第33話 結界師の次は ⚪︎

 ビスターナの街で魔物を倒した僕は、こっそり土魔法Sクラス大地震アースクエイクで街の周囲を平らに戻し、ランドベリーの街へと転移で戻った。

 自分ではこっそりやったつもりが、かなり地面が揺れていたようで魔物がまた攻めてきたのではと、街の人達を怯えさせてしまっていたとレイに言われ、ちょっと反省した。




▽▽▽




「魔族? にわかには信じられませんが……本当なのでしょうか? 魔族といえば、最後に確認されたのはおよそ百年前ですよ? って言うか、救援要請からまだ一日も経っていないのに、そんな情報を知っているのですか?」


 ビスターナに戻った僕を迎えてくれた副ギルドマスターのベティさんは、突然の報告に少々疑いの目を向けてきた。


【普通に考えたら、馬車で片道三日かかるところを半日で帰ってきたとは考えられねぇよな。魔法道具マジックアイテムで遠くの知り合いと通話したことにしておくとか……しかし、この副ギルドマスターもよくよく見ればそれなりに……】


 レイの言葉の前半部分を採用させてもらうことにして、ベティさんとの話を進めていく。


「ええ、僕も信じられませんが事実です。『鑑定の結果、種族に魔族と出ていました』と知り合いが言ってましたから。


「うん。個人が遠距離通話用の魔法道具マジックアイテムを持っているなんて、全くもって信じられませんが話を進めましょう……。今それを追求すると、話が進まないので」


 やっぱりそう甘くはなかったか。でも、起こったことがことだけに追求されずに済んでよかった。


「あはは!? やっぱり信じられませんか」


「ハァ。とりあえず今はそれでいいです。それで、その魔族の位はわかりますか?」


「あ、わかりますよ。名前がザムス・F・デラクールでしたから、魔族としては中の下といったところでしょうか」


「あら、あなた若く見えるのに魔族に随分詳しいのですね。魔族の階級文字を知ってるなんて」


「以前本で読んだことがありましたので……」


 もちろん本で読んだなんて言うのは嘘だ。いや、脳内エロ賢者が本を読んで得た知識だから、半分は本当なのかな?


「ふふ、勉強熱心なのですね。それよりも、そこまではっきり分かっているということは、やはり魔族が現れたというのは本当のようですね。この件はギルドマスターに報告して、全ギルドに周知して警戒してもらいます」


 やはり魔族が現れたというのは、相当の出来事なのだろう。これからは各ギルドが協力して、魔族に対して警戒態勢を取ることになるそうだ。


「ありがとうございます。何やら任務とか計画とか主とか、怪しい言葉を発していたらしいので魔族は絶対何かを企んでいると思いますよ」


「わかりました。その辺りの情報も付け加えさせてもらいますわ。……ところであなたはこれからどうするのかしら? 地下迷宮ダンジョンを一人で踏破してしまうような人材は、手放したくはないのだけど」


 ああ、そうか。魔族が現れた今、一人でも多く戦える人材が必要なのか。


「……ここで彼を支援して恩を売っておけば、彼の活躍と共に私は念願のギルドマスターの座に……ぷぷぷ、笑いが止まりません!」


(違った。盛大に違った。単に自分の出世のために、僕を利用しようとしているだけでした……。となれば、結構目立ってしまったし、結界師もSSクラスまで上がったし、何よりレベルが40を超えたのであのジョブに就ける。ここでのやりたいことは終わったと言えるな)


【メグたんとのランデブーがまだだろうが!】


「あの、申し訳ありませんがしばらく別の街でやりたいことがありますので、この街からはおいとましますね」


 戯れ言賢者の言うことは放っておいて、ベティさんにお別れを告げる。


「えええ~!! 何でですか!? ここにいてくれれば、VIP待遇をお約束しますよ!?」


「あの、そういうの正直面倒くさいのでパスでお願いします」


 ベティさんのすがるような目を見ないように、僕は静かにランドベリーの冒険者ギルドを後にするのだった。




▽▽▽




 さて、ジョブを変えるとなると行く場所はひとつ。僕は、ランドベリーにある神殿に来ていた。レベルが60になったので、ジョブチェンジするついでに他の最上位ジョブのユニークスキルも頂いておこう。


 いつも通り、神官のおじさんに不審がられながらジョブチェンジを繰り返す。何だかこの感じにも慣れてきてしまった。今回は、暗殺者アサシンの"暗視"、調教師の"魔物調教"、精霊術士の"契約・召喚"、付与師の"重ねがけ"、そして神官の"ジョブチェンジ"のユニークスキルを手に入れた。おっと、これでいつでも自分でジョブチェンジができるようになったわけだ。


 そして僕が次のジョブに選んだのは……



名前 :ライト

性別 :男  

種族 :人族

レベル:40(60)

