第四章 剣士編

第51話 侍コジロー

「それでは行って参ります!」


 パーティーの次の日、新たな食材、新たなレシピを求める旅にでる僕のために、昨夜のパーティーメンバーがそのまま見送りに来てくれている。本当にありがたい!


「名残惜しいが、コンロの件よろしく頼むだわい!」


「ライト、冷却用の魔法道具マジックアイテムの件頼んだぞ!」


「無理だけはするんじゃないだわさ」


 この街に来てからお世話になった、師匠、マスター、エイダさんからそれぞれお言葉を頂いて、みんなの声を背に歩き始める。


 まず向かうのは料理ギルドだ。そう言えば、この街に来て何ヶ月にもなるが、料理ギルドに入るのは初めてだな。僕は、ちょっとドキドキしながら料理ギルドのドアをくぐった。


「いらっしゃいませ。レシピの閲覧ですか? それともレシピの登録ですか?」


 受付のお姉さんが、僕を見て早速声をかけてくれた。


【むむむ。冒険者ギルドのお姉さんに勝るとも劣らず……】


 脳内賢者の言いたいことがわかってしまったので、彼の言葉を急いで意識の外へ追いやる。


 ちなみに、ここ料理ギルドは、貨幣を払えばレシピを見ることができるので、料理人以外にも一般の人々もたくさんいるようだ。

 見ることができるレシピは三種類あり、一つはどこの料理ギルドでも見ることができるワールドレシピ。二つ目は、そのギルドでしか見ることができないギルドレシピ。そして、最後はどのギルドでも見ることができるが、レシピを見るために登録者がかけたパスワードを入力しなければならない、フレンドレシピだ。

 どれも一レシピ銅貨一枚で見ることができるが、中にはフレンドレシピのパスワードに大金をかけて商売している人もいるらしい。


「あ、いえ、料理人として登録したいのですが」


 僕はまだ登録していないので、レシピの登録ができないからね。まずは登録しないと。


「失礼いたしました。それではこちらに名前とジョブ、一応、レベルと得意料理の記入もお願いします」


 受付のお姉さんから用紙をもらい、必要事項を記入していく。全て記入し終えたところで、お姉さんに用紙を手渡した。


「ありがとうございます……えっ!? ジョブが『調理師』!? 初めて見ました! もしかして、ホワイトエプロンのライトさんですか!?」


「はい、そのライトです。訳あって、今はホワイトエプロンで働いてはいないのですが……」


 店を出てから料理ギルドに登録するのは、ちょっと恥ずかしい。もっと早くに登録しておけばよかった。


「まあ、そうなのですか……それは、とっても残念です。ライト様の料理は物凄く美味しいって評判でしたから」


 むむむ、そんな噂が流れているのか。っていうか、なぜ『様』なのだ?


【それはあれだ……お前に気があるんだよ! さあ、今がチャンス! 告白するんだ!】


(いやいや、それはないでしょう? たぶん、師匠が有名だから弟子の僕にも敬意を払ってくれてるんだよ)


 相変わらずのレイの思考に思わず苦笑いしてしまう。


「それで、登録の方は大丈夫でしょうか?」


「あ、すいません。もちろんライト様なら問題ありません。初めての登録なので、Fランクからのスタートになりますが、料理クエストを達成したりオリジナルレシピを登録することで、ランクはどんどん上がっていきます。冒険者ギルドと違って、クエストを受けなくてもカードの効力が失効することはありませんのでご心配なく!」


 すぐにでもジョブを変えるつもりだったから、そのシステムはありがたい。といっても、料理人自体が色々なジョブの人がいるみたいだから当たり前か。

 冒険者ギルドカードなんて、時々顔を隠して"結界師"で採集クエストを受けないと直ぐ効力が切れてしまうのにね。


 説明を聞きながらそんなことを考えていると、ギルドカードができたようで、僕は受付のお姉さんから茶色のカードを受け取った。


(冒険者ギルドのカードと色は一緒なんだ)


 料理人の登録ついでに、ブループリンのレシピを登録してみることにした。材料と作り方をメモし、受付のお姉さんに渡す。レシピは巨大なクリスタルに登録され、レシピが見たい場合は、受付からそのクリスタルと通信できる水晶玉を借りるのだ。


「レシピを見る人が多ければ多いほど、配当金も多くなりますので楽しみにしていてくださいね!」


 受付のお姉さんが、レシピの登録について説明してくれたけど、正直、まだ一種類しか登録していないし、素材も高価でなかなか手に入らないだろうか、そんなに閲覧者が多くなるとは思えなかった。まあ、お小遣い程度の期待をしておこう。


