第72話 弟子入り試験
「いらっしゃいませ」
僕はゴルゴンティア
【はあ、何が悲しくてこんなガラクタばかりのところに……】
女の子がいないことに不満たらたらの脳内賢者の声を聞きながら、一歩店内に踏み入れると広いスペースに所狭しと武器や防具が並べられていた。流石は鍛冶職人が多いドワーフの国。まだ外の街だというのにこの品揃えは圧巻だ。いや、むしろ外の街だからこその品揃えか。ノックスさんの話だと、
そうなると逆に、ここではガスティンさんの作った武器は見つけづらいのか? そんな不安に駆られながら、一人の店員を見つけ声をかける。
「すいません。ガスティンさんが作った武器なんて置いていませんでしょうか?」
若い男性の店員にそう尋ねると、予想通りこの店には置いてないと言われてしまった。さらに詳しく聞いてみるが、この店はおろかこの国全ての店を回っても手に入らないだろうとのことだ。何でもガスティンさんが作った武器は、その性能の高さから世界各地の冒険者や騎士、果ては武器など使うこともないであろう貴族達がこぞって買いに来ていたらしい。
ガスティンさんが武器を作らなくなってから一年も経った今では、店頭に並ぶことなどなくなってしまったのだとそうだ。もしこの国にあるとすれば、
これは困ってしまった……。現状、王宮どころか
【もう諦めて、ザナ、ザナック、えーと、ザナッカス? だったか、そっちに行けばいいだろう】
(いや、ザナックスだし。それに、評判の悪い2番手なんかに教えてもらいたくないよ)
鍛冶に興味のないレイにはわからないかもしれないが、僕にもこだわりというものがあるからね。コジローさんのためにも、僕は妥協をしたくないのだ。
とは言っても、手詰まりなのは変わらずで、僅かな希望にかけて他の店を回ってみたが、当然のようにガスティンさんが作った武器は見つからなかった。
▽▽▽
そして、結局ガスティンさんが作った武器は見つからないまま日が暮れ、約束の時間となってしまったため、僕は何も持たずにまたガスティンさんの家の前までやってきた。でも、諦めきれない。チャンスはものにできなかったけど、もう一度お願いしてみるつもりだ。
家の扉をノックすると、程なくしてガスティンさんが中から現れた。そして、僕が何も持っていないのを見ると『フッ』と勝ち誇ったように乾いた笑いを浮かべる。
「どうやら、見つけることはできなかったようだな。約束通り、お前さんを弟子に取る話はなしだ。帰ってくれ」
僕は踵を返そうとするガスティンさんの腕を掴み引き留める。
「ガスティンさん! 僕はどうしてもあなたの元で鍛冶を学び、最高の刀を作りたいんです! どうか、弟子にして貰えないでしょうか!」
深々と頭を下げ、悪あがきとも思える最後のお願いをしてみたのだが……
「お前さんの事情がどうであれ、約束は約束だ。時間までに俺が作った武器を……」
「ちょっと、いいかしら」
僕の最後のお願いも通じなかったと思ったその時、ガスティンさんの言葉を遮って扉からもう一人の人物が現れた。
「ロ、ローラ!? なぜ出てきた!?」
扉から姿を現したのは、顔にひどい火傷を負ったドワーフの女性だった。
「今朝の話を聞いてましたの。そこの方、ライトさんだったかしら。これをどうぞ」
僕の顔をじっと見つめていたローラと呼ばれた女性のドワーフが差し出してきたのは、一振りの短剣だった。思わず受け取った短剣を見ると、柄の部分に『ガスティン』と掘られていた。
「お前、その短剣は俺がお前にプレゼントした物だろう……ああ、そういうことか」
僕がローラさんから短剣を受け取ったのを見て、ガスティンさんは全てを悟ったようだ。そして、僕もそれを見てわかってしまった。この短剣、ガスティンさんが作った物なんだね。
僕はガスティンさんにそっと短剣を差し出した。
「間違いなくこの短剣はワシが作った物だ。仕方がない。試験は合格だ。明日からお前に鍛冶を教えてやる。朝一番でまたここに来い」
「はい! ありがとうございます!」
思いもよらないところからの助け船のおかげで、僕はガスティンさんの弟子になることを認められた。ガスティンさんとローラさんにお礼を言い、僕は二人が家に入るまで頭を下げ続けた。
それから、直ぐに鍛冶ギルドに向かいノックスさんに無事ガスティンさんの弟子になれたことを報告しようと思ったんだけど、残念ながら鍛冶ギルドは閉まっていた。冒険者ギルドは一晩中開いているんだけど、緊急の依頼がほとんどない鍛冶ギルドは夜になると普通に店じまいのようだ。
(ま、明日伝えればいいか)
僕はそう思い宿へと戻ろうとしたのだが……珍しくレイの突っ込みがない。寝てるのかな? 静かな脳内に多少の違和感を感じつつ、僕は宿へと帰るのだった。
~side ???~
一方、ライトが立ち去ったガスティン家では……
「全く、お前というヤツは……」
「ふふ、こうでもしないとあなたは首を縦に振らなかったでしょ?」
家の中に戻ったガスティンはローラを支え、床に引いてあった寝床にゆっくりと彼女を寝かせながら悪態をついていた。
「それで、具合はどうなんだ? 立って歩いて平気なのか?」
「ええ、身体はつらいけど気分はいいわ。あなたにまた弟子が一人できたのですからね。それに、ライト君だったかしら? あの子、何だか応援してあげたくなるようなかわいい顔してるのよね」
心配するガスティンに、悪態をついた仕返しとばかりに意地悪な笑顔を向けるローラ。しかし、表情を動かすと痛みが走るのでローラは直ぐに笑顔を消してしまう。
「おいおい、あんなションベン臭いガキのどこがいいんだ! ドワーフならワシのような背が低く筋肉質な男が好みのはずだろう!」
顔に火傷を負ってから、めっきり笑うことが少なくなってしまったローラ。そのローラが久しぶりに笑顔になったことに喜びを感じつつも、痛みのために直ぐに表情を消してしまったことにガスティンは自身の心を痛める。
「まあ、そういうことにしておきましょう。でも、あなたも気がついているんでしょ? あの子、私の顔を見ても驚きも嫌な顔一つもしなかったわ。きっと、心が優しいんでしょうね。だから私もあなたからもらった短剣を渡す気になったのよ」
横になったローラはガスティンの手を握りしめてそう付け加えた。
「ああ、それはわかっているさ。だからワシも弟子にしようと思ったんだからな」
ローラの手を優しく握りしめガスティンが小さな声で呟く。
久しぶりに幸せな時間を過ごすことができたことで、ガスティンもローラもライトという少年が尋ねてきたことに感謝するのだった。
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