ジョブ:調理師

クラス:D  

職業 :なし


体力 :190(1315)

魔力 :300(2849)

攻撃力:120(1312)

防御力:120(1311)

魔法攻撃力:200(3628)

魔法防御力:290(3531)

敏捷 :135(1320)

運 :305


(オリジナルギフト:スキルメモリー)


ユニークスキル 

ステータスアップ効果


(無詠唱・並列思考・消費魔力減少・魔力回復速度上昇

攻撃力上昇(中)・防御力上昇(中)・魔力上昇(小)

魔法攻撃力上昇(中)・魔法防御力上昇(中)

敏捷上昇(中)・鑑定 Lv21・探知 Lv22・隠蔽 Lv13

思考加速 Lv25・集中・獲得経験値倍化・経験値共有

アイテム効果アップ・効果持続 Lv30・暗視・魔物調教

契約・召喚・重ねがけ・ジョブチェンジ)



ラーニングスキル 

調理術D Lv1


(炎魔法SS Lv30・風魔法SS Lv30・土魔法SS Lv30・雷魔法SS Lv30

水(氷)魔法SS Lv30・闇魔法SS Lv30・光魔法SS Lv30・聖魔法SS Lv30

重力魔法SS Lv30・時魔法SS Lv30・空間魔法SS Lv30・結界術SS Lv30

錬金術SS Lv30・剣技D Lv1・槍術D Lv1・斧術D Lv1・弓術D Lv1

拳術D Lv1・盾術D Lv1・暗技D Lv1・短剣術D Lv1・強化魔法D Lv1

加工D Lv1・採集D Lv6・算術D Lv11・裁縫D Lv1・農耕D Lv1

採掘D Lv1・暗殺術D Lv1・調教術D Lv1・精霊契約D Lv1・付与術D Lv1

祝福D Lv1)



 そう、僕が次のジョブに選んだのはずばり"調理師"なのだ!


調理師のユニークスキルは、自身が作る料理に時間制限はあるものの、ステータスアップの効果が付与できるというものだ。そのアップ率は、ラーニングスキルの調理術のクラスが上がる毎に10%ずつ増えていき、最高のSSクラスまで上げれば60%のステータスアップが約束される。


 ステータスを6割上げるって、なかなかの反則スキルだと思うんだけど、冒険者の中で調理師なんてみたことがない。その辺りの事情を神官のおじさんに聞いてみると……


 この調理師というジョブは、そのスキル効果の優秀さのせいか、レベルが40を超えないと選択できない。

 レベル40となると、どんなジョブでも最低Cクラス、早い人ならBクラスまで上がっている。そこまで上げたジョブを調理師になるために捨てる人などほとんどいないうえ、このスキルは料理の味には全く影響を与えない。

 つまり、世の中の料理人のほとんどが、このジョブを取得していないのが現状らしい。


また、生産系の習熟度は、魔物を倒すことだけで上がるわけではなく、対象となる物を作らないと上がらないらしい。よって、習熟度を上げるには必然的に時間がかかるということだ。


(まあ、味が勝負の料理人にとっては、食べた人のステータスが多少上がろうが関係ないからね)


【ステータスアップは魅力だが、習熟度が低いうちは大した効果は期待できない上に、調理師自体の戦闘力は皆無だからな。冒険者がわざわざ戦えないジョブを選ぶわけもなし】


 結局、料理人も冒険者も選ばないジョブとなってしまっているのが現状だ。


 ちなみに僕は母が食堂で働いていたし、その手伝いをしていたので料理には自信がある。目指すは味もクラスも最高の調理師だ!


 さて、肝心の料理の修行をどこで行うかということだが、 僕は村を出るときから『この人の弟子になりたい』と決めている人がいた。


そのために僕が次に目指す街は、食文化の街"トリューフェン"と決めている。どこの国にも所属せず、中立を謳っている唯一無二の街。なぜそのようなことが許されるのか。それは、この街が作り出す数々の料理が、貴族達の胃袋をがっちりと掴み放さないからだ。

 トリューフェンにちょっかいを出し反感を買えば、そこの料理は一切食べられなくなる。暇を持て余し、美味しい物を食べることに幸せを求めている貴族達にとっては、それは決して耐えられることではないのだろう。


 そして、そのトリューフェンの中でも一目置かれている人物がいる。孤高の料理人と称される、アルバーニー氏だ。

 彼が生み出す料理の数々は、貴族おろか一国の国王達ですら虜にすると言われているそうだ。田舎町の食堂で働く僕の母でさえ、憧れていた程の料理人だ。ちなみに、料理ギルドに登録されている肉料理部門のレシピの約2割が、アルバーニー氏が作り出したものだという。


最高の料理人を目指すなら、彼の弟子になるしかない。僕は、その決意を新たに食文化の街、トリューフェンへと旅立つのであった。

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