第36話 閑話 ミア、ランドベリーへ
~sideミア~
「よし、これでレベル20だわ。早速、神殿に行って【盗賊】にジョブチェンジしなきゃ」
私がビスターナに来てから約一ヶ月が経った。その間、女の子五人パーティーでレベル上げとランク上げと行ってきた。でも、今日でそれも終わり。なぜなら、今日でレベル20になったからだ。
もともと私がこのパーティーに入れてもらったときに、レベル20になったら抜けると伝えていた。なぜかというと、レベルが20になったらジョブを【盗賊】に変えて、一からやり直す予定だったから。
私の最終目標である、【
ただ、【盗賊】自体もレベル20にならないと選択できない上位ジョブなので、今まで【剣士】でレベルを上げてきたのだ。そして、もうすぐレベルが上がりそうだったから昨日のうちにパーティーを抜けて、今日は一人でレベル上げに来ていたというわけ。
▽▽▽
無事に神殿でジョブチェンジできた私は、装備を売ったお金と今までのレベル上げで貯めたお金で、少し質のよい短剣を二本と、Bランクの魔物ブラッドウルフの毛皮から作られた、レザーアーマーを購入した。短剣はミスリル製で切れ味抜群、鎧も闇耐性が付いてる優れものだ。この一ヶ月の稼ぎが全部飛んじゃったけど、それだけの価値がある買い物だったと思う。
それから私は自分のステータスを確認して今後の計画を立てることにした。
ステータス
名前 :ミア
性別 :女
種族 :人族
レベル:20
ジョブ:盗賊
クラス:F
職業 :冒険者
体力 :172
魔力 : 73
攻撃力:202
防御力:228
魔法攻撃力: 74
魔法防御力:139
敏捷 :241
運 : 76
ユニークスキル
隠蔽
敏捷上昇(小)
ラーニングスキル
短剣術D Lv1
攻撃力と防御力は【剣士】だったおかげで、そこそこ上がっている。だけど、これからは敏捷が大きく伸びて、攻撃力や防御力はあまり伸びないだろう。武器も短剣に変わったから、しばらくは素早さ重視の戦い方を覚えなければならない。
それから、この街にとどまるかどうかも考えなくては。一ヶ月お世話になったパーティーを抜けたわけだから、今更戻るのもおかしいし、かといって別のパーティーとして毎日顔を合わせるのも恥ずかしい。この辺りで、思い切って拠点を変えてみるのもありかもしれない。
そう思いながら、とりあえずは登録変更のため冒険者ギルドへと向かった。
▽▽▽
カラン、コロン
いつ聞いても小気味よい音を鳴らして、ギルドの扉をくぐる。受付でジョブの変更を申し出ると、ちょっと驚かれたが問題なく変更できた。ジョブチェンジしてもレベルが下がるわけではないので、冒険者ランクは変わらないらしい。ただし、ラーニングスキルのレベルが下がるので、希望すればランクを下げることもできるそうだ。
それから何気なくクエスト掲示板を見ていると、突然後ろから声をかけられた。
「ミア、無事にジョブチェンジできたみたいね!」
振り返るとそこにいたのは、一ヶ月お世話になった女性四人組のパーティーのリーダー、オルガさんだった。その明るい笑顔に、ちょっと申し訳なくなる。
「はい、おかげさまで無事ジョブチェンジできました」
昨日の今日で出会ってしまった気恥ずかしさを隠して、頭を下げた。
「それで、ミアはこれからどうするつもりなの? また、私達と一緒に組む気はない? あなただったらジョブが変わっても大歓迎だけど」
「いえ、ジョブチェンジしたので剣士のスキルも使えなくなってしまいましたし、オルガさん達はあとひとつクエストを達成すればDランクにあがりますよね? ジョブクラスがDに下がった私だとご迷惑になると思います。何よりそろそろ別の町で情報を集めてみようかと思っていますので、私のことは気にしないでください」
「そっかー、残念だけどそう言う理由じゃしょうがないね。じゃあさ、最後に一緒にEランククエストを受けないかい? 丁度いいクエストがあるんだよ!」
私のわがままを聞いてくれた上で、最後に一緒にとクエストまで誘ってくれた。オルガさんは本当に、いい人だと思う。ライトも最初に組んだパーティーがこういう人だったらよかったのに……