 それから、料理ギルドを後にした僕は長らくお世話になったトルーフェンの街を出るのであった。




 ▽▽▽




【それでジョブはどうするんだ?】


(予定通り、"剣士"でいくよ。せっかくお姫様にいい剣をもらったからね)


 僕はお姫様にもらった剣を腰に下げながら、神官のスキルを使い剣士へとジョブチェンジをする。


 ステータス


 名前 :ライト

 性別 :男  

 種族 :人族

 レベル:40(65)

 ジョブ:剣士

 クラス:D  

 職業 :料理人


 体力 :400(1428)

 魔力 :200(2979)

 攻撃力:420(1425)

 防御力:420(1423)

 魔法攻撃力:200(3778)

 魔法防御力:300(3681)

 敏捷 :355(1432)

 運  :330


(オリジナルギフト:スキルメモリー)


 ユニークスキル 

 攻撃力上昇(小)防御力上昇(小)


(無詠唱・並列思考・消費魔力減少・魔力回復速度上昇

 攻撃力上昇(中)・防御力上昇(中)・魔力上昇(小)

 魔法攻撃力上昇(中)・魔法防御力上昇(中)

 敏捷上昇(中)・鑑定 Lv30・探知 Lv30・隠蔽 Lv30

 思考加速 Lv30・集中・獲得経験値倍化・経験値共有

 アイテム効果アップ・効果持続 Lv30・暗視・魔物調教

 契約・召喚・重ねがけ・ジョブチェンジ

 ステータスアップ効果)


 ラーニングスキル 

 剣技D Lv2


(炎魔法SS Lv30・風魔法SS Lv30・土魔法SS Lv30・雷魔法SS Lv30

 水(氷)魔法SS Lv30・闇魔法SS Lv30・光魔法SS Lv30・聖魔法SS Lv30

 重力魔法SS Lv30・時魔法SS Lv30・空間魔法SS Lv30・結界術SS Lv30

 錬金術SS Lv30・調理術SS Lv30・槍術D Lv1・斧術D Lv1・弓術D Lv1

 拳術D Lv1・盾術D Lv1・暗技D Lv1・短剣術D Lv1

 強化魔法C Lv6・素材加工 D Lv1・採集A Lv20・算術SS Lv30・裁縫D Lv1

 農耕D Lv1・採掘D Lv1・暗殺術D Lv1・調教術D Lv1・精霊契約D Lv1

 付与術D Lv1・祝福S Lv22)


【確かに、世の中には魔法が効かない魔物もいるからな。物理攻撃の手段を身につけておくという意味では、剣士もありかもな】


 珍しくレイがまともなことを言っている。雨でも降る前兆か?


 それから僕は久しぶりに自分のステータスを確認する。レベルはオークをたくさんとブルードラゴンを倒したおかげで五つ上がっていた。


 さらに、調理術がSSになったことで、調理器具強化、素材看破、調理最適化といったスキルが使えるようになっていた。


 調理器具強化は、その名の通り調理器具の切れ味や耐久力があがるみたいだからありがたいけど、この素材看破と調理最適化はどうなんだろう。

 素材看破は食べた料理の素材が瞬時にわかるというもので、調理最適化は素材を見ただけで最適な捌き方がわかってしまうというものだ。でも、僕のお母さんも師匠も同じことを言っていた、『料理っていうのは、悩んで考えて工夫して……苦労して学ぶものだ』と。

 ということで、あまりこの2つのスキルに頼りすぎないようにしようと思う。


 そして、改めてステータスと魔法の袋マジックバッグの中の持ち物確認をしてから、街道に出た。目指すは港町カルバチアだ。トルーフェンから馬車で五日ほどの距離にある海沿いの街で、海産物を活かした料理が楽しめるらしい。


 普通徒歩だと、倍くらい余計にかかるだろうが急ぐ旅でもないし、また薬草でも集めながら行くことにした。




 ▽▽▽




 時々、街道沿いの森に入りつつ旅を続けること三日目。丁度、トルーフェンとカルバチアの間くらいのところで、僕は薬草を採集していた。ステータスが上がったおかげか、一日歩いてもそれほど疲れないし、本気で走ったら馬車より早く着きそうな気がする。


