第58話 武術大会開催 ⚪︎

 多民族国家ロンディウムの首都ラジールについてから早一週間。この一週間は日が出ているうちはコジローさんと訓練がてらクエストをこなし、夕方から夜にかけてはカルバチアで手に入れた魚介類を元に新作料理を考えるという生活を送っていた。

 おかげで剣士のラーニングスキルはSSまで上がり、ギルドランクもBランクになった。Aランクに上がるためには、昇格試験があるらしいのでそれは時間があるときにしよう。


 料理の方は、クラーケンを適度な大きさに切って、卵、ミルクに小麦粉のきめ細かいのを混ぜ合わせた液に浸しパン粉をつけて油で揚げる、『クラーケンリング』を登録した。

 ついでに作った、茹でた卵をすりつぶし、刻んだタマネギと一緒にマヨネーズで和えて、レモン汁と塩こしょう、砂糖で味付けをした、その名も『タルタルソース』もソース部門に登録されている。正確には材料の名前は違うかもだけど。


 その間に一度転移魔法で実家に戻り、手紙と一緒に金貨が入った袋を置いてきた。少しでも家計の足しになればいいんだけどね。

 レイには『お前の母さんは美人だから一目会っていこうぜ』なんて言われたけど、まだまだ僕は半人前だからその誘いには乗らなかった。決して、レイが『人妻もお構いなし』ってわかったからではないよ。




 ▽▽▽




 そして武道大会の開催三日前、予選の組み合わせが発表されたので僕達は闘技場まで見に行った。予選グループはA~Jまで十グループあり、一グループは十名前後で構成されている。

 コジローさんはBグループで僕は最後のJグループだった。僕とコジローさんが同じグループには入らなかったのは、日頃の行いがよかったからだろう。


 同時に出場選手が簡単に紹介されていた。得物はほとんどが片手剣、大剣、斧、槍、に集中しており、短剣や弓、ナックルなどがグループに一人いるかいないかといったところだ。ちなみに、『刀』はコジローさんただ一人だった。


「ふむ、大体予想通りでござるな。剣、斧、槍の対策はもう十分でござる。後は短剣とナックルの対策をこの3日間で完璧にするでござるよ」


「わかりました。でも、弓の対策はいいんですか?」


 僕のところにはいなかったが、コジローさんのグループには弓術士がいるみたいだから、尋ねてみたんだけど――


「対策も何も、矢を躱して斬るしかないでござる」


 と言われてしまった。


 もちろんこの組み合わせを見に来た選手は他にもたくさんいるわけで、組み合わせ表を見ながら一喜一憂している姿が見て取れる。

 そして、やはりというかコジローさんのことはみんな知っているようで、その名前を見た参加者達から悲鳴が上がっていた。特にその声が大きいのはBグループの選手達だろう。


 それでも、普段人前に姿を現すことが少ないSランク冒険者の参加に、興奮気味の選手も少なからずいるようだ。ましてや、組み合わせを見に来た観戦者のみなさんは、珍しい『刀』での戦い方が見れるとわかって喜びの声を上げている。


 それから、周りの人達の話からもう一人注目の選手がいることがわかった。


 Dグループに入っているフランセットという選手だ。コジローさんもこの選手のことを知っていたようで、『調教師』という珍しいジョブに就いているそうだ。


 この調教師とは魔物を使役して戦うジョブで、使役できる魔物は自分のジョブクラスと同じランクまでの魔物らしい。そして、その武器も特徴的で『鞭』と呼ばれるロープのようなもので戦うそうだ。そしてこのフランセットはジョブクラスAのSランク冒険者。その名前を見つけたコジローさんは……


