第68話 閑話 ミアの師匠
~side ミア~
レベルが40へと上がり、めでたく
ひとつ目は、王都には様々な情報が集まるからだ。この世界の情勢やダンジョンについて、冒険者や武器や魔法、果ては犯罪者についての情報まで……
王都でレベルや習熟度を上げつつ、シリルについての情報を集めるつもりなのだ。
ふたつ目は、王都には
ランドベリーからワールーン王国の王都ワールーンまで徒歩でおよそ十日ほど、馬車で八日ほどかかる。ただし、盗賊から
できる限り急いで王都に向かった私は、予想通り七日で王都へとたどり着いた。
▽▽▽
「ふう、ここが王都なのね」
流石は一国の中心の街といったところか、中に入るのも一苦労だった。大きな正門の前には人の列ができており、厳しいチェックを受けてからの入国となる。私は冒険者カードを持っているのですんなり入ることができたが、それでも並んでいる時間も含め、入るのに数時間はかかってしまった。
そして十メートルはあろうかという王都の防壁の中に入ると、人、人、人。なんと人の多いことか。もちろん、人が集まるところにはお店もたくさんある。ざっと周りを見回しただけでも、武器や防具屋、肉屋に八百屋、狭いスペースには占い師まで店を構えている。
この王都は王城を中心に、正門がある南側は商業区が、東側には工業区が、西側には冒険者区が、北側には居住区がある。私はまず冒険者区に向かい、拠点となる宿を探す。元盗賊、現
私は女一人ということもあり、セキュリティがしっかりしている中の上といった宿を確保した。それから、
「ここかな」
冒険者地区を探すこと小一時間。私は何の変哲も無い倉庫の前に立っていた。普通の人であれば素通りしてしまうような倉庫だが、見る人が見れば気がつくであろう。こぎれいな割に人の出入りの気配が極端に感じられないことに。入り口であるはずのドアの前に足跡の一つもない。そのくせ、ドアは頻繁に使われているようなのだ。つまるところ、足跡を残さずに出入りできる人達が使っている倉庫というわけだ。
入り口に向かうと、扉の向こうに人の気配を感じた。おそらく気配を消しているであろう人物が二人。
ドアをノックし反応を窺う。
「合い言葉は?」
扉の向こうから低い声が返ってきた。
(うーん、困った。合い言葉なんて知らないし……)
「ごめんさない。
編に取り繕っても墓穴を掘りそうなので、正直に答えてみた。
「ほう、新人のくせにここが
正直に答えたのが功を奏したのか、目の前の扉が開き二人の男性が私を迎え入れてくれた。
「俺の名前はモール。こっちはカイだ。優秀な新人は歓迎するぞ」
一見すると冒険者にしか見えない二人だが、その身のこなし、気配の消し方から優秀な暗殺者だと推察できる。
どちらも黒っぽい
一方、カイと紹介された人物は、私よりは年上だろうがそれでも二十代前半くらいに見える。と言っても、その姿は人間のそれではなく、青い毛並みが綺麗な猫の獣人と思われた。
モールはその場をカイに任せ、私に『ついてこい』と言うと、倉庫の奥へと向かって歩き出した。カモフラージュかはたまた本当に倉庫としても使っているのか、周りに高々と積み上げられている木箱の間を縫うように歩きながら、モールは何の変哲もない通路の途中で立ち止まる。高く積まれた木箱のせいで、周りは見えない。私の中に緊張が走り、無意識に短剣の柄をにぎりしめていた。
そんな私の警戒をよそに、モールは足下にある床を踵でリズミカルに蹴りつける。なるほど、これも暗号のひとつなのか。蹴られた床がパカっと開き、中から灰色の毛をした狼の獣人らしき男が顔を出した。
「おう、モールか。その後ろにいるのは、ひょっとして新人か?」
「そうだ。キールよ、彼女をギルマスのところまで案内してやってくれ」
二人のそんなやりとりの後、私はキールと呼ばれた獣人の後ろについて、床に空いた入り口から階段を降りて地下へと降りていった。
