第90話 エルフの国の女王
若いエルフに連れて行かれたところは、中央にある一際大きな木の上に建てられた家だった。
「ウィルフィットよ。そやつは誰じゃ? なぜ人間がこの国にいるのじゃ?」
大きな家の中にいたのは、緑色の髪、整った顔立ちに、すらっとした容姿、エルフの名に恥じない美しい女性だった。おそらくこの国の女王様なのだろう。レイがいれば大騒ぎ間違いなしだったのにな……
「はっ、女王様。結界の中に不審者が紛れ込んでいましたので、女王様の判断を仰ぐべく連れて参りました!」
ウィルフィットと呼ばれた若いエルフが女王の問に元気よく答える。いや、待てよ。若いエルフと言っても、エルフは元々長命の種族だからね。ひょっとしたら、見た目よりも年をとっているかもしれない。ましてや、女王様となればこのきれいなエルフだって……
「ほほう、不審者とな。そこの人間が妾が作った結界を通り抜けてきたと。俄には信じられんな。それに、そこの人間。そなた、何か失礼なことを考えていなかったか?」
(うお!? 何だこのエルフの女王様は!? 心が読めるのか!?)
「あの、その、結界は……仲良くなった精霊達のおかげでしょうか? それに失礼なことなど全く考えておりません」
僕が結界魔法のSSランクであることを今は言うべきではないと判断したので、咄嗟に嘘をついてしまった。それにしても、あれだね。もの凄い美人に冷たい目で見られると、もの凄いプレッシャーを感じるね。
「ふむ、精霊達にそんな力はないはずじゃが……まあよい。それほど精霊に懐かれておるのじゃ、悪いやつではなかろう」
「えっ!? 女王様、こんなやつの入国を認めるのですか!?」
驚いた。まさか、こんな簡単に許してもらえるとは、予想していなかった。それだけ、このエルフの国では精霊に認められることが重要視されていると言うことなのかな?
「それで、そなたは何が目的でこの国にきたのじゃ? まさか道に迷ったわけではあるまい」
おっと危ない。本来の目的を忘れるところだった。ありがとう女王様。
「はい、僕の名前はライトと言います。僕は今、最高の付与師を目指して修行中です。ここに世界一の付与師がいると聞いて弟子にしてもらいたくて来ました」
僕がこの国に来た目的を話すと、それを聞いた女王様は細くきれいな指を顎に当てて思案し始めた。
「ふむ、確かに世界最高の付与師と呼ばれる者がここにはおるが、そなたはそのことをどこで聞いたのじゃ? エルフの国のことは知っていても、エルフの国がどこにあるかは一部の者しかしらないはずじゃが?」
へー、そうだったのか。知らなかった。親方はそんなこと一言も言ってなかったぞ。
「えーと、ゴルゴンティアにいるガスティンという鍛冶師から聞きました」
僕はすぐに親方の名前を出して、様子をうかがう……までもなく、女王様の笑顔を見て警戒が解けたことを悟った。
「ほほう、ガスティンか! 確かにあやつなら妾のことを知っておるな。何せ、この国の祭器を直してもらったからのぅ。そうかそうか、あやつの紹介か。ならば無下に断るわけにはいかないが……」
さすがは親方。まさか、エルフの国の女王様と面識があるとは。おかげで話がうまく進みそう……でもないのか? 急に女王様の表情が曇りだしたぞ。
「あの、何か不都合でもあるのですか?」
「実はのぅ……」
僕の問に、女王様は疲れた様子で答えてくれた。
なんでも、儀式のために国の外に持ち出した祭器が何者かに盗まれてしまったらしい。今、エルフの精鋭達が探しているのだが、未だ犯人は見つかっていないらしい。
その祭器とは親方が以前直したもので、意外にも剣の形をしているそうだ。エルフだから、てっきり弓とか聖杯とかだと思ってた。なんでも、反逆戦争に参加した時にドワーフが作ったものだとか。
よし、これはアレだね。解決に協力して、世界一の付与師を紹介してもらうとしよう!
「女王様。もしよろしければ、その祭器の捜索をお手伝いさせてもらってもよろしいでしょうか? もし、僕が祭器を取り戻すことができたら、この国一番の付与師に弟子入りすることを許可していただけませんか?」
「む、そなたが捜索を手伝うだと? 確かに人ではほしいところだが……危険じゃぞ?」
確かに僕の見た目は子どもだし、付与師になろうとしているくらいだからね。心配されるのも無理ないか。
「はい、危険は承知の上です。これでも冒険者登録もしているので、大丈夫です!」
でも、僕は立派な冒険者。絶対役に立てるはずだ!