「それではぜひお願いします。ちなみに、丁度いいとはどういう意味ですか?」
「ミアは今、別の町に行きたいっていってたよね? このクエストは隣町のランドベリーまでの護衛クエストなのさ。あたしらは向こうで少し羽を伸ばしたら戻ってくるけど、ミアはそのままランドベリーを拠点にしたらどうかなって思ってさ」
自分の都合でパーティ-を抜けた私にこんなに優しくしてくれるなんて、オルガさんが思うほど私は立派な目的を持っているわけではないのに……優しくされるほど胸が締め付けられる。
それでも私にとって都合がいいのは事実だ。最後に、この人達と一緒にクエストを達成したいという気持ちもあり、私はこのありがたい申し出を受けることにした。
「私はランドベリーで武器、防具店を営んでいるダリルと申します。今回の護衛クエストの依頼主になります。本日は護衛をよろしくお願いします」
「あたしはチーム"
今回の雇い主である商人のダリルさんに対して、オルガさんが代表してみんなを紹介してくれた。私も含め、紹介してもらったメンバーは軽く頭を下げて挨拶する。
「今回は馬車一台分になりますので、皆様方しか護衛を雇っておりません。依頼の細かい内容ですが――」
どうやらこのダリルさんは、かなりの頻度でビスターナとランドベリーを行き来しているようだ。慣れた様子で、今回の依頼内容をオルガさんに説明している。
説明が終わるとすぐに出発なった。私達は馬車を取り囲むように陣形を組み、護衛に当たる。ラッキーだったのは、今回仕入れた商品の中に馬がいたので、我々はその馬に乗って護衛に当たることができたことだ。
私は御者を務めるダリルさんのすぐ横に位置していたので、道中、ダリルさんとお話をする機会に恵まれた。特に興味深かったのは、ダリルさんが丁度一ヶ月前くらいに、同じようにビスターナからランドベリーに戻るときの話だった。その時は、馬車三台分の商品を持っての大所帯だったため、二つのパーティーと一人の結界師の少年を雇ったそうだ。
それを聞いた時、『結界師なんてサポートジョブなのに一人で活動していて大丈夫なんだろうか?』とちょっと心配になってしまった。人のこと心配する余裕なんてないはずなのに、何でだろう?
さらにダリルさんが言うには、商談の最後にほとんど傷がないワイバーンの素材を手に入れることができて、ちょっと興奮気味だったところに事件は起こったみたい。何と、十五人もいる野盗に襲われたそうなのだ。しかも、その野盗の頭領と思われる男は、Cクラスの斧術使いだったとか。
野盗は主力の十人を囮に、正面で戦っている間に背後から五人で奇襲させるという、嫌らしい作戦で攻めてきたそうよ。ただ、その作戦は護衛に雇ったパーティーのリーダーがその可能性に気がつき防ぐことができたんだけど、そのせいで正面の十人をたった四人で相手することになってしまったみたい。そのリーダーは随分思い入った作戦にでたわね。
格下相手なら四対十でも何とかなるかもしれないけど、同格相手ならこの人数差は致命的だと私は思った。
でも、結果的には正面を守った護衛の四人は無傷の勝利。
驚く私の顔を見てしてやったり顔のダリルさんに、その理由を聞かせてもらって驚いたわ。だって、Eランクの結界師の少年が張った結界が、野盗達の攻撃を全て弾いてしまったって言うんだから。私も冒険者としての経験は、それなりに積んできたからわかるの。その結界が異常だってことが。
この話を聞いたとき、『そんな人が仲間になってくれたら心強いだろうな』って思ったけど、ダメダメ。私の復讐に他人を巻き込むことはできない。私はあくまで一人でやり遂げなければならないと、再度心に誓ったの。
ダリルさんに野盗の話を聞いたときから、油断しないように常に警戒していたけど、幸いにもこの護衛クエスト中に襲われることはなかったわ。まあ、その時対峙されたのがこの辺りを拠点としていた最大の野盗だったから、そのおかげとも言えるんだけどね。
そして私達は、予定通り二日目の夕方、ランドベリーの街へと到着した。
