第80話 スタンピード終結
「さてと、向こうはやる気満々みたいだね」
前のめりに倒れていた身体を起こし、こちらを睨みつけるベヒーモス。そりゃあ、自分の行動を結界に阻まれてイライラしていたところで、急に結界が解けて転ばされたら誰だって怒るだろう。
僕はベヒーモスをにらみ返しつつ、
ブォォォォォ!!
僕が戦闘態勢に入ったのがわかったのか、ベヒーモスが咆哮を上げた。しかも、ただ叫んだだけではない。魔力が込められたその咆哮に合わせるかのように、地面から土の槍が何本も僕めがけて襲ってきた。
「
僕は咄嗟に跳躍し、その槍を躱す。さらに通常では考えられないような巨大な槍が連続して迫ってくるが、僕は重力魔法も駆使して軽やかに躱していった。
「さすがは土魔法Sクラス。威力も精度も半端ないね」
僕は魔物に詳しいわけではないけど、おそらくこの魔物はSランクの魔物だと思う。土魔法がSクラスだし、今まで戦ったAランクの魔物より遙かに強いから。けど、そうなるとお世辞にも深い階層とは言えないこんなところにいていい魔物だとは思えない。
ましてやこの魔物は下の階層から地上めがけて突き進んでいた。こんなに強い魔物がこのまま地上に出てしまえば、ゴルゴンティアだって無事では済まないのではなかろうか。
だとすれば、ここで退治しておいた方がいいのかもしれない。ベヒーモスが放つ
「よし、こっちからもいくよ!」
今まで逃げに徹していた僕は、背後から迫る大地の槍を逆に足場にして、ベヒーモスめがけて一直線に突っ込んで行く。急な動きに回避行動が遅れたベヒーモスの隙を突き、僕はベヒーモスの左前足を切りつけたのだが……
ガキィン!
硬い皮膚に阻まれ傷をつけることができなかった。
「やっぱりこの武器じゃ無理か」
僕が持つアクアソードはミスリル製だ。僕の攻撃力がいくら高くても、この武器ではベヒーモスの硬い皮膚に傷をつけることができない。むしろ、素手で戦った方がダメージを与えることができるだろう。でも、どうせなら僕の攻撃力についてこれる武器がほしい。鍛冶師としての新たな目標が誕生した瞬間だった。
僕の攻撃が通じなかったことで、ベヒーモスがにやりと笑った気がした。いや、実際にゆっくりとこちらに近づいてくる様子から、僕の攻撃が効かない以上、自分の勝利は確実だと思っているようだ。
僕は剣での攻撃を諦め、アクアソードを
(まあ、この採掘師の恰好じゃ魔法を使うなんて思わないよね)
僕は右手を前に突き出して、魔法を放った。
「
炎魔法Sクラス、
あまりの衝撃に
数十秒後、爆発の衝撃が収まった後には、ベヒーモスの頭と人間の頭ほどの魔石、そしてクレーターとなった地面から大量に溶けたミスリルと少量のアダマンタイトが落ちていた。
「これ、掘るより爆発させた方が早いかも……」
そんな独り言を呟きながら、僕はそれらを全て回収するのだった。
▽▽▽
~side ???~
一方、ライトを置いて逃げ出したボッザはというと……
「ヤバイ、ヤバイヨ!
先に逃げ出していた冒険者達を追い抜き、物凄い勢いで
「ねぇ!? ライトは? オレと一緒にいた相棒はどこ!?」
後から出てきた冒険者に詰め寄るボッザだが……
「あぁ!? 知らねえよそんなヤツ。それより、すぐに
冒険者はボッザを振り払うとすぐに駆け出していってしまった。周りで聞いていた商売人達は、ボッザ達の尋常じゃない様子に嘘はないと感じたのか、慌てて店をたたみ始めた。
「おい君! どうなってるんだ!? 詳しい話を聞かせてくれ!」
冒険者に振り払われ、尻餅をついたボッザを立たせた衛兵が問い詰める。
「魔物が……魔物の大群が急に現れて……オレは逃げるのに必死で……助けてくれよ……相棒のライトがまだ中にいるんだ……」
衛兵と話すボッザの声は次第に小さくなっていく。正直、あの魔物の大群に飲み込まれたら、生きているのが難しいことくらいはわかってしまったから。
「何てことだ……少し様子がおかしいと思っていたが
衛兵に頼まれた若い冒険者は慌てて頷くと、街へ向かって走って行った。
「ここにいる冒険者のみんな!
