第40話 オーク殲滅作戦

「今回は、無理な注文を引き受けてくれてありがとう! 戦場での士気の高さは結果を大きく左右するからね!」


 オーク殲滅作戦に同行した僕は、合流早々ミックさんからお礼を言われたのだが――


(やっぱり、調理師のユニークスキルの効果はそれほど知られていないのか。調理師自体が少ない上に、習熟度が低いと効果も薄いからかなぁ)


【まあいいじゃねぇか。目立ちたくないんだろう? 調理師のスキル効果が知れ渡ったら、お前は戦場に引っ張りだこだぞ】


(それは困る。オークの強さにもよるけど、あんまり極端にステータスを上げない方がいいのかもね)


【ま、それが無難だな。それにしても、当たり前だが自警団とはむさ苦しい男ばっかりだな。さっさと終わらせて、スイーツ店に戻ろうぜ!】


 レイとの会話を終わらせて、ミックさんのお礼にも返事をする。


「そうですね。士気は大事ですもんね!」 


 レイの言う通り、僕としては目立ちたいわけではないので、あえて調理師のスキルについては説明しない。しかし、二人と同時に会話するのは結構疲れるね。


「予約がいっぱいで、何ヶ月待ちにもなってるホワイトエプロンの料理をこんなところで食べられるとは! こりゃ役得だな!」


「そうそう、俺もさっそく嫁さんに自慢してきたぜ!」


 周りの自警団の人達も噂でしかないステータスアップの効果より、単純に美味しい料理が食べられることの方が嬉しそうだ。


「それじゃあ、北の森までは歩いて1時間ほど、そこから例の集落まではさらに1時間ほどかかるんだ。えーと、ステータスアップの効果は10分ほどなんだっけ? だとしたら直前に食べるのがいいのかい?」


 かく言う僕も、上昇率についてはお客さんを鑑定することで調べることができたんだけど、効果時間については詳しくわかっているわけではないんだよね。

 何せ、お客さんは食べ終わったら出て行っちゃうから。ギルドで聞いた時は、だい十分位って言ってたからそれをそのままミックさんに伝えていた。


【自分で食って試しゃあいいものを……】


(そ、その手があったか!?)


【…………】


 レイから呆れたような雰囲気が伝わってくる。


「はい、大丈夫です。食材も調理器具も持って行きますので、すぐ近くで作りますよ」


 レイの指摘に動揺したけど、何とかミックさんにはバレないように答えることができた。


 簡単な作戦を聞いた後、僕は自警団の後ろにくっついて森まで歩いて行った。僕があまりに軽装だったので驚かれたけど、魔法の袋マジックバッグ持ちだと伝えると納得してくれた。みんな、とってもうらやましそうな顔をしていたけど。




▽▽▽




 北の森はそれほど強い魔物は住んでおらず、最高でもDランクの魔物しかいないはずだ。そのため、この森に生息する動物や魔物、薬草はトリューフェンの人達の生活の糧になっている。だからこそ、何でも根こそぎ食らい尽くしてしまうオークの群れは、討伐しなければならないのだろう。


「あそこですね。風向きに注意して準備しましょう」


 ミックさんが言う通り、目の前にはオークの集落が見えている。そのオークを鑑定すると、大体がレベル20前後、数はおよそ二十。そのステータスは……


【オーク Lv20 体力325:魔力44:攻撃力261:防御力188:魔法攻撃力55:魔法防御力89:敏捷 108】


 さらに数体オークジェネラルが混ざっている。


【オークジェネラル Lv31 体力429:魔力75:攻撃力386:防御力301:魔法攻撃力76:魔法防御力163:敏捷 174 スキル:斧術C】



 ちなみに、自警団のみなさんの中で一番レベルが高いミックさんのステータスは……



名前 :ミック・ヘーゼルダイン

性別 :男  

種族 :人族

レベル:32

ジョブ:剣士

クラス:C  

職業 :自警団 副団長


体力 :215

魔力 : 80

攻撃力:315

防御力:304

魔法攻撃力:77

魔法防御力:82

敏捷 :202

運  :151


ユニークスキル 

攻撃力上昇(小)敏捷上昇(小)


ラーニングスキル 

剣術C


(うん、武器と防具の数値を入れたら、オークジェネラルとも対等に戦えるね。これなら、2割増しくらいあれば余裕だよね?)


