第77話 初めての武器作成
銅鉱石をインゴットに変え終わった次の日、僕はそのインゴッドを使ってナイフを創る練習をすることになった。
まずは一度親方に作り方の見本を見せてもらう。
親方はブロンズインゴットを炉で溶かし、ナイフの型に注ぎ込む。昨日は詳しいことを教えてもらっていなかったが、この溶かすときにインゴットに魔力を通すのが一つ目のポイントなのだそうだ。あくまでも込めるのではなく、通すのだそうだ。
インゴットに限らず魔物の素材を熱する時も、魔力を通さなければ全く変形しないものが多数存在する。鉄くらいまでなら温度を上げれば溶かすことができるが、それ以上の素材となると魔力を通さなければ加工できない。もっとも、あくまで燃える石の火力での話なので、魔法で温度を上げればまた話は別なのかもしれないが。
この魔力を通すところまでは鍛治師じゃなくてもできるらしい。その後の、『魔力を込める』という作業は鍛治師でなければできないそうだ。
そして、親方は流れるような動作で溶けた銅をナイフの型に流し込み、冷水で冷やしていく。その時に魔力を一度込めた。ある程度冷えて固まったところで型から取りだし、形を整えるように削っていき完成だ。
「よし、お前もやってみ」
「はい!」
親方は一通り見本を見せてくれた後、自分の作品作りに取りかかり始めた。右腕が治ったことで、自分で作ってみたくて仕方がないようだ。
親方のラーニングスキルはAクラスの"金属加工術・上"。金属でいえばアダマンタイトやウーツ鋼、魔物の素材でいえばAランクの魔物まで魔力を込めることができる。今回親方が扱うのは、アダマンタイトより一つ下のミスリルのようだ。
親方が魔力を通したミスリルを嬉しそうに熱しているのを横目に、僕はブロンズインゴットと向き合う。初めての武器製作になるので気合いも十分だ。
僕はインゴットを持ち上げミスリルでできたコップに入れる。そのコップを火箸で挟みそっと炉へと差し込む。ブロンズインゴットには魔力を通しているが、上手く通すことができたのかどうかよくわからない。
しばらく熱した後、ドロドロに溶けたブロンズインゴットが入ったコップを取り出し、慎重にナイフの型へと流し込んだ。どうやら上手くいっていたらしい。その型を冷水で冷やし固めていく。その際、魔力を込めるのを忘れない。十分に固まったところで、ナイフを取り出し綺麗に削って僕が初めて自作したブロンズナイフの完成だ。
武器としての価値はそれほど高くはないかもしれないが、僕にとっては最高の一振りができあがった。
ちなみに、ブロンズナイフであればこれで完成だが、素材が鉄以上になると、溶かすのではなく熱して赤くなった金属を叩いて形を作ることになる。その過程で不純物が取り除かれ、金属に粘りが出てくるのだ。そして、形が完成したら冷水で急激に冷やして固めて完成となる。
「親方、できました!」
「どれどれ、ほう魔力はしっかり込められているようだな。よし、同じものを後5本作って魔力を込める練習をしろ。その後は鉄鉱石から鉄を取り出してインゴットにしておけ。明日はアイアンナイフに挑戦だ」
「はい! 親方!」
僕はブロンズナイフを創りつつ、親方の作業にも気を配っていた。
親方はミスリルインゴットに魔力を通して熱していく。そして溶け出す一歩手前、赤々と熱せられたミスリルインゴットを取り出し、自慢のアダマンタイトで作られたハンマーで叩いていく。ミスリルインゴットを叩いて伸ばしては折り重ねまた叩く。そうすることで不純物が叩き出され粘りのあるミスリルへと変わっていく。
鍛冶師のラーニングスキルを使い魔力を込めると、完成したときの硬度や切れ味が増すのだ。ただし、素材によって込められる魔力の量が決まっており、当然、本人の魔力量にも限りがある。
さらに、魔力を込めるという作業は、回数が多くなり過ぎると逆に素材から魔力が抜けていくそうなのだ。金属なら全て同じで、10回を超えるとその金属の最大魔力量の約5%が失われる。さらに1回増えるごとに約1%ずつ失う量が増えていくらしい。つまり、11回魔力を込めれば5%、12回目にはさらに6%、16回目になると10%抜けてしまうわけだ。