「ちょっと、深くに入り過ぎちゃったかな?」


 貴重な薬草を運良く見つけたので、ちょっと捜索範囲を広げて森の奥まで入ってみたところ、さらに森の奥深くに明らかに人間のしかし弱々しい反応を探知した。


(あんな森の奥深くにひとりだけ? しかも、全く動いてないみたいだし……ちょっと、行ってみようか)


【森の奥深くで怪我をして動けなくなった美女を助け、そのまま2人は恋に落ち……】


 どこぞの恋愛小説のような展開を夢想しているお花畑賢者は放っておいて、木々をかき分けながら歩くこと数十分、森の中に倒れている鎧姿の人物を見つけた。

 ライトメイルやフルプレートアーマーとはちょっと違う、何というか金属と木材を繋ぎ合わせたような鎧を着ている。


【よしライト、回れ右だ。見なかったことにしよう】


(倒れている人を放っておくなんてできるわけないだろう!)


 倒れている人物が男性だとわかった瞬間にこの対応とは。さすがエロ賢者。男性には厳しい。


「もしもーし、大丈夫ですか? こんなところで寝てると風邪を引きますよ?」


 うつ伏せに寝そべっているその人に声をかけてみた。


「うっ、ついに幻聴が聞こえてきたでござるか……もう、拙者の命も長くはないでござるな……」


 むう、何か変なしゃべり方をする人だな。


「えーと、幻聴ではありませんよ。僕の名前はライトと言います。こんな森の中で、どうなさいましたか?」


「げ、幻聴ではないでござるか!? せ、拙者の名前はコジローと申す。恥ずかしながら、3日間ほど何も食べてないでござる……お、お腹が減ったでござる」


 なんとこの拙者の人は、お腹が空いて生き倒れていたようだ。


「もしよかったら、僕が何か食べるものでも作りましょうか?」


 僕の魔法の袋マジックバッグには、料理用の素材も道具も入っているからいつでも料理が作れるのだ。


「おぉぉぉ、頼む、頼むでござる!」


 立ち上がる体力すらないのか、僕の足にすがりついてくるござるのおじさん。この世界では珍しく、髪も瞳も真っ黒で、顔を覆っているモジャモジャの髭まで同じ色だ。

 髪は手入れされていなく伸び放題で、後ろで無造作に一つ縛りしている。この風貌も相まってか、何だかゾンビみたいで気持ち悪い。


「えっと、それじゃあ、少々お待ちください」


 すがりついてくる手を振り解きながら、僕はさっと携帯コンロと調理道具を出して料理を作る準備をする。


(うん、随分お腹が減ってるみたいだから。お腹に優しい野菜スープを先に飲んでもらって、それからガツンとハイオークのステーキでもいただいてもらおうか)


 メニューを決めた僕は、手早く料理を作り始めた。


【お前も随分お人好しだな。干し肉のひとつでもくれてやって、さっさと先を目指せばいいものを……】


(僕は料理人だからね。お腹を空かした人がいれば、料理を作るのさ)


 僕が料理を作り始めると、辺りに食欲をそそるいい匂いが漂い始める。


「ここで料理を作るでござるか!? 干し肉の1つでもくだされば……むむ、えらい手際がいいでござるな? ああ、それにいい匂いがしてきたでござる!」


 行き倒れた割にはおしゃべりが止まらないおじさん。思ったより元気があるようなので、僕は安心して料理に専念することができた。そして、料理が出来上がると……


「う、美味すぎるでござる……荒れた胃に染み渡るこの野菜スープ。うほっ!? こっちはオーク肉のステーキでござるか!? んぐっ、うまぁぁぁ! このタレは何でござるか!? 初めて食べる味でござる!!」


 よっぽどお腹が空いていたのか、えらい勢いで食べ始めたござるのおじさん。今のうちにステータスでも見ておくかな。



 名前 :コジロー

 性別 :男  

 種族 :人族

 レベル:94

 ジョブ:侍

 クラス:A

 職業 :冒険者


 体力 :921

 魔力 :309

 攻撃力:944

 防御力:908

 魔法攻撃力:208

 魔法防御力:646

 敏捷 :886

 運  :361


 ユニークスキル 

 攻撃力上昇(大)・敏捷上昇(小)


 ラーニングスキル 

 刀術A Lv15


(えぇ!? 何だこのおじさん!? めっちゃんこ強いよ! しかも、ジョブ"侍"って初めて見るんですけど!? レイは知ってる?)


【いや、俺も初めて見るジョブだな。俺の時代でも聞いたことがない】


 何と、"侍"とはレイも知らないジョブでした。これは、食べ終わったらゆっくり話を聞かないと。

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