!
しかし、前世は魔法ばっかりだったからな。運動はちょっと苦手だぜ。女の子にもてるためにやるけどな。
そこから俺の挑戦が始まった。
▽▽▽
まずはイメージ改造大作戦の方だが、意地悪しなくなっただけで、評価が爆上がりした。これはあれか? 乱暴な戦士がちょっと優しくしたら、ギャップでモテるというやつなのか?
とりあえず、労せず評価が上がったわけだが、これじゃあまだまだ物足りない。もっと、俺の魅力を伝えなければならない。最初に俺は料理に挑戦してみた。ライトがやってたから簡単にできると思ったのだ。
我が家の専属料理人に料理をさせてほしいと頼んだら、腰を抜かして驚いていたな。何て失礼なヤツなんだ。だが、今の俺は名誉挽回中の身。文句を言いたい気持ちをぐっと抑えて、丁寧にお願いする。
すると、料理人は何かを疑うように恐る恐るではあるが、俺に簡単な料理を教えてくれた。
俺の五感はある程度ライトと共有してたからな。初めての割に手際よく作る俺に、料理人も驚いていた。そして、出来上がった料理をレイモンドの父さんと母さん、使用人達に振る舞ったら、それはもう俺の株は爆上がりだったよ。両親なんて、泣いて喜んでいたしな。
それからもうひとつ。肉体改造計画だ。賢者の俺にとって、運動するのは苦痛だが、モテるためには仕方がない。毎日、ジョギングと筋力トレーニングをすることにした。
最初はちょっと走るだけでハァハァ言って気持ち悪がられたが、そこは賢者の特権で回復魔法で無理矢理体力を回復させて、身体を限界まで酷使してやったぜ。そんなトレーニングを一ヶ月も続けると、あら不思議、素晴らしい細マッチョな身体のできあがりだ。
この身体と持ち前の整った顔のおかげで、最初は気持ち悪いと言っていたメイド達が、俺が上半身裸で汗をふく姿を見るために、仕事を抜け出すようになってしまった。
俺は何て罪作りな男なんだ。
そんなこんなで、色々努力を重ねた俺は、名実ともに兄達を超える三男として認識されるようになったのだった。
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