第62話 決勝トーナメント②
「それじゃあ、私から行きますわよ?」
そう言って、フェリクスへと迫るリュドミーラの手にはいつの間にか、漆黒の槍が握られていた。
【鑑定 黒血槍:攻撃力300 付与:闇属性100】
これは魔族確定だね。
【いや、槍じゃなくて本人を鑑定すればいいだろうよ】
(…………)
名前 :リュドミーラ・D・ヴァザロフ
性別 :女
種族 :魔族
レベル:84
クラス:A
体力 :1485
魔力 :1386
攻撃力:941
防御力:968
魔法攻撃力:1391
魔法防御力:973
敏捷 :984
運 :258
ユニークスキル:闇属性・気配遮断・鑑定Lv6
ラーニングスキル
闇魔法A Lv15・闇耐性・槍術A Lv15
レイのアドバイス通り、本人を鑑定してみるとDのつく魔族だった。前回戦ったドリーよりもワンランク上の階級らしい。もちろんその強さもワンランク上のようだ。物理的なステータスでもコジローさん以上だし、いざとなったら魔法を使うつもりだろう。
何せこの武術大会には物理戦闘系のジョブの人しか参加していないから、みんな魔法攻撃には弱そうだし。まあ、黒魔道士が参加しても詠唱しているうちにやられちゃうからだろうけど。
おっと、僕がリュドミーラを鑑定している間に戦闘が始まったようだ。
「ハッ!」
リュドミーラの突撃に合わせ、剣を横に振るうフェリクス。その剣戟はそれなりに鋭いのだが。
ザシュ……
いつの間にか背後に回っていたリュドミーラの槍が、フェリクスの背中に突き刺さっていた。
「ウグゥ、いつの間に……グハァ」
ドサリと音を立てて崩れ落ちるフェリクス。
「勝負あり! 勝者、リュドミーラ!!」
途端に沸き起こる歓声。
「おい見たか!? 一瞬だぞ!」
「いや、俺には見えなかった。気がついたら、フェリクスが倒れてやがった!?」
「美しい女性なのに、お強いなんて憧れますわ!」
決勝トーナメントにも関わらず、圧倒的な勝利に観客達も大興奮である。知らないって幸せだね。彼女が魔族だとわかったら、もっと大騒ぎになりそうだ。しかし、これはまずいことになった。
(コジローさんは、あのリュドミーラに勝てるかな?)
【なかなか厳しそうだな】
僕の問いかけに不安な回答をするレイ。何だかんだで、こういう時のレイの予想は当たるからね。心配だ。
そんなことを考えているうちにも、試合はどんどん進んで行く。
「続いて、ワールーン王国のAランク冒険者ロマーノと、どこの国にも属さないフリーの傭兵イヴァンだ!」
何でこんなところに魔族がいるのかは気になるが、それはまた後で考えるとして、次の試合をしっかり見させてもらおう。二人のステータスは――
ロマーノ:槍術B Lv13
体力454 魔力265
攻撃力502 防御力594
魔法攻撃力291 魔法防御力255
敏捷531 運256
イヴァン:短剣術B Lv14
体力344 魔力275
攻撃力399 防御力316
魔法攻撃力312 魔法防御力283
敏捷699 運237
攻撃力と防御力はロマーノさんが、敏捷はイヴァンさんが上。ロマーノさんは槍術Bクラス、イヴァンさんは短剣術Bクラス、このステータスの違いと間合いの違いがどう結果に影響するのか楽しみだ。
まずは、ロマーノさんが長いリーチを生かして先制攻撃を仕掛ける。しかし、それは当然イヴァンさんも予想していたようで、サイドステップで難なく躱す。さらに、イヴァンさんはロマーノさんが引いた槍に合わせ、一瞬で距離を詰め短剣で首を狙った。
それに対してロマーノさんは、慌てずに槍を回転させ柄の部分でその短剣を弾く。だが、ここで距離を取ってしまえばまたリーチの短い短剣が不利になってしまうので、イヴァンさんはここで勝負に出るようだ。
「"短剣術・霞"」
イヴァンさんの短剣が、素早い連撃により霞がかかったようにぼやけて見える。
さすがにこの距離での連撃は、回転率の悪い槍では捌ききれない。ロマーノさんの身体に細かな傷が増えていくが、イヴァンさんの攻撃力でDクラスの必殺技ではそれ以上のダメージを与えることができない。
「そりゃ!」
今度はロマーノさんが、連撃を体当たりすることで無理矢理止めた。そして、再び距離が空いたところでお返しとばかりに必殺技を繰り出す。
「"槍術・連"!」
「"短剣術・朧"」
槍術Cクラスの連突きに対し、すかさず短剣術Cクラスを重ねてくるイヴァンさん。短期決戦じゃないと、不利だと判断したのだろう、体力の消耗にも構わず必殺技を連発している。その判断が功を奏し、"短剣術・朧"でイヴァンさんの身体が揺らめいたかと思うと、槍での連突きはすり抜けるように空を切った。そして、ロマーノさんの背後に現れたイヴァンさんは……
「"短剣術・穿"」
トドメとばかりに放ったのは短剣術Bクラスの"短剣術・穿"。攻撃力を1.5倍にした上、一点集中で鎧すら貫通させる必殺技だ。
必殺技を放ち無防備になった背後からの攻撃に、ロマーノさんは崩れ落ちた。防御力の高いロマーノさんに対し、持ち前の素早さで防御の薄いところを必殺技で狙ったイヴァンさんの作戦勝ちといったところか。
【野郎どもの試合なんてどうでもいいんだよ】
「勝負あり! 勝者、イヴァン!」
