第81話 鍛冶師を極める……

 魔物の氾濫スタンピードに遭遇した次の日から、僕は再び親方の工房で鍛冶の修行に精を出していた。三日鍛冶の修行をして、一日採掘してという生活を繰り返すこと一ヶ月、僕の素材加工術の習熟度はLv23に、鍛冶クラスは親方を超えるSクラスへと上がっていた。


 Sクラスともなると、習熟度×50もの魔力を一度に込めることができる。つまり、たった一回だけで1000以上の魔力を込めることができるのだ。最大魔力量が2000のミスリルだって二回も込めれば保有魔力量100%の物が出来上がる。もちろん、親方には内緒にしているけど。

 それにしても、この一ヶ月でレイが起きている時間がめっきり減ってしまった。会話をしているときは元気なんだけど……何だか心配だな。


 また、あの日以来、僕は親方の工房を夜に使わせて貰うことが多くなった。もちろん普通に修行したら僕の習熟度がバレてしまうからだ。日中は、低ランクの素材で親方の目を誤魔化し、親方が上がった後に高ランク素材で習熟度を上げている。おかげで、日中に僕の作ったアイアンソードやスチールソードは低ランクから中ランクまでの冒険者に大人気となっている。


 何せ込められている魔力量は常に最大なので、鉄や鋼で出来る最大の攻撃力のものが出来上がる。親方クラスの鍛冶師なら同じことができるだろうが、彼らはそんな素材はほとんど扱わない。知り合いに頼まれたら渋々作る程度だ。


 だが僕は親方の目を誤魔化すために、日中は低レベルの素材ばかり扱っている。必然的に、低ランク素材だが最高品質の武器が量産される。それが口コミで広がって低ランクから中ランクまでの冒険者が集まってきているというわけだ。


 親方も最初こそ僕に手取り足取り教えてくれたが、元々ドワーフの教え方は見て盗めなので、ある程度の物を作れるようになった頃には自分の武器の制作に夢中になってくれていたのもありがたかった。


 ちなみに鍛冶の世界では、弟子が親方と同じクラスまでたどり着いたら一人前として独り立ちするらしい。そう考えると僕はもう独り立ちしてもおかしくないのだが、スキルが上がるスピードが速すぎて正直に打ち明けられない状況だ。今、親方には習熟度はLv12と報告している。これだとミスリルを扱えるCクラスだ。


 これでも十分早過ぎるらしい。ちなみに親方はこの一ヶ月スキルは上がっていない。どうやらこれが普通のようだ。やはり、大量の魔力と魔力回復速度上昇のスキル、それに賢者の習熟度が上がりやすくなる補正のコンボの効果は絶大だ。低ランクの武器ならあまりにたくさん作れてしまうので、怪しまれないように半分以上はアイテムボックスにしまっている。


 そして今日もまた多くの冒険者が僕の作った剣を求めて集まってくるのだった。





「はあ、早く僕もライトさんが打ったアイアンソードを買えるようになりたいなぁ」


 そんなある日、ひとりのまだ少年と呼べるような年頃の男の子が武器を見にやってきた。彼の名はアベル。まだ駆け出しの冒険者だ。内の街リンテイラに住むことは許されてはいないが、冒険者ということで立ち入りは許可されているようだ。

 何でも彼の親は有名な冒険者らしいが。一週間ほど前から顔を出すようになり、まるで愛しい恋人を見るかのように僕が作った武器を見ては、ため息をつきながら帰って行くのが日課になっている。店の方には親方が作った武器も置いているのだが、金額が金額だけにまだそちらの方を見る勇気はないみたいだ。


 僕が作るアイアンソードは一律大銀貨一枚となっている。作る物全てが最高品質だろうが、値段は変わらない。スチールソードは一律金貨一枚。素材も半分以上自分で採ってきているので本当はもっと安くしてもいいのだが、相場をあまり崩さないようにこの値段にしている。


 駆け出しの冒険者であれば、日々の生活で精一杯の稼ぎしかないため、大銀貨一枚稼ぐのも中々大変なようだ。なので、日々、クエスト帰りにこの工房に寄ってはいつか最高品質のアイアンソードを買うことを夢見て帰って行くのだ。


「素材持ってきたら、もっと安く打ってあげるけど?」


 今日は偶々朝に親方からオーダーメイドの武器を作る許可を得たので、その練習にと思って軽い気持ちでアベルに持ちかけてみた。


「えっ!? 本当ですか!? 鉄ですよね? あっ、鋼でもありですか!? 自分が採ってきた物じゃなくてもいいですよね? 何としてでも手に入れてくるので、ぜひお願いします!」


 何か軽い気持ちで言ったのに、矢継ぎ早に質問した挙げ句、答えも聞かずに店を飛び出してしまった。





 僕が夜な夜な鍛冶の修行を始めるようになってからさらに一ヶ月後に、僕の素材加工術の習熟度は最大の30へと達した。もちろん、鍛冶クラスはSSクラスだ。ついでに言うと、採掘の習熟度もカンストしており、オリハルコンどころか幻の金属と言われるヒヒイロノカネすら探知できるようになっている。


 ただ、親方にはこの二ヶ月でBクラスに上がったと報告していて、それでも早すぎると疑われてしまったくらいだ。


 そんなある日……


「ライトさん! ミスリルを手に入れました! これで片手剣を打ってください!」


 一ヶ月前に素材を持ってくると言って飛び出していった見習い冒険者のアベルが、ミスリルを持参してやってきた。どうやら、この一ヶ月せっせと地下迷宮ダンジョンに通い魔物を倒す傍ら、採掘師の人達と仲良くなって直接売ってもらったようだ。見習い冒険者にしてはなかなかの行動力だね。

 何はともあれ、素材を持ってきてくれれば格安で剣を打ってあげることが可能だ。僕はすぐに了承してミスリルを受け取った。


 まずはミスリルに魔力を通し、熱する。真っ赤になったところで取り出して、魔力を一度込める。SSランクの習熟度は30。倍率は破格の100倍。つまり、一度の込められる魔力は3000となっている。

 当然、一回で保有魔力最大のミスリルができあがった。それを、叩いて伸ばして剣の形にしていく。そうだ、せっかくのオーダーメイドだから柄の底の部分にライト印のマークを入れておこう。


 僕がミスリルソードを作っているのを、キラキラした目で見ているアベル。その期待に応えるべく頑張った結果、素晴らしいできの片手剣ができあがった。


「すごいすごい! 剣ってこんなに早く出来上がる物なんですね!」


「!?」


 アベルの喜ぶ声を聞いて気がついた。これは、やってしまったのではないのか?


 完成した剣をアベルに渡し、そーっと後ろを振り返ってみると、両腕を組み難しい顔をしている親方と目が合った。


「ライト、話がある。そいつが帰ったら奥に来い」


 親方はそれだけ言い残して、奥へと引っ込んで行ってしまった。


 僕はアベルからミスリルソードの代金を受けとり、スキップで工房を出ていく彼を見送った後、重い足取りで親方の待つ部屋へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る