「対策に鞭をいれるでござるよ」


 ぼそっと呟いたその言葉から、フランセットの高い実力がうかがい知れた。


【鞭を使う女性冒険者か。なぜだろう、そそられるな】


 最早、レイの守備範囲が広すぎてどう返答していいかわからなくなる。まあ、無理して返す必要もないし、大抵は無視してるんだけど……


「ところでコジローさん、フランセットさんは調教師だから使い魔がいるのですよね? どんな使い魔かご存じですか?」


「うむ。知ってるでござるよ。有名でござるからな。フランセット殿の使い魔は……レッドドラゴンでござる」


「えっ!? レッドドラゴンですか!? よく使役できましたね!?」


 レッドドラゴンとは、以前僕が倒したブルードラゴンと同格の魔物。Aランクの冒険者がパーティーで戦ってようやく勝てるかどうかといった、魔物の中でもかなり上位の存在だ。それを一人の冒険者が使役するなんて、どうみても過剰戦力の気がする。


「実は、調教できる魔物の条件はクラス以外にもあって、ステータスのどれかひとつでもいいから、相手を上回っていなければならないでござる。そう考えると、普通ドラゴンなど使役できないのでござるが……彼女は運がよかったのでござる」


「どういうことですか? 運がいいと、ステータスに関係なく使役できる可能性があるのですか?」


「いや、文字通りがレッドドラゴンより高かったのでござるよ」


 あー、なるほど! 確かに運というステータスもあったね。戦闘には関係ないからあまり意識したことはなかったけど、"運"というステータスにそんな使い道があったとは!?


「そんなこともあるんですね!」


「とは言っても、そうそう運が低いドラゴンに会えるわけでもござらぬし、その条件が整ってさえ絶対使役できるというわけでもござらぬから、運がよかったというのはそう言う意味も含めてでござるよ」


 それはそうか。そうじゃなければ、このフランセットさんは何十体ものドラゴンを使役することができて、一人で世界を滅ぼすことができちゃうからね。まあ、一体でも普通の人達にとっては物凄い脅威な気がするけど……


「ところで、コジローさん。この武道大会では使い魔を使ってもいいのですか?」


 これが許可されるなら、相手になるのはコジローさんか僕くらいしかいないと思うけど――


「いや、さすがにそれは許可されてないでござる。それでも彼女は鞭術もAクラスでござるから、それだけでもかなりの脅威でござるよ」


 コジローさんはそうは言っているが、確か調教師のユニークスキルにはステータス補正がなかったはずだ。だとすれば、攻撃力に(大)の補正がかかっている侍の敵ではないだろう。


「とりあえず、組み合わせはわかったので今日もクエストを受けて、訓練にいきましょう!」


「うむ。そうするでござるか」


【ライト、お前も調教してもらったらどうだろうか?】


 相変わらずわけのわからないことを言っているマゾ賢者は放っておいて、組み合わせを確認した僕らは、ギルドに寄ってクエストをいくつか受けてからまた訓練に励むのだった。


 ちなみに僕の今のステータスはというと……



 名前 :ライト

 性別 :男  

 種族 :人族

 レベル:40(69)

 ジョブ:剣士

 クラス:C(SS)  

 職業 :料理人


 体力 :400(1518)

 魔力 :200(3083)

 攻撃力:420(1515)

 防御力:420(1513)

 魔法攻撃力:200(3898)

 魔法防御力:300(3801)

 敏捷 :355(1522)

 運  :350


(オリジナルギフト:スキルメモリー)


 ユニークスキル 

 攻撃力上昇(小)防御力上昇(小)


(無詠唱・並列思考・消費魔力減少・魔力回復速度上昇

 攻撃力上昇(中)・防御力上昇(中)・魔力上昇(小)

 魔法攻撃力上昇(中)・魔法防御力上昇(中)

 敏捷上昇(中)・鑑定 Lv30・探知 Lv30・隠蔽 Lv30

 思考加速 Lv30・集中・獲得経験値倍化・経験値共有

 アイテム効果アップ・効果持続 Lv30・暗視・魔物調教

 契約・召喚・重ねがけ・ジョブチェンジ

 ステータスアップ効果)


 ラーニングスキル 

 剣技C Lv4(SS Lv30)