脳内賢者のダメ発言と重なるように発せられた審判の宣言により、第3試合の勝者が決定した。
イヴァンさんは暗殺者だから、正面からの一騎打ちには向いてないはずなのに……それでも同格の槍術士に勝ったということは、かなり戦闘のセンスがあるのだろう。次の戦いも楽しみだ。
続いての試合は、マッチョ拳闘士イーゴリさんとムキムキ斧術士のランメルトさんの戦いだ。なぜか二人とも上半身裸だから、一撃一撃が致命傷となりそうな気がする。
【それこそ、どうでもいい試合だな。終わったら起こしてくれ】
脳内賢者が寝る必要があるのかどうか、疑問は尽きないところだが、今は構っている暇はない。次の二人のステータスを確認すると――
イーゴリ 拳術B Lv13:
体力595 魔力225
攻撃力539 防御力372
魔法攻撃力225 魔法防御力278
敏捷731 運245
ランメルト斧術B Lv13:
体力657 魔力183
攻撃力752 防御力293
魔法攻撃力186 魔法防御力344
敏捷413 運211
見た目はそっくりだが、攻撃力はランメルトさんが、敏捷はイーゴリさんに分があるといったところか。どちらも攻撃力に比べ防御力が低いので、やっぱり鎧を着た方がいいんじゃないと思うんだけど……
二人で競うようにポージングしていることから、僕にはわからないこだわりがあるのだろうね。
この二人の勝った方が僕の対戦相手になるから、よーく見ておかないと。
イーゴリさんとランメルトさんの戦いは、敏捷に大きく勝るイーゴリさんがランメルトさんの周りを軽快に動き回り、攻撃力に勝るランメルトさんはどっしりと構えカウンターを狙うといった形になりそうだ。
「シッ!」
まずはイーゴリさんがランメルトさんの左側に回り込み、右手で正拳を放った。どうやらイーゴリさんは、戦斧を右肩に担ぐように構えているランメルトさんから、武器が遠い位置になるように動いているようだ。さらに金属の手甲をつけている左手で身体を守り、戦斧での攻撃にも備えている。
それに対し、ランメルトさんは全く防御も回避もせず力一杯に戦斧を振り抜いた。
ボコッという鈍い音と共にランメルトさんの左脇腹に正拳突きが決まったが、攻撃直後にすぐに後ろに飛び
手応えを感じたランメルトさんは、追撃しようとして崩れ落ち、地面に片膝をついてその動きを止めてしまう。よく見ると、左脇腹が拳大に陥没していた。……鎧を着けてればもっと防げていただろうに。
左足から血を流し拳を構えるイーゴリさんと、左脇に大きなダメージを受け苦しそうな顔をして戦斧を構えるランメルトさん。あまりのダメージのせいか、両者とも自慢の機動力や攻撃力が見る影もない。
その後は、お互いに力のない攻撃を繰り返し浅い傷をつけ合っていく。時間が経つにつれ、血が流れている分不利になっていくイーゴリさん。もう後がなくなったマッチョ拳闘士は、次の一撃に全てをかけるようだ。
「なかなかやるではないか、ランメルト!」
「ふふ、お主こそここまでやるとは思わなかったぞ!」
そんな会話を交わした二人は、次の一撃のために力を貯め始める。お互いに守ったり躱したりする気はないようだ。
「"拳術・衝"!」
「"斧術・断"!」
同時に繰り出される、Bクラスの必殺技。イーゴリさんの手甲とランメルトさんの戦斧が交錯し――
ガキン!
ランメルトさんは、イーゴリさんの必殺技で発生した衝撃波に弾かれ、後ろへと吹き飛ばされ倒れてしまった。逆にイーゴリさんは、ランメルトさんの必殺技を受け手甲が割れ左腕から大量の血が流れている。そして、そのまま前方へと倒れてしまった。
「……」
審判も観客も固唾を呑んで、二人を見守るが二人とも一向に動く気配がない。
「りょ、両者戦闘不能!? 救護班急げ!」
それを見た審判が、急いでけが人の治療のために控えていた白魔道士を呼んだ。だが、この大会のルール上、自分で治癒を行うのはともかく、他人から治癒を受けると失格なってしまう。二人とも意識がないみたいだし、放っておいたら死んでしまうかもしれないから、回復魔法をかけるのは仕方がないんだけど……
「おい、これってどうなるんだ?」
「二人とも治癒魔法受けたら、どっちが勝ったことになるんだ?」
「えっと、もしかして二人とも失格?」
妙にルールに詳しい観客がそんな会話をしたせいで、観客席が騒然となってしまった。
「りょ、両者失格により、次の試合は新人料理人ライトの勝ちとする!」
何と言うことでしょう。またしても、何もしていないのに勝利が確定してしまいました。
この審判の宣言を聞いた観客達から、『またも不戦勝か!? どんだけラッキーなんだ!?』とか『もうここまで来ると呪いの域じゃないの?』とか聞こえてきて、物凄い恥ずかしくなってしまった。僕だって、こんな結果を望んでいたわけじゃないのに。
しかし、これで決勝トーナメントの初戦を戦わずして勝ってしまったことには変わりがない。次の、イヴァンさんとの対戦にそなえるとしよう。
しかし、この壮絶なある意味男らしい試合を見て僕が思ったことはただひとつ――
(鎧着てた方が勝ったんじゃない?)
だった。
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