【そうだな。他の連中はミックほど強いわけじゃないから、2割は上げておいた方がいいだろう】


 レイと相談して、ステータスアップ効果の上げ幅を決定した。後は料理を作るだけだ。


「それじゃあ、料理を作っちゃいますね」


 僕は魔法の袋マジックバッグからコンロとフライパンを出した。それから手早くドラゴンの肉を焼いて、野菜を切る。その肉や野菜をパンに挟んで、サンドイッチを完成させた。

 そして前衛にはお肉多めの攻撃力アップサンドイッチを、わずかにいる黒魔道士のみなさんには魔法攻撃力アップの甘いドリンクを提供する。


 オークは攻撃力や体力が突出しているが、その他のステータスは割と低い。バランスがいい剣士や槍術士なら、油断しない限り大丈夫だろう。ましてや数も五十名とこちらの方が多いし、黒魔道士も数名いる。正直、ステータスアップは必要ないかもしれないくらいだ。


「さあ、みなさんどうぞ!」


 五十名分のサンドイッチと飲み物を素早く作り、前衛と後衛に分けて配った。


「さあ、全員サンドイッチをもらったな。それではいくぞ!」


 ミックさんの言葉に全員が頷いて、おもむろにサンドイッチを食べ始める。


 ……いや、わかってはいたけど何だかシュールな絵ですね。完全武装の戦士達が、オークの集落を前にサンドイッチを食べている。あんまり見たくない光景だった。


「おお、美味い! これが最近飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍しているライト殿の料理か!」

「こっちのドリンクも最高だぞ! こんなに甘くて美味しい飲み物は初めてだよ!」

「!? あれ? おいお前ら自分のステータスを見てみろよ……マジで数値が上がってるぞ!?」


 食べ終わった団員達は、最初は料理の感想ばかり言ってたのだけど、そのうち誰かがステータスを確認したようで、本当に上がっていることに驚きが広がっていった。


「おいおい、本当にステータスが上がるとは……。しかも2割も。これは嬉しい誤算だ。みんな、効果が切れる前にできるだけたくさんのオークを倒すぞ!」


「おぉ!」


 ミックさんのかけ声をきっかけに、全員がオークの集落に向かって突撃する。


 異変に気がついたオーク達が、叫び声を上げながら慌てた様子で集まってきた。中には武器だけ持って出てきた者もいたようで、この森で自分達を襲う者がいるなど考えてもいなかったことが窺える。


 すぐに先頭のミックさんがオーク一体と交戦状態になり、そこを中心に戦闘が広がっていった。

 レベルの高い者は一人で一体を相手にし、レベルの低い者は三人がかりで一体を倒しにかかる。人数もこちらの方が多く、黒魔道士の援護もあるので有利に戦闘を進めていた。


「出たぞ、オークジェネラルだ!」


そう叫んだ自警団員のその先に、周囲のオークよりも一回り巨躯の鎧を纏ったオークが現れた。


「レベルが25以下の者は下がれ! オークジェネラルは我々が相手をする!」


すぐさま、ミックさんがオークジェネラルの前に立ちはだかる。攻撃力や体力はオークジェネラルが上回っているが、その他のステータスは素の状態でもミックさんの方が上だ。

 さらに料理の効果は2割上乗せされるように作ったので、ミックさんはオークジェネラル相手に一方的に攻め込んでいる。


「素晴らしい効果だ! 今のうちに一体でも多く倒すぞ!」


少しでも有利なうちにオーク達の数を減らそうと、ミックさんは仲間と協力してオークジェネラルを一体、また一体と葬っていく。


「なあ、ミック? 10分なんぞとっくに過ぎてると思うんだが、このステータスアップの効果はいつ切れるんだ?」


オークジェネラルも倒しきり、あと数体のオークを残すのみとなった時、自警団の一人がミックさんにそう尋ねているのが聞こえた。


「あれ? そう言えばそうだな? スキルの効果は10分だった聞いていたんだけど、違ったのかな?」


(はて? 僕も10分だと思っていたけど……)


【ライト、お前、自分のスキルをもう一度よく見てみな】


 僕も不思議に思っていたのだが、どうやらレイはその理由がわかっているようだ。僕はレイに言われた通りに自分のスキルを見直してみると……


(あっ! これか!)