「そうか……では、ひとつ頼まれてくれるか? 無論、しばらくの間この国に留まることを許可しよう。ウィルフィットや。宿まで案内してやるのじゃ。そこで、もう少し詳しく説明してやってくれ」
「ですが……わかりました。おい、ライト! ついてこい!」
ウィルフィットはまだ不満そうだったけど、女王様に人睨みされて大人しくしなった。まだ仏頂面をしてるけど、とりあえずこの国にひとつしかない宿に連れて行ってくれるらしい。
▽▽▽
僕は木の上にある建物のひとつに案内されて、精霊達と一緒にウィルフィットの話を聞いた。それによると、祭器が盗まれたのは3日前でまだ森の中にいるはずだと言う。この森は精霊の力を借りて監視しているので、森から出たらすぐにわかるらしい。
そうとわかれば、早速、犯人を探しに行こう。僕は宿から出てめいいっぱい探知を広げた。
(おや、随分離れたところに怪しい気配があるな)
僕はこの国から数㎞先に、少しずつ離れていく存在を探知した。強さ的に、これは魔族っぽいな。何だかあいつらは、どこにでも現れるな。
僕はすぐに精霊達を森に帰し、探知にかかった魔族の元へ向かった。
気配を消しながら近づいた僕は、見つかる前に上空へと転移し魔人を鑑定する。
名前 :コミュット・D・ハイランサー
性別 :男
種族 :魔族
レベル:84
クラス:A
体力 :1489
魔力 :1395
攻撃力:1132
防御力:907
魔法攻撃力:1476
魔法防御力:1463
敏捷 :947
運 :242
ユニークスキル:闇属性・攻撃力上昇(小)
ラーニングスキル
闇魔法A Lv17・闇耐性・剣技A Lv16
(なるほど。ついにAクラスの魔族が出てきたか。名前にもDがついているし、なかなか強そうだ)
名前の間にDの文字が見えるし、今までの魔族の中で一番位が高いようだ。もちろん、レベルもステータスも。特に攻撃力は、ユニークスキル"攻撃力上昇(小)"がある分、頭ひとつ抜けている。
けどね。僕が苦戦するほどの相手じゃあないね。僕はこの魔族からも情報を得ることができないかと思い、堂々と正面へ転移した。
「何やつ? いったいどこから現れだのだ!?」
何だか人間の旅人に偽装しているのか、大きめの帽子を深く被り、角と目を隠している。鑑定持ちの僕にはバレバレだけど。
「エルフの国から盗んだものを返してください。それは直接あの計画には関係ないはずですよね?」
僕は魔人達がなぜか他の種族の強者を消そうとしているのではないかと思い、かまをかけてみた。
「なぜそのことを? しかし、これはお前達みたいな者を釣るには絶好のアイテムなのだよ。残念ながら手放すわけにはいかないな。そして、これに釣られたお前を生かして帰すわけにもいかない!」
はい、確定です。どうやら魔族達は各種族の強者達を個々に始末をして、戦力を削いでいるようです。魔族とバレたからか、帽子とマントをバサーっと格好つけてとってるけど、情報漏洩しているあなたは滑稽なだけですからね。
魔人コミュットは剣技のスキルを持っているからだろう、黒い片手剣を手にしている。背中にくくりつけている剣は……あれが祭器だな。あれは傷つけないようにしないとね。
(よし、こいつの剣技がどれほどのものか見せてもらおう)
僕も自分で打った竜断を抜き、正面に構える。
「ハッ!」
先手は向こうだ。そこそこ素早い踏み込みで上段から剣を振り下ろしてきた。
ギィン!
その剣を竜断で受け止める。ひょっとしたら向こうの剣が斬れるのではないかと思ったけど、黒い剣はなかなか頑丈だったようで原型を保っていた。
ギィン! ギィン! ギィィィィン!
続けざまに放たれた橫薙ぎも袈裟斬りも受け止め、喉元目がけて鋭く伸びてきた突きを下からすくい上げるように打ち払うと、さすがに耐えられなかったのか黒い剣は中程から真っ二つに斬れてしまった。
「バカな!? 我が血から作られた剣が斬られただと!?」
そのセリフがこの魔人の最後の言葉となった。大体、戦闘中に余計なことを喋ってるなんて、殺してくださいと言ってるようなものでしょ。そんなんだから、僕が少し本気を出した剣速について来れないんだよ。
一瞬遅れて、驚いた表情のままの魔人の首がぼとりと落ちる。
(よし、祭器を傷つけずに倒すことができた)
魔人を倒した僕は、背中にくくりつけてあった祭器を返してもらい、その頭と身体を炎魔法で焼いた。その後、焼け残った魔核石を拾いエルフの国へと戻るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます