第87話 閑話 シリルのその後④

~side シリル~


「ドルド……お前何者だ?」


 アジトにしている洞窟で、暗殺者に襲われ俺を助けたのは側近のドルドだったのだが、明らかにドルドの様子がおかしかった。そもそも、ドルドはあまり戦闘向きではなかったはずなのに、俺でさえ気がつかなかった不意打ちを完全に防ぎ、もの凄い速度で逃げた暗殺者にあっという間に追いついちまったしな。


 二人目の暗殺者が来たから取り逃がしたなんて言ってやがったが、あれは嘘だな。戻ってきたあいつは、もう隠すつもりがなくなったのかいつものおどおどした雰囲気は全くなく、むしろ自信満々の強者の面構えに変わっていやがった。


「あー、ここでバラすつもりはなかったんだガ、まあいイ。ちょっと二人で話せるカ?」


 ドルドの生意気な口調にイラッときたが、有無を言わさぬ迫力を感じたのも事実で、俺は女どもを部屋から追い出しドルドの話を聞くことにした。




「俺の本当の名前ハ、ドルイド・D・クロッカス。見ての通り魔族ダ」


 !? 言われるまで気がつかなかった。確かに今のヤツの目は赤い。目が赤いのは魔族の証だ。なぜ俺は今まで気がつかなかったのだろうか?

 そんな俺の心を見透かしたように、ドルドが『やれやれ』と肩をすくめる。


「それで、魔族が一体こんなところで何を企んでやがるんだ? まさか、俺様の血塗られた盾盗賊団を乗っ取るつもりか?」


 ドルドの思惑が全くわからない俺は、軽くジョブを打ってみた。まあ、もし本当に魔族が乗っ取りに来たら抵抗なんてできないかもしれないが。


「まさカ。ここにいるのハ、さっきみたいにお前を狙った上位冒険者を返り討ちにするためダ」


「確かに俺を守ってくれたのは事実だが、それならばなぜヤツらを見逃した?」


 問い詰めても、はぐらかされるばかりでどうもうさんくさい。こいつは一体何狙っているんだ?


「本当の理由を聞けば、後戻りができなくなるゾ? だがもし、我々に協力するならバ、真実を教エ、力も授けてやろウ」


 何だ? 急に雲行きが怪しくなってきたぞ? 真実? 後戻りできないだと? 怪しい言葉が満載だが、俺はドルドが発した最後の言葉に釘付けになっていた。


「力を授けるとは?」


 俺の質問ににやりと笑うドルド。その不気味な笑みを見て俺はちょっと後悔してしまったがもう遅かった。ドルドは自分の腕を前に差し出し、おもむろにナイフで傷をつける。そして、いつの間にか左手に持っていた杯で自分の杯を満たし俺に差し出した。


「飲メ」


 本能が絶対飲んではならないと告げているが、その本能以上の威圧と恐怖をこの魔人から感じ、俺は震える手で杯を受け取り目を瞑って一気に飲み干してしまった。


(熱い! 身体の中が燃えているようだ!? うぐおぅ、く、苦しい……)


 魔人の血を飲んだ俺は、すぐに身体が燃えるように熱くなり、地面に倒れ身体をかきむしる。 


(まさか、このまま俺は死ぬのか?)


「ほウ、これは面白い結果になりそうダ……」


ドルドが何かを呟いていたようだが、あまりの熱さに意識が朦朧とし、次第に何も聞こえなくなっていった。




 俺は夢を見ていた。小さい頃の夢だ。男爵家に生まれた俺は、兄と弟と幸せに暮らしていた。だが、俺が小さい頃母親が死んだ。兄弟揃って大泣きしたことを今でも覚えている。

 だがしばらくしたあの日、親父が連れて来た再婚相手が最悪だった。親父と自分の間にできた子だけをかわいがり、俺達3人はそれはもうひどい扱いを受けた。そして、そのストレスを発散させるために、だんだんと悪いことをするようになった。