▽▽▽
ランドベリーに到着した私達は、ダリルさんと別れてすぐ冒険者ギルドに依頼達成の報告に来ていた。ランドベリーの街は、未完成の
ここで私は、情報を集めながらレベル40まで上げて暗殺者を目指す。そのために、質の高い固定パーティーを探さなくては。
私は受付でメンバーカードをもらい、自分のレベルやジョブを書きクエストボードの右下に貼った。ジョブチェンジしたばかりで、ジョブクラスも最低のDクラスだからそうそうお誘いなんてないと思ったんだけど……
ギルドにある武器防具屋を覗こうとしたら、すぐに私のギルドカードが光った。まさか、こんなに早くメンバーカードを取ってくれた人がいるとは。
慌てて受付に戻ると三人の人物が何やら言い争いをしていた。
「だから、俺が一番先に見つけたんだってよ!」
「だとしても、私が先に取りましたから!」
「なあ、最終的にメンバーカードをもってるのは俺なんだが?」
「それはあなたが私から横取りしたからでしょ!」
先に見つけたと言っているのは、片手剣を腰に差した剣士風の若い男。先に取ったと言っているのは、身の丈よりも遙かに長い槍を持つ若い女性。そして、私のメンバーカードを持っているのは、背中に大きな盾を担いだこちらも若そうな男性だった。
「あの、これは一体?」
状況が見えない私は、対応してくれた受付のお姉さんにそっと聞いてみた。
「あっ、ミアさん実はミアさんがメンバーカードを貼ってすぐに、こちらの3人の方で取り合いになってしまいまして……」
受付のお姉さんの説明で状況はわかったが、こういった場合どうしたらいいのだろう?
「あの、私は一体どうすれば……」
私が困っていると、受付のお姉さんはハッとしたように仕事モードに戻ってくれた。
「ごめんなさい! えーと、こういう場合はミアさんに決めてもらうことになりますので、今からお三方のパーティーについてお話ししてもらいますね」
そう言って、受付のお姉さんは言い争いをしている三人の間に割って入って、私にしたのと同じ説明を始めた。その説明を聞いた三人は、ようやく言い争いを止めて今度は自分達の紹介を始める。
「よし、まずは俺からだな。俺の名前はカール。チーム
なるほど。パーティー構成は悪くない。特に白魔道士がいる辺りが心強い。だけど、物理攻撃に耐性がある魔物相手には苦戦しそうだわ。でも、ありかなしでいえばありね。そう分析して、次のパーティーの話を聞く。
「私はアチソン。私も一応、チームの
ふむふむ。こちらも三人パーティーのようだ。バランスも悪くないが魔法による攻撃手段がないのは、先ほどのチーム
「俺の名前はアラン。見ての通り盾士だが、すまない。俺はチームのリーダーじゃないんだ。リーダーの名前はラルクで、ちょっと今は席を外している。俺達のパーティーはラルクが剣士、俺が盾士、他に黒魔道士のノエルと白魔道士のミカがいる。俺達もレベル上げと金策を兼ねて
ここのパーティーは他の二つと違って、四人パーティーのようだ。三人よりのパーティーよりもらえる経験値は少なくなるけど、安全性は比べものにならないわ。剣士に盾士、黒魔道士に白魔道士とは構成もいい。
私は三つのパーティーの話を聞いて、少し悩んだが安全且つ確実にレベルを上げることができそうなアランさんのパーティーに決めた。カールさんとアチソンさんは、
そして私はアランさんにパーティーメンバーの元へ連れて行ってもらった。
そこで、自己紹介をして晴れて今日から
余談だけど、盗賊はレベル20までジョブチェンジすることができない上級職なので、なかなかなり手がいないそうなの。加えて、
とりあえずここでの目標はレベル40まで上げて、暗殺者になること。それから、ある程度のお金を稼いで装備を整えることになりそうね。何ヶ月、いや何年かかろうと絶対にあいつらを殺せるだけの力を手に入れてやるわ。
新しいパーティーメンバーには悟られないように、私は笑顔で復讐心を燃やすのだった。
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