 ユニークスキルの欄に、結界師の"効果持続"があることに気がついた。


 結界師はSSクラスだからなぁ。ひょっとしてこれ相当長い時間効果が切れないのではなかろうか……


そうこうしているうちに最後のオークが倒され、それを見たミックさんが勝鬨をあげた。


こちら側には一人の犠牲者を出すこともなく、完全勝利だと思われた時、残っているオークがいないか集落を調べていたミックさんが、とんでもないものを発見してしまう。


「こ、これは魔法陣?」


ミックさんが言う通り、そこには魔法陣と石柱が置かれていた。


「これは……地下迷宮ダンジョンにある転移石によく似てますね」


オークを倒しきったところでミックさんと合流した僕は、自分で言いながらすでに嫌な予感を感じ取っていた。それは、ミックさんも同じだったようで……


「総員退避! 入り口まで戻れ!」


しかし、そう叫んだ直後に、魔法陣が怪しく光り、そこから先ほどの倍以上のオークが次々と現れた。その中にはオークジェネラルだけではなく、オークキングまで混ざっている。


そして五十匹近くのオークが現れた後、最後に姿を現したのは黒いタキシードに身を包んだ、赤い目に小さい角を持った魔族だった。


「ほほほほほ。上手いこと餌に食いついてくれたようですね! まあ、その餌に倒されなかっただけでも褒めてあげましょう。ですが、あなた達にはここで死んでもらいますよ。その後は当然、トリューフェンを蹂躙させていただきますがね!」 



名前 :ミッシェル・E・ランドバーグ

性別 :男  

種族 :魔族

レベル:78

クラス:A 


体力 :1206

魔力 :1243

攻撃力: 812

防御力: 826

魔法攻撃力:1165

魔法防御力:1183

敏捷 :767

運  :238

ユニークスキル:闇属性


ラーニングスキル

闇魔法B・闇耐性・槍術A


ステータスを見る限り、以前出会ったザムスより格上の魔族のようだ。階級名もEに上がっているがこれでもまだ中位魔族か。この手の込んだやり口からも、おそらくまた上位魔族の命令を受けて暗躍しているのではないかと思われる。


「くっ!? オーク達だけでも厳しいというのに、魔族だと!? ビスターナで魔族が出たから気をつけるようにと、ランドベリーの冒険者ギルドから通達が来ていたが、まさかトルーフェンまで狙われていたとは!」


どうやら前回の情報はきちんと伝わっていたようだが、たった一度の魔族出没情報ではそれほど危険視されていなかったようだ。ミックさんにとってそのツケは、自警団五十人の命というわけか。いや、下手したらトルーフェンの街全体かもしれない。


だからといって、それを簡単に諦められるはずがない。勝ち目のない戦いだとわかっていても、ここで引くわけにはいかないのだろう。


「みんな、聞いてくれ! 次は先ほどよりも厳しい戦いになるだろう。だが、我々が敗れれば奴らの次の標的はトルーフェンだ。大切な人達を守るためにも、何とかここで食い止めなければならない! 魔族は僕が相手をする。みんなはオークどもを頼む!」


自警団とはいえ、大都市トルーフェンを守ってきた彼らは、それなりの修羅場をくぐってきているのだろう。圧倒的に不利な状況にも関わらず、誰一人として諦めた顔をしている者はいない。


「クックック。滑稽、滑稽。まさかその戦力で我々に立ち向かってくるとは。まあ、逃がすつもりもないので、その選択はあながち間違いではありませんがね。さあ、オークども。邪魔するやつらは叩き潰してしまいなさい!」


ミッシェルの号令とともに、五十ものオーク達が一気に冒険者達に襲いかかる。


「クソ! せめてステータスアップの効果が残っていれば……残っていれば? ……残ってるね。何でかわからんが、これで少しはやれる気がする!」


ミックさんの表情がほんの少しだけ明るくなったが、戦況はなかなか厳しいようだ。魔族のミッシェルはまだ高みの見物を決め込んでいるからいいとして、ひとり一体のオークを相手にしている上、オークジェネラルよりも数段強い、オークキングが三体ほどいるのだ。


 自警団最高戦力のミックさんは何とか持ちこたえているが、オークキングを相手にしている残りの二人はやられるのも時間の問題だろう。

 今はまだオークキングは弱者をいたぶるように遊んでいるからいいが、それに飽きたら瞬殺されてしまうほどの実力差がある。他のみんなも料理の効果で何とか持ちこたえているが、こちらも……


【ライト、どうする?】


(今回は見てるだけのつもりだったけど、そうも言ってられないか……)


料理人としての依頼だけだけど、さすがにこの人達を見殺しにすることはできない。そう思った僕は、こっそり自警団のを手助けをすることにした。

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