(炎魔法SS Lv30・風魔法SS Lv30・土魔法SS Lv30・雷魔法SS Lv30

 水(氷)魔法SS Lv30・闇魔法SS Lv30・光魔法SS Lv30・聖魔法SS Lv30

 重力魔法SS Lv30・時魔法SS Lv30・空間魔法SS Lv30・結界術SS Lv30

 錬金術SS Lv30・調理術SS Lv30・槍術D Lv1・斧術D Lv1・弓術D Lv1

 拳術D Lv1・盾術D Lv1・暗技D Lv1・短剣術D Lv1

 強化魔法C Lv9・加工D Lv1・採集S Lv22・算術SS Lv30・裁縫D Lv1

 農耕D Lv1・採掘D Lv1・暗殺術D Lv1・調教術D Lv1・精霊契約D Lv1

 付与術D Lv1・祝福SS Lv30)




 ▽▽▽




「レディース&ジェントルメン! さあこれより、みなさんお待ちかねのラジール武術大会の開催だー!!」


 黒いスーツを着た男性が、異常なハイテンションで開会を宣言してスタートした武術大会。僕らはあれから三日間、各種武器に対応した訓練を行い、準備万端で今日の日を迎えた。今、選手達は闘技場に各グループ毎に並ばされ、開会式に参加している。


「えー、武術大会のルールについて説明します。まず、装備についてですが…………」


 開会宣言の後は、審査委員長とやらが武術大会のルールについて説明を始めた。細かなルールもたくさんあるから、かなり長々としゃべっている。事前に確認していなかったら、こんなもの一回聞いただけじゃ覚えきれないだろうに。レイに至っては、早々に説明を聞くのを諦め、観客の中にかわいい子がいないか探し始めている。


 その長々としたルール説明が終わり、組み合わせと試合順を確認した後、最後に貴賓席の真ん中に座っていた国王陛下が立ち上がり、演説を始めた。


「選手諸君、よくぞこの武術大会のために集まってくれた。吾輩はこのロンディウムの王、ラウル・ド・ダルシアクである。この歴史ある武術大会は今回で100回目を迎える。その記念すべき大会に相応しい、我々の血が熱くなるような戦いを期待している。

 上位入賞者には、希望するならば我が国の騎士になるチャンスを与えよう。さらに、優勝者には100回目に相応しい賞品も用意しいる故、全力を持って相手を叩き潰すがよい!」


 この国の王様は中々過激な性格らしい。白虎の獣人だけあって迫力があるから、ある意味見た目を裏切らない性格と言えるだろう。何でも、この国王は何回か前の優勝者だそうだ。王様が優勝したのか、優勝してから王様になったのかは知らないけど、まだまだその力は健在のようだ。


 国王陛下のお言葉で、会場は異様な盛り上がりを見せている。この後、早速予選グループによる生き残り戦が行われるので、選手達はいったん退場し会場では準備が始まった。控え室では、選手達が装備のチェックをしたり、身体を動かしたりして開始の合図を待っている。


 僕のグループは最終戦だから、まだみんな落ち着いている。ひとまず、Aグループの戦いを観戦するのだろう、控え室にある窓にみんな群がっていた。


「それでは、これより予選Aグループの試合を行う! 出場者の入場だぁぁぁ!!」


 相変わらずハイテンションな司会者の声に合わせ、Aグループの戦士達が会場へと入場した。その間にも、司会者の男性は、一人ひとりの名前と職業、ジョブや簡単なプロフィールを紹介している。特に人気のある選手が紹介されたときなどは、会場が一気に盛り上がっていた。


【あはは、お前の紹介が楽しみだな!】


 この紹介を聞いて、レイがそんなことを言ってきた。何が楽しみなのかはよくわからないけど。


 そんなやりとりとは関係なく、会場では着々と戦闘開始の準備が進められていた。


 Aグループのメンバーは壁際に等間隔に並び、開始の合図を待っている。


 なるほど、公平を期すためにこういう配置にしているのか。でも、誰と隣り合うかっていうのも、結構勝敗に影響しそうだ。


 そんなことを考えていると、開始の合図があり、いよいよ武術大会の予選が始まった。

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