第83話 卒業試験②

「親方、完成しました」


「どれ、見せてみろ」


 僕は五日間かけて、今までの最高傑作となる刀を完成させた。素材はヒヒイロカネ、保有魔力は最大の30000。ヒヒイロカネの基礎攻撃力400が50%アップして、攻撃力は600になっている。形は僕が持つ村正を参考に、長さは腕一本分よりやや長いくらいにした。あえて刀身をそらせることで抜きやすく、切れやすくなっている。名前は"竜断りゅうたち"としてみた。


「むぅぅぅ、こ、これは……まるで……いや、しかしそんなことが……だが、実際に……」


 親方が僕の竜断を見てうなり声を上げる。僕としてはこれ以上ないくらいの会心のできだったのだが、何か問題点でも見つかったのだろうか?


「ライトよ。お前はこのワシを大きく超えてしまったようだな。最早、この一品だけで卒業試験は合格間違いないのだが、ワシもこの刀とやらの切れ味を見てみたい。明日、ワシと一緒に地下迷宮ダンジョンに行くぞ。準備をしておけ」


 親方はそう言って、自身も地下迷宮ダンジョンに入る準備を始めた。


 僕も元気よく返事をしてから、足りなくなった魔力回復ポーションを買いに出る。この試験が終われば親方ともお別れかな。そう考えると、少し寂しくなってしまった。




 ▽▽▽




「それじゃあ、行ってくるぞ」


 翌日の朝早く、親方はローラさんに一声かけてから工房を後にした。手にはいつぞやのアダマンソードが握られている。今親方が作れる最高の武器だ。おそらく、この武器と僕の武器を比べ卒業試験が終わるのだろう。


 僕もローラさんに『行ってきます』を言って親方の後を追った。




「よし、無理をするつもりはないが、できるだけ強い魔物で試すぞ」


 親方は地下迷宮ダンジョンの入り口で僕にそう告げてから中へと入って行く。それを見守る何人かの冒険者達。親方が地下迷宮ダンジョンに潜るのが珍しいのか、じっとその姿を見つめていた。


 親方は鍛冶師でありながら、冒険者で言えばCランクくらいの強さがあるらしい。実際、低階層に出るファットマウスやブラッドバッドを一振りのもとに斬り捨てていく。って言うか、あのアダマンソードって売り物じゃなかったのかな?


 僕の心配をよそに、親方はどんどん下の階層へと潜っていく。親方曰く、僕の"竜断"はその辺の雑魚で試すレベルではないらしい。少なくともBランクの魔物で試したいとのことだ。

 そのために、野営道具も持ってきているので僕も長期戦を覚悟してきた。それに、僕はアクアソードや村正も持っているので、こっそりジョブを侍に変更して魔物狩りを手伝っている。


 そんな僕の姿を見て親方は、『治癒魔法だけじゃなく、刀まで使えるのか……』とぼそっと言ってた。褒め言葉だよね?


 この地下迷宮ダンジョンは採掘でもよく潜っているので、下へと続く道の記憶もバッチリだ。最短でどんどん潜っていき、五時間で五階層までたどり着いた。ひとつひとつの階層が比較的狭いのも、この地下迷宮ダンジョンが人気がある理由のひとつなのだろう。


 しかし、この地下迷宮ダンジョンは下に降りるのが容易なせいか、その分魔物が強くなるのも早い。現に、ここ五階層からはCランクのスパイクさウルスが姿を見せ始める。ちなみに、ミスリルが採れ始めるのもこの辺りからだ。


「もう少し進むぞ」


 親方は口数少なく先へと進んで行く。僕も後れをとらないように、横に並びながら歩く。正直、この辺りの魔物は僕にとっては雑魚同然なので、探知を使い視界に入り次第即倒している。


 そして、地下迷宮ダンジョン突入から約十時間後、十階層でようやくBランクの魔物が現れた。


「ミスリルゴーレムだ。こいつを斬ってこい。そうすれば、試験は合格だ」


 なるほど。親方の持つアダマンソードであれば、ミスリルゴーレムは問題なく斬れるはずだ。僕が作った刀で同じことができれば、試験は合格というわけなのか。

 うむ。と言うか、過剰戦力の気がしないでもないけど、とりあえず斬っておきましょうか。


 僕は村正をしまい、竜断りゅうたち魔法の袋マジックバッグから取り出した。あえて鞘から抜かず、腰に差していつでも抜けるように準備をする。


「抜刀術・速!」


 侍のラーニングスキルAクラスの抜刀術・速。居合抜きで放つ初撃に限り、攻撃力が40%アップする。1500を超える攻撃力が40%アップされ2000を超える。それに武器の攻撃力を足したら……


 キン


 乾いた音とともに、ミスリルゴーレムの上半身が胸の辺りからきれいに分かれた。


「惚れ惚れする切れ味だわい」


 それを見た親方が呟いた。どうやら、試験は合格のようだね。だけど、戦闘はまだ終わらない。


「ライト、試験は合格だ。このスリルゴーレムの素材を持って……」

「親方、まだ終わってません」


 僕は未だ気がついていない親方の言葉を遮って、ミスリルゴーレムが現れた方を見つめる。

 そこから現れたのは、大きな鎌を持った黒いモヤのような魔物だった。


魂喰いソウルイーターだと!? ライト、今すぐ逃げるぞ!!」


 親方はそう言って逃げだそうとしたが、もう遅い。魂喰いソウルイーターと呼ばれた魔物は、驚くべき速さで近づいてきている。親方の足では逃げ切れるまい。


 僕は再び、竜断を構える。空中を滑るように向かってくる魂喰いソウルイーターは僕に狙いを定め、大鎌を振り上げた。


「抜刀術・極」


 抜刀術のSクラスのラーニングスキル、抜刀術・極。攻撃力が100%アップする。つまり2倍だ。


 僕が神速で繰り出した竜断が、黒いモヤを捉えたと思ったのだが……


 シュ


 風切り音だけを残して、竜断が黒いモヤをすり抜けてしまった。


「ライト、ダメなんじゃ! そいつに物理攻撃は効かない。ワシらでは倒せないんじゃ!」 


 なるほど。手応えがないと思ったら、レイス系の魔物でしたか。それじゃあ、竜断がどんなに斬れ味が鋭くても倒せないわけだ……


 しかし、それはこの竜断がまだ最高の刀に至っていないと言うことでは? もしこの刀が最高の刀なら、レイスごときに遅れをとるはずがない。僕はこの刀をコジローさんにプレゼントしようと思っていたけど、それは間違いだったようだ。


 この竜断をさらに進化させ、魂喰いソウルイーターでさえ、一刀両断にできる刀にしなくては。ここでそれに気づけてよかった。


「おい! ライト! 聞こえとるのか!? ぼーっとしてる場合じゃないぞ! そいつには魔法しか効かない! 早く逃げるんじゃ!」


地獄の炎ヘルフレイム!」


 僕は振り向きざまに、Sクラスの炎魔法、地獄の炎ヘルフレイムを放った。その地獄の業火は、反転して僕を追って来た魂喰いソウルイーターを覆い尽くす。


「ギシャァァァァ」


 どこから出しているのかはわからないが、魂喰いソウルイーターは断末魔とともに消えていった。


「……魔法も使えるんかい。ますます鍛治をやってる意味がわからんわ」


 残されたのは、魂喰いソウルイーターの魔石と大鎌と親方の呟きだった。

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