第31話 閑話 ミアの再決心

~side ミア~


 私がビスターナについて冒険者として活動した次の日、この街は未曾有の危機に見舞われた。


 私が昨日パーティーを組んだ女性四人組のリーダーと、クエスト掲示板を見ているときにそれは起こった。


「大変です! 街に、街に多数の魔物が迫っています!!」


 これから狩りに出ようとしたあるパーティーが、門を出た瞬間街を取り囲む魔物の集団を見つけ、慌ててギルドに戻って来たのだ。


 それからギルドは蜂の巣を突いたような大騒ぎになった。この規模の街に高レベルの冒険者がいることは珍しい。私が知っている限りでも、Bランクのパーティーがひとついるくらいだったはず。

 すぐにギルドの偉い人が出てきて、全てのパーティーに街の防衛をお願いしたいと叫び声を上げた。だけど、魔物の強さも規模もはっきりとはしていないが、私達の様な低レベルのパーティーが役に立つとは思えなかった。


 それでも多くの冒険者が武器を取り、街の外へと向かう。私達もその時は恐怖よりも、実際の魔物の集団を見ていないが故の、冒険者達の根拠のない自信と熱気に当てられ、興奮状態で彼らと一緒に街の外へと向かっていった。


 門へと向かう途中で、この街の領主お抱えの兵士団と合流する。普通、兵士と冒険者とは仲が悪いのかと思っていたが、この街は違ったようだ。領主が有能なのか、兵士と冒険者の棲み分けがしっかりできていて、時には協力すら惜しまない関係なのだそうだ。


 兵士団と冒険者達で、総勢100名を超える集団となった私達は、もう何が来ても怖くないと言った感じで我先へと門の外へと駆け出していった。


 そこで見た光景は……地平線を埋め尽くすほどの魔物の群れ。Dランクのオーガやオークはもちろん、その上位種であるオークナイトやオークジェネラル、空にはポイズンビーやワイバーンの姿まで見て取れる。


 その光景を見た者達は、先ほどまでの興奮が一気に冷め、ほとんどが呆然と立ち尽くしていた。


「か、勝てるわけない……」


 誰かが呟いたその一言が、ここにいる全員の気持ちを代弁しているかのようだった。


「弓や攻撃魔法を使える者は、防衛壁の上に登れぇぇ! 前衛どもは門を中心に2重の半円の陣形をとれぇぇぇ! 幸い敵は正面からしか来ておらぬ! 魔法使いと弓術士は空からの敵を狙えぇぇ! わしら前衛は決死の覚悟でこの門をまもるじゃぁぁ!」


 おそらく兵士団の団長であろう老齢の人物が、その年を感じさせないほどの大声を張り上げ、怯える集団に活をいれながら指示を出す。


 その力強い声と的確な指示に、自分達の役目を思い出し動き出す兵士と冒険者達。その顔にはまだ怯えは残っているものの、同時に覚悟を決めた表情にも見えた。


「さあ、みんな来るぞ! あまり深入りせずに疲れたら後ろと交代するんだ。救援も要請した、決して諦めるんじゃねぇぞ!」


 赤い柄の槍を持った青年がみんなを鼓舞し、先陣を切って魔物の群れと交戦を始める。そこからは、敵味方入り乱れてのいつ終わるともわからない乱戦が始まった。


 最初にかち合った魔物達は、FランクやEランクといった比較的弱い魔物達だったので、何とか食い止めることができた。しかし、徐々にDランクの魔物が混じり始め、Cランクの魔物が登場したときにはすでに前衛は街の中まで押し込まれ、門からの進入を許してしまっていた。


(私はこんなところで復讐を果たすこともできずに死んでしまうの?)


 魔物にD、Cランクが混じり始めた時点で、すでに戦力外になってしまった私達は、門から入ってくる魔物と必死に戦っている人達のために祈ることしかできなかった。その人達もひとり、またひとりと傷つき後退を余儀なくされている。最早壊滅するのは時間の問題かと思われた。


 その時私の目に、唯一高ランクの魔物と一対一で戦えていた老齢の兵士団の団長と、先陣を切った赤い柄の槍を携えた戦士が数の暴力に屈しようとしている姿が目に入った。


(あの人達が負けたら終わる……)


 直感でそう感じた私は死を覚悟し、心の中で迷惑をかけてしまった両親に、復讐を果たすことができなかった幼なじみの男の子に『ごめんね』と謝っていた。


 その時だった。突如、槍使いの青年の前に水色のローブを身に纏った人物が現れたのは。遠い上に、後ろ姿だったので顔は見えなかったが、槍使いの青年より一回り小柄な身体は、女性か、もしくは子どもなのではと思ったことを覚えている。


 その水色ローブの人物が手を前に突き出すと、老齢の剣士の身体が光り、ゴブリンナイトの剣を薄くなった頭で弾き返した。

 さらに、そのローブ人物が何かをすると魔物達が一斉に動きを止め、地面に倒れてしまった。

 この状況に、周りにいた兵士や冒険者達は歓喜した。いくらランクに差があったとしても、怪我をして弱っていたとしても、倒れている魔物にトドメを刺すくらいの力は残っていたから。


 さらにはまだ街の外にいたおびただしい数の魔物達も、突如現れた燃える隕石に跡形もなく焼かれ、押しつぶされ死んでいった。

 なぜ街の中は無事だったのかわからないくらい、物凄い衝撃と熱気だったと思う。あまりのすごさに、私を含めた何人もの人達が気を失ってしまったくらいだから。


 気がついたときには、その水色ローブの人物は姿を消し、生き残った人達で(後から知ったことだけど、負傷者はたくさんいたが、奇跡的に死者はいなかったらしい)、壊れた建物や門の残骸を撤去する作業をしていた。


 誰もが恐怖と安堵が入り交じったような表情をしていたが、私もまさに同じ気分だった。冒険者は命に関わる職業だとお父さんが言っていたことを、今更ながらに思い出す。


(ライトは助からなかった。でも私は助けられた)


 そう考えると、私がやろうとしていることを誰かが後押ししてくれてるような気がした。


(早く強くならないと)


 あの圧倒的な強さを見せつけた水色ローブの人物に憧れを抱きながらも、自分は自分なりの強さを手に入れることを改めて心に誓うのだった。

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