衛兵が叫ぶと、様子を見に来ていた冒険者達が集まってきた。しかし、
集まった衛兵と冒険者達は、少し離れた場所で入り口を囲むような陣形を取った。それぞれが武器を構え、入り口を凝視している。その中には相棒の無事を祈るボッザの姿もあった。
入り口を包囲してから数分が経過する。ボッザと冒険者のやりとりから、すぐにでも魔物達が溢れてくると思っていた衛兵達は、一向に現れる気配のない状況に困惑していた。しかし、いつ現れるかもわからないので気が抜けない。精神がじりじりと消耗していく中で、衛兵達は魔物の襲来を待っていた。
っと、そこに何者かの足音が聞こえてきた。魔物の大群にしてはやけに数が少なく規則的な足音だ。いや、大群どころか聞こえてくるのは一人分の足音だけだ。
(一体どういうことだ?)
衛兵達は予想外の状況にどう対応していいのか困惑しているようだ。しかし、何者かが
▽▽▽
「あれ、みなさん怖い顔してどうしたんですか?」
僕がベヒーモスを倒して
「ライト!? ライトォォォォォ!」
僕が困惑して立ち尽くしていると、その包囲網の中からボッザが飛び出してきて僕に抱きついてきた。
ボッザに抱きつかれた僕は何が何だかよくわかっていなかったのだが、しばらく泣き叫び僕の鎧を鼻水だらけにしたボッザに説明してもらい、ようやくことの次第を理解した。
つまるところ、やり過ぎたということだ。
だが、実際あったことをそのまま伝えるつもりはない。
「
僕がボッザにことのあらましを聞いていると、ひとりの衛兵が声をかけてきた。ここからが僕の腕の見せ所だな。
「はい、確かに見ました。先に逃げていた冒険者の片が『逃げろ』と声をかけてくれたのですが、慌ててしまった僕はみんなと違う道に入ってしまい……」
僕はとっさに作った作り話を続ける。
「たまたま、入った道が行き止まりになってて、もうダメかと思ったのですが、偶然下からは見えづらい横穴を天井付近に発見しまして、何とかそこに身体をねじ込んだんです」
衛兵の眉間にシワが寄っている。作り話としてはちょっと苦しいか? でも後には引けないので、話を続ける。
「僕を追いかけてきたのはいいけど、魔物達にとっても行き止まりだったのは予想がだったみたいで、前にいた魔物は後ろから来たのにどんどん潰されていって……最後はとても大きな魔物が、残った魔物を全て平らげて来た道へと戻って行ったのです」
僕の渾身の作り話に、ますます眉間のシワを深くする衛兵さん。まあそうか。こんな話は中々信じられないだろう。
「ライト……君だったかな? 誠に申し訳ないのだがその話をしんじ『運がよかったなライト! 行き止まりなのに丁度いい穴があって!』……」
衛兵が何かしゃべろうとしていたのだが、ボッザに遮られてしまった。だけど、再び鼻水を垂らしながら抱きついてくるボッザを見て、何か言いたそうにしていた衛兵さんが、フッと息を吐いて眉間に寄っていたシワを緩ませた。
「まあ、
衛兵さんはどうやらボッザの姿を見て、これ以上追求する気をなくしてくれたようだ。
衛兵さんは念のため、集まってくれた冒険者に
「ボッザ、僕らも戻ろうか」
せっかく拭いた鎧をまた鼻水まみれにしてくれたボッザを連れて、僕は今日集めた鉱石をどう使おうか考えながら帰路へとつくのだった。
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