それにしても、ここで出会った三人のうち二人が獣人とは。もしかしたら
まあ、よく考えれば獣人達は人族よりも身体能力が高いし、気配察知にも優れている。当然と言えば当然か。
そんなことを考えながら後をついていくと、不意に目の前に扉が現れた。扉に向かってキールが二言三言言葉を交わすと、その扉が開きキールが中へと入っていく。私はその動作につられて、何も考えずに扉を潜ると……
「!!」
中に入った途端、複数の殺気が私の身体を貫いた。私は、不意に受けたとんでもなく濃い殺気に気圧されそうになりながらも、ここに来た覚悟を思い出しその殺気を放っている人達を睨み返した。
部屋の中にいたのは、いくつのテーブルを囲んでいるわずか数名の獣人や人族だった。たった数名であれだけの殺気を放てるとは、さすが
しかし、私が彼らを睨み返した瞬間、その殺気は嘘のように消え去り、むしろ好意的な眼差しに変わったように感じた。
「やるな嬢ちゃん。新人がこの洗礼に耐えたのは久しぶりだぞ」
私の耳元で囁いたキールの言葉でその理由が判明する。彼らの仕事は、純粋に命のやりとりがほとんどだ。単独で仕事をすることもあるだろうが、場合によってはチームを組んで仕事にあたることもあるだろう。
そんな時に命を預ける仲間に足を引っ張られたら、それこそ自分の命を失いかねない。例え新人だろうと、相手の殺気に遅れをとるようでは話にならないのだ。
それを確かめる意味での洗礼なのだろう。私はその洗礼に合格したらしい。
その後、再び歩き出したキールに部屋の1番奥にある扉の前に案内された。 キールが扉をノックすると、中から「入れ」という声が聞こえた。思ったよりもその声が若かったことに驚く私。
キールが扉を開け、私に中に入るように促す。どうやらギルドマスターの部屋に入るのは、私ひとりのようだ。
緊張をほぐすため、深呼吸をしてから中へと入る。目に入ってきたのは、明らかに上位の魔物の皮で作られた濃紺の
(これが王都の
私がギルドマスターに見とれていると、後ろでキールが扉を閉める時に、『洗礼に耐えました』とギルドマスターに報告しているのが聞こえた。
「初めましてお嬢さん。俺の名前はイヴァン。ここのギルドマスターをやってる。洗礼に耐えた新人は久しぶりだ。期待しているぞ!」
とても
ぜひ彼の元で学び、あの男を殺せる実力を身につけたい。そう思った私は、自己紹介もそこそこに『弟子にしてください!』と大声で訴えていた。今思い出しても恥ずかしいくらい、突然で大きな声だった。
もちろん断られると思っていたのだが、何と彼はあっさりOKを出してくれた。思わず理由を聞いたら、私の才能と覚悟にピンときたらしい。決して、若い女性の
それから一ヶ月ほど、私はイヴァンに
またイヴァンは
▽▽▽
そしてイヴァンを師匠と呼び始めてから一ヶ月ほどが経ったある日、彼は武術大会に参加するために、多民族国家ロンディウムへと向かった。正確には、ロンディウムでの依頼を受けるついでに武術大会に参加するみたいだけど、そんな大会に参加する
まあ、師匠は影に徹する
師匠がロンディウムに行っている間に、私は滞っていたレベル上げを再開した。
それに私が探していたシリルの居場所は既にわかっている。師匠に調べてもらったら、あっさりと判明したのだ。さすがは王都の暗殺者ギルドのギルドマスターだ。扱う情報量が半端ない。
どうやらあの男は、食文化の街トルーフェン近郊にいるらしい。何でも、ビスターナ近郊で悪事を働いていた盗賊団『血塗られた盾』を乗っ取り、頭として精力的に活動しているそうだ。
彼らの動向に注意しつつ、自分のレベルを上げる。これが今私ができる最善の行動だと信じて頑張るのだった。
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