 初めのうちは悪さをすれば、倍以上のお仕置きが待っていたが、俺達の身体が大きくなるにつれ、そのお仕置きも怖くなくなっていった。

 このままじゃ不味いと思ったのか、親父達は俺達3人をそれぞれ別の街へと追放した。そこで出会ったリビーとグレースとパーティーを組んで、新人を囮にしながら大金を稼いだんだっけか。だが、俺達のやり方にケチがついてからは……色々あって、ついには盗賊にまで落ちぶれちまったか。


 憎いな。あの時の受付嬢のケリーが。あの場にいた冒険者全員が。俺を殺しに来た女が。

 憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い憎い憎い憎い憎イニクイ




「うっ、俺は一体……何だ? この身体中からみなぎる力は!?」


 数分か、いや数十分なのか? すぐにはわからないが、目を覚ました俺は自分の身体から溢れ出る力を感じていた。


「起きたようだナ。無事成功したようだダ。しかも、滅多になイ純魔人化が起こったようダ」


 純魔人化だと? もしや、俺は魔人の血を飲んで魔人になったのか?


 近くに落ちていた剣を拾い、鏡代わりに自分の姿を確認する。すると、顔の作りはかろうじて俺だとわかるが、肌の色は黒く反対に目は真っ赤に染まり、頭には短い2本の角が生えていた。


「なんダ。魔人になったことを後悔しているのカ?」


「いや、その反対だぜ。俺は人間では決して得られない力を手に入れた。今ならお前にだって勝てそうだな」


「調子に乗るナ」


 俺の挑発にドルドは手に持つ黒い剣を喉元目がけて突き出してきた。もちろん手加減しているのだろうが、さっきは見えなかった剣筋が明らかにスローに見えた。強がりのつもりで言ってみたが、本当に勝てそうだな……


 喉元に迫る剣先をそっとつかむ。その自分のものとは思えない黒い干からびた手に力を込めると、黒い剣はあっけなく折れた。


(何だこの力は!? 制御できない!?)


「ナ、俺の剣をいとも簡単ニ!? いくら純魔族化と言ってモ、おかしいゾ!?」


 俺も驚いているが、あちらさんも大層慌てているようだ。何だかあいつ旨そうだな……

 血を飲んだだけでこれだけ強くなれるなら、あいつを喰ったらもっと強くなれるんじゃないのか?


 俺はゆらりと自然に動き出すことで、ドルドの警戒の外から腕を掴むことに成功する。先ほどと同じようにその手をぎゅっと握ると、ドルドの手首から先がぼとりと落ちた。


 それを拾って口元へと運ぶ。


「ウガァァァァァァ!!」


 そこで初めて、ヤツは自分の手がもぎり取られたことに気がついたようだ。まあ、今の俺にはどうでもいいがな。それよりも、このヤツの手だ。うまい。それに、食べるたびに力が増していく気がする。


 ヤツは苦し紛れに魔法を放ってきたが、俺が手を振るうだけで暗黒の霧は霧散した。ってか、魔族相手に闇魔法とかバカなのか? 効くわけがないだろう。


 俺は驚愕の顔を浮かべるドルドの胸に手刀を突き刺し、魔核石を無理矢理抜き取った。


 口をパクパクしながら倒れ落ちるドルド。そう慌てるな。お前は後で残さずに喰らってやるからな。その前に、俺はドルドから抜き取った魔核石を食べた。なかなか硬くて噛み応えがあったが、かけらも残さずに平らげてやったさ。


 それから残りのドルドだったものを食い尽くし、俺は次なる獲物を探すためにこの部屋を出た。


ステータス


名前 :シリル・♯・ニューマン

性別 :男

種族 :ジュン魔人族

レベル:Δイ※

クラス:A


体力 :1755

魔力 :1708

攻撃力:1881

防御力:1771

魔法攻撃力:1666

魔法防御力:1666

敏捷 :1000

運 :77


ユニークスキル 

攻撃力上昇(小)

防御力上昇(小)

闇属性


ラーニングスキル 

闇魔法A・闇耐性・剣術C

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