第66話 優勝賞品を受け取る

「ゆ、優勝は……さ、最年少料理人のライトだぁぁぁぁ!!」


 僕がリュドミーラを氷漬けにした後、一瞬の間があって審判の男性の声が会場内に響き渡った。というか、逃げてなかったんだこの人。


 本来ならここで割れんばかりの拍手が起こると思ったのだが、なぜか会場はシーンとしている。


(確かに会場からは多くの人が逃げ出したけど、まだ少ないながら観客はいたはずなんだけど……)


 そう思って、会場を見渡した僕の目に映ったのは、口を開けて固まっている数人の観客と獣王様御一行だった。


【まあ、魔族を氷漬けにしちまったらこうなるってことか】


 その後は大変だった。慌てて魔族を回収に来たこの国の衛兵達にリュドミーラを引き渡し、戻って来た観客達が大騒ぎをし、会場は蜂の巣をつついた状態になってしまった。


 危険を感じた王様達はいったん姿を隠したので、僕も控え室へと戻ることにした。




▽▽▽




「あー、何と言ったらいいのかわからぬでござるが……とりあえずはおめでとうでござるか?」


 僕が控え室に戻ると、コジローさんが微妙な笑顔で僕を迎えてくれた。他の参加者達は一歩引いていたけれど。


「ありがとうございます。何とか、運よく勝つことができました!」


 僕はコジローさんに頭を下げる。


「いや、運ではないと思うでござるが……それよりもライト殿は魔法を使えたでござるな。しかも、魔法が得意な魔族に打ち勝つほどの。

 知らなかったでござるよ。それほどの魔力があれば、剣などなくても旅をするのに問題なかったのでは?」


 そう言えば、コジローさんの前で魔法を使ったことはなかったね。隠していたつもりはないけど、剣の修行には必要なかったから。


「いえ、世の中には魔法が効かない魔物もいるとか。その時に何もできなくて死ぬのは嫌ですから」


 僕の説明に納得したようなしてないような、微妙な顔で頷くコジローさん。さらにリュドミーラについて二人で話していると、不意に頭の中で声が聞こえた。


【おい、誰かくるぞ】


 レイの忠告を聞き探知を使うと、確かに数人の人達が控室に向かって走ってくるのがわかった。ただ、強さはそれほどでも無さそうなので、この大会の関係者だと思われる。


 ガチャ!


 勢いよくドアが開くと、予想通り係の服を着た獣人のみなさまが控室へと入ってきた。


「ライト様はいらっしゃいますか!」


 その中の一人、オオカミの獣人が僕の名前を呼ぶ。


 僕が返事をして一歩前へと進み出ると、その獣人はこの後の閉会式と優勝賞品の授与式の説明をして、控室から出て行った。


【はあ、優勝賞品をキレイなねーちゃんに替えてくれねえかな……】


 脳内賢者のくだらない願望を無視しつつ、僕はコジローさんとの会話を再開させながら、静かに閉会式が始まるのを待った。




▽▽▽




「それではこれよりラジール武術大会の閉会式を始める!」


 いつの間にか着替えた審判の男性の宣言で、武術大会の閉会式が始まった。


 舞台となった闘技場の広場には簡易の会場が設置され、この国のお偉いさん達が座っている。さらに中央には大きなステージが用意され、そこで賞品の受け渡しが行われると思われた。


 まずは国王であるラウル陛下のお言葉だ。この大会がいかに素晴らしく、過去の優勝者がその後どうなったかから始まり、この大会の講評、負けた人達への労いの言葉、そして最後に優勝した僕を褒めてくれた。


 ただ、捕らえた魔族については一言もなかったところを見ると、まだ何もわかっていないか、もしくは事が大きすぎてすぐに発表できないかだね。


【まだ凍ってるだけだろう】


(……忘れてた。確かに魔力の高い魔族を凍らせるのに頑張っちゃったから、あと3日は溶けないかも……)


【まあ、俺達には関係ないさ】


 ラウル陛下のありがたいお言葉が終わり、いよいよ優勝賞品をもらえることになった。


 司会の男性から名前を呼ばれ、闘技場の中央に設置されたステージへと上がる。


「料理人ライトよ。この度の優勝、見事であった。約束通り、伝説と呼ばれる武器を渡そう。希望を申すがよい!」


 国王陛下の中でも僕は料理人だった。ジョブは剣士なのに……。まあ、剣士がなぜ魔法を使ったのか突っ込まれなかっただけでもよしとするか。


 それより、今なんて言ったのかな? 希望を申すがいい? もしかして、武器っていくつか種類があって選べるのかな?


 僕が困惑して辺りを見回すと、黒豹の獣人と目が合った。彼は僕の困惑を察し、静かに頷いてくれた。


【鞭なんてどうだ?】


 レイが何を考えているのかわかってしまったので、もちろんここは無視をする。


「それでは、刀を希望したいのですが大丈夫でしょうか?」


 当初の予定通り、コジローさんのために刀を希望したけれど、そんな珍しい武器が都合よくあるのかな?


「ほう、刀とな。てっきり片手剣か包丁を希望すると思っていたのだがな」


 いや、片手剣はわかるけど包丁はないでしょ? 包丁って武器じゃないよね?


 僕が国王陛下の物言いに明らかに驚いた顔をすると、それを察したのか黒豹の獣人が静かに頷いた。 えっ? 刀あるの?


「コジローさんとの約束ですので、刀をお願いしたいです」


 危なく包丁って言いそうになったけど、僕は約束を守る男なのだ。しっかりと刀を希望する。


「よろしい、では刀をここへ!」


 ラウル陛下が大きな声で刀を持ってくるように指示を出した。それを聞いたコジローさんが大きく目を見開いている。あれ、コジローさんの武器のためにこの大会に参加したんだよね? 何を驚いているんだろう?


 そして、黒豹の獣人がラウル陛下に長方形の箱を差し出す。というか、この黒豹の獣人ばっかり働き過ぎじゃないのかな。なんていう疑問はさておき、国王がその長方形の箱の中から一振りの刀を取りだした。鞘と呼ばれる専用の筒に包まれたその刀は、伝説の武器に相応しい雰囲気を醸し出している。


(これは期待できるのか!?)


 焦る気持ちを抑えて、ゆっくりと刀を受け取る僕。そのまま陛下にお辞儀をし、刀を頭上に掲げた。途端に湧き起こる大歓声。ラウル陛下も笑顔で拍手をしてくれている。しばらく観客達の歓声を受けた僕は最後に一礼をしステージを降りた。


「それでは、これにてラジール武術大会の閉会式を終える!」


 ステージに残っていた国王陛下がそのまま閉会を宣言して、このラジール武術大会が終了した。




▽▽▽




「これがいただいた刀です。どうですか、コジローさん?」


 さすがに頂いた国王陛下の前で渡すわけにはいかないので、宿に戻ってきてから刀をコジローさんに見てもらった。


「これは……村正でござるな」


 コジローさん曰く、この刀は村正と言い切れ味に特化した名刀らしい。ただしその付与は二つ。切れ味が増す風魔法の"エアリアルブレード"と"闇属性"だ。コジローさんが求めている最高の武器は付与が三つ。確かに名刀ではあるが、求める刀ではなかったようだ。


「ライト殿。色々ありがとうでござる。残念ながら拙者の求める武器ではなかったでござるが、ライト殿の心意気が嬉しかったでござる。この村正はライト殿に使ってほしいでござる。ライト殿ならいつか使いこなせるでござるよ!」


「で、でも!?」


 僕が否定しようとすると、コジローさんは刀を僕の方に差し出しながら静かに微笑んだ。何だろう、この有無を言わさぬ雰囲気は。僕は何も言えず、刀を受け取ってしまった。 


(僕のジョブ選択に侍があるとよかったんだけど……ってあるんかーい!)


 何とコジローさんと一緒に訓練したからだろうか、僕のジョブ選択欄にしっかりと"侍"が加わっていた。


【俺としては鞭がほしかったが、まあいいんじゃねぇか? そのうち熟練度を上げるってことで】


 レイもそう言ってくれたことだし、とりあえずこの刀は受け取っておこう。


「それで、この後はどうしますか?」


 とりあえずの目標を達成してしまったので、今後についてコジローさんに確認してみる。


「そうでござるな。拙者はここで新しい情報を集めるでござるよ。ライト殿はどうするでござるか?」


 そう問われて僕は返答に困ってしまった。コジローさんの願いを叶えてあげたい気持ちは変わらないが、一緒に行動するより別々に行動した方が効率がいいのではと考えてしまったからだ。


 僕が返答に困っていると、珍しくレイがいいアドバイスをくれた。


【探すのはおっさんに任せて、お前は作る方を目指してみたらどうだ?】


(!? その手があった!)


 無ければ作ればいい。幸い僕はどのジョブもSSランクまで上げることができる。鍛冶もSSまで上げることができれば、今いる職人さん達よりいい刀が作れるかもしれない。


「コジローさん。僕は別の方法で伝説の武器を探してみたいと思います!」


 急に大声を出した僕に若干驚きつつも、コジローさんは納得してくれたみたいだ。


「ライト殿が作った料理が食べられなくなるのは残念でござるが、拙者のためと言われて引き留めることはできないでござる」


 そう言ったコジローさんはちょっと寂しそうだったけど、笑顔で了承してくれた。


 そして、その夜は僕の優勝記念とお別れ会の意味も込めて、僕が豪勢な魚料理を作って一緒に食べた。振り返ってみると短い間だったけど、コジローさんとはたくさんの思い出を作り、たくさんのことを学ばせてもらった。そのお礼も含めてだったけど、どうやら喜んでくれたようだ。


 翌朝僕はこの国を出ることにした。別れ際にコジローさんは、『Sランクの昇格試験を受けるときのために』と一通の手紙をくれた。僕のギルドランクがAランクに上がった時に、ギルドに見せるといいらしい。何でもSランクに上がるための条件である『ギルドマスターもしくはそれに準ずる資格のある者の推薦』というのに、Sランク冒険者が当てはまるそうだ。つまり、この手紙があれば試験に合格することでSランクにあがれるというのだ。ありがたい!


 そして僕はコジローさんとの別れを済ませ、次の目的地出発した。ドワーフが住まう国家『地下王国ゴルゴンティア』へ。

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