第59話 閑話 ホロの村のひととき
ライトがホロの村を出てから早七ヶ月。村の食堂では今日もライトの母、シンディがせっせと働いている。
~side シンディ~
「おーい、こっちにファットラビットの生姜焼きくれ!」
「はーい!」
「こっちはエール酒をもう1杯くれ!」
「はーい、ちょっと待ってねー」
私は厨房の中からが注文に応える。きれいに捌かれたファットラビットをショウガダレに浸し、火にかけてから焼き上がるまでの間にエール酒を注いだ。
「リノアちゃん、これお願いね」
「はい、シンディさん!」
出来上がった料理とエール酒を、私以外の唯一の従業員であるリノアちゃんに運んでもらう。
彼女はライトと同じ歳で、ライトの同級生だ。正確には同級生だったと言うべきかな。なぜならライトは七ヶ月ほど前に村を出てしまったから。
リノアちゃんは、ライトが村を出た後お手伝い兼従業員としてきてくれている。たぶん、ライトが出て行ったことで落ち込んでいる私を見て来てくれたのだろう。心優しい子だと思う。
心優しいと言えば、ライトを追いかけて冒険者になったミアちゃんはどうしているのかな。
一度、ビスターナから戻って来たときは、何か無理してるというか、何かを隠しているような気がして心配だったのを覚えている。
あれから五ヶ月以上経つが、ご両親のところにも何の連絡もないみたい。無事、ライトと出会えているといいんだけど。
このお店で働いているのは私とリノアちゃんだけだけど、実際このお店は村長さんの奥さんのものなので、私もリノアちゃんも雇われている形になる。
いずれは自分の店を構えたいという夢はあるけれど、もともと人が少ない村だから、当然お客さんも数えるほどしかこないし、収入もそれに比例して少ない。お店を構えるどころか、日々の生活で精一杯。
それでもライトが帰ってきた時に、少しでも美味しいものを食べさせてあげたい。そう思いながら、一生懸命働いて、くたくたになりながら家に帰ってくる。いつもと変わらない、そんなある日の夜の出来事だった。
「あら? ポストに何か入ってるわね。手紙かしら? こんな田舎なのに珍しい」
この村は小さな村だから、村の端から端まで歩いてもそれほど時間がかからない。だから手紙なんていう文化はない。直接、伝えた方が早いから。
でも、今日だけはお飾りになっていた家のポストに、手紙と小さな皮の袋が入っていた。この村の外には知り合いはいないから、誰だろうと思って手紙を手に取った私は、そこに書いてあった名前を見て思わず笑みがこぼれてしまった。
そこには、七ヶ月前に家を出たライトの名前が書いてあったから。
私は家に入ると、早速手紙を読んだわ。その中には、冒険者として
そして今は料理人としての腕を磨くために、色々な国を回っていることも書かれていたわ。
そして手紙と一緒に入っていた皮の袋には、金貨がたくさん入っていた。ライトが稼いだお給料の一部らしい。私が最初に持たせた金貨の倍は入っている袋を見て、私は自分の息子の成長を感じ、久しぶりに幸せな気分で一夜を過ごすことができたわ。
ありがとう、ライト!
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