それから、1回に込められる魔力の量は決まっており、Dランクで習熟度×2、Cで×3、Bで×5、Aで×10と言われている。SクラスやSSクラスはよくわかっていないらしい。
つまり、親方で言えばAクラスの習熟度17なので17×10で170の魔力を一度に込めることができる計算だ。もちろん、その時の調子や使う道具によっても多少の差が出るので、毎回同じになるとは限らない。ちなみに"運"も関係あるそうだ。
例えば使う素材が鉄だとすれば込められる最大魔力量が300なので、親方クラスであれば2回叩けば切れ味、硬度ともに100%の最高品質のものができあがる。
しかし、これがミスリルとなると込められる魔力量が2000となり、単純計算でいけば12回魔力を込めなければ最高品質のものが出来上がらない。だが、10回を超えると魔力が失われいくので、どこで止めるのかを見極めるのも重要なポイントなのだ。
さらに、この業界トップクラスの親方でも魔力量は421しかない。170ずつ込めれば3回込めれば魔力が枯渇してしまう。短時間で魔力量421以上の品を目指すのであれば、マナポーションなどで魔力を回復させなければならない。
それでも最大保有魔力量1700以上の素材では回数による魔力の抜けが起こるので、余程調子がよくて、運も味方をしてくれないと最高品質のものは作ることが出来ないのだ。
親方がマナポーションを飲みまくって10回魔力を込めるとすると、魔力抜けなしで魔力量約1700のミスリルソードが出来上がる。ミスリルの最大魔力量は2000なので最高品質に比べれば85%の出来となるわけだ。ここからさらに魔力を込めていくと、11回目で5%の100、12回目で6%の120,13回目で7%の140、14回目で8%の160、15回目で9%の180の魔力が失われてしまう。低下量が180になると込められる量の170を超えてしまう。つまり、単純計算でいけば14回込めた時が親方にとって最高のミスリルソードが出来上がることになる。
親方は運のステータスも低くないようで、実際はミスリルであればごく稀にではあるが最高品質になるらしい。ただ、それ以上の素材になるとどう足掻いても最高品質にはならないようだ。
親方がアダマンタイトのハンマーを打ち付けるたびに、甲高い音が工房に響き渡る。僕は4つ目の鉄鉱石を熱しながらハンマーを打つ前に込めている魔力の回数を数えていく。
(10…11…12…13。お、13回で終わった。しかも、あの顔は相当いいものが出来上がったみたいだ)
親方は魔力を込め終えたミスリルソードを満足げに眺めていく。鍛冶師のユニークスキルで鑑定しているのだろう。
それから今度は魔力を込めずに剣の形を整えていく。この作業は習熟度とは関係なく、本人の技術が左右するようだ。親方は迷い無くハンマーを打ち続け、一振りのロングソードを完成させた。素人目にも素晴らしい一振りだとわかる一品だ。
「親方。それで完成ですか?」
「ああ、久しぶりに打ったんで腕が鈍ってないか心配だったが、満足のいくものが打てた。ライト、ありがとな」
親方は治った右腕をさすりながら僕に頭を下げてきた。弟子なんかに頭を下げなくてもいいのに、律儀な人なんだなと思う。
「そんな、お世話になってる身ですから、出来ることをするのは当たり前ですよ」
僕はちょっと照れくさくなって、顔を下に向けながらそう答える。
「まあ、その出来ることの基準がちょっとおかしいんだがな……」
うん、最後の言葉はよく聞こえなかったから、気にしないでおこう。
親方はミスリルソード一本で気持ちもお腹もいっぱいになったらしく、今日はこれであがるようだ。僕もあと一つアイアンインゴットを作ってからあがらせてもらおう。明日はこのインゴットを使ってアイアンソードに挑戦だ。楽しみだな。
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