第67話 閑話 ミアのジョブチェンジ
~side ミア~
「よし、今日はここで一晩明かして明日、フロアマスターに挑戦しよう!」
ここはランドベリーの北にある
私が
ここまで来るのに私以外のメンバーはレベル40を超えている。そして私のレベルは39。明日、奥にいるフロアマスターを倒すことができれば、念願のレベル40へと到達できる。そして、私はレベルが40になったらこのパーティーを抜けることになっている。それが最初からの約束だから。
「さて、休憩する前に明日のための作戦会議を終わらせておくか」
そう言ってラウルさんが背負っていた袋を下ろし、一枚の紙を取りだした。その紙には二十層のフロアマスターの特徴が細かく記されている。この情報を買うのに銀貨一枚払ったが、それだけの価値がある情報だ。確か
その情報によると、二十層のフロアマスターはゴールドリオンという四足歩行の獣で、レベルは最低でも40。雷属性を持っていて、身体に雷を纏っている他、雷魔法も使ってくるらしい。
基本的に魔物は同レベルの人間達よりも総じて身体能力が高い傾向にある。こちらのパーティーの平均レベルも40を超えているとはいえ、ステータスは向こうの方が上でしょう。だから、なるべくレベルが低いゴールドリオンだとよいのだけど……
作戦については直ぐに決まった。盾士のアランさんが後衛のノエルさんとミカさんを守る。剣士のラルクさんと盗賊の私はヒット&ウェイでゴールドリオンのHPを削り、ノエルさんがゴールドリオンの弱点属性である炎魔法で攻撃する。ミカさんは傷ついたメンバーの回復ね。
作戦を確認したところで、みんなで夕食を食べた。とは言っても、干し肉と暖めたスープだけだけど。
それから毛布を出してそれに身を包みながら睡眠を取る。安全地帯とは言え、他の冒険者がやってくる可能性もあるから、ラウルさんとアランさんが交代で見張りをしてくれた。
翌朝、十分な休息をとった私達は準備を整えて、ゴールドリオンが待つ広場へ向かう扉を開けた。
▽▽▽
目的の魔物はすぐにわかった。草原のような広場の真ん中に、悠々と寝そべっており他の魔物の姿は見えなかったから。しかしながら、ただ寝そべっているだけなのにその存在感は圧倒的だった。
身体の周りを迸る雷は魔法防御力が低い者なら、触れてしまうだけで致命傷を受けてしまうだろう。それでいてなお、雷を纏った身体は美しかった。
私がゴールドリオンに見とれていると、盾士のアランさんがじわじわとその金色の魔物に近づいているのが視界の片隅に入ってきた。
アランさんはこのパーティーで最もレベルが高く42だ。その防御力は600を超えていて、自慢の盾を持てば700近くまで跳ね上がる。
その盾は、アランさんがここ最近の稼ぎを全てつぎ込んだ、
アランさんとゴールドリオンの距離が三十メートルにまで近づいたとき、草原の王者はゆっくりと立ち上がった。その姿を見て『ゴクリ』と唾を飲んだのは誰だろう。もしかしたら、私かもしれない。
ゴールドリオンはじりじりと近づくアランさんを敵と認識したようで、唸り声を上げながら頭を下げ、いつでも飛び出せる体勢になる。その姿を見たラウルさんと私は静かに目を合わせ、ゴールドリオンに気づかれないように、左右から回り込むように移動を開始した。
それと同時に、ノエルさんとミカさんが少しずつ前に出て、アランさんとゴールドリオンが魔法の届く範囲に入るように調整する。
こちらの陣形が整ったところで、アランさんが一歩前へと踏み出した。それを戦闘開始の合図と受け取ったゴールドリオンが、アランさんへと向かって走り出す。
ドォォォン!!
三十メートルの距離をたった二歩でゼロメートルにしたゴールドリオン。その勢いのままアランさんの盾に体当たりをする。辺りに響き渡る轟音。だが、アランさんは数メートル押し込まれたものの、その一撃を無傷で耐えきった。
動きが止まったゴールドリオンへ、左右からラウルさんの剣と私の短剣が迫る。
「ガァ!」
左右からの殺気に気がついたのか、直ぐに飛び退く体勢を取る金色の魔物。私の方がラウルさんより敏捷が上なので、先にゴールドリオンの元へ到達する。
そして私達の予想通り、ゴールドリオンは迫ってきた私の短剣を避けるように跳んだ。その先にラウルさんが待ち構えているとも知らずに。私の攻撃力ではそれほどダメージを与えられないけど、所詮は獣。攻撃力云々よりも、先に迫った危険を回避すると思った私達の作戦勝ちね。
「セイッ!」
ゴールドリオンの着地を狙って横なぎしたラウルさんの剣が、見事に後ろ足を捉えた。これも、まずは機動力を削ぐという作戦通りの一撃だ。
ゴールドリオンに少なくないダメージを与えた私達は、追撃せずにいったん距離を取る。その直後、私達がいた場所に雷が落ちた。ゴールドリオンの雷魔法だ。
アランさんは土属性が付与された盾でその雷を受けとめ、私は持ち前のスピードで完全に回避することができた。だけど、攻撃した直後で回避が遅れたラウルさんは、直撃こそ避けたものの衝撃のため後ろへ弾き飛ばされてしまった。
そこへすかさずミカさんの治癒魔法が飛んで行く。
「助かる!」
衝撃で受けたダメージを完全に回復してもらったラウルさんは、素早く立ち上がり追撃に備え剣を構えた。
しかし、ゴールドリオンは私達が離れたことで、その場に留まり様子を見ているようだ。あるいは、後ろ足の傷のせいで身動きが取れないのかもしれない。
そんなゴールドリオンに、お返しとばかりにノエルさんが覚え立ての炎魔法Bクラス、
ノエルさんの魔法を受けその巨体が吹き飛び、辺りには肉が焼ける匂いが充満する。ゴールドリオンはお腹の辺りに大ダメージを受けようで、吹き飛んだ先でうずくまっていた。
そんな状態のゴールドリオンだったけど、私達は油断せずに慎重に近づいていく。手負いの獣ほど恐ろしいものはないことを知っているから。
少なくないダメージを負ったゴールドリオンは、近づく私達に爪を振るい、雷魔法を放ってきたが、ノエルさんの追撃魔法に瀕死のダメージを負い、ラウルさんのとどめの一撃でついに地面へと倒れた。
終わってみれば圧勝だった。これも、事前に詳しい情報を得ることができていたからだと思う。同じ竜繋がりの
ゴールドリオンからのドロップ品と素材を手に入れて、私達はホクホク顔で帰路へとついた。もちろん、小部屋の転移石を使ってだけど。
入り口の横にある小部屋に転移してきた私達を見て、たまたま小部屋にいた冒険者達が感嘆の声を漏らす。魔法陣の光を見て、私達が二十層を攻略したことに気がついたからだろう。そんな冒険者達の視線に、思わず頬を緩ませながら私達は素材を売却するためにギルドへと向かった。
ギルドで素材を売却し終えた私達は、いったんそれぞれの宿へと戻り、暫くぶりの地上と水浴びを満喫した後、ギルド併設の酒場に集まり、祝勝会兼お別れ会をすることにした。
なぜお別れ会も兼ねているのかというと、先程の戦闘で私のレベルが40に上がったので、パーティーに加入した時の約束通り、この
そして私は
私は、心の中に燻る復讐の炎を悟られないように、必要以上に明るく振る舞いながら、人の良い彼らとの最後の時間を過ごすのだった。
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