第30話 魔族暗躍!? ⚪︎

 ザムスは一足飛びで間合いを詰めると、手にしていた漆黒の槍の切っ先を僕の心臓めがけて突き刺してきた。


 シュ!


 右肩を引く最低限の動きでその槍を躱す。勢い余って横を通り過ぎるザムスの首元を手刀で狙うが、ザムスは無理矢理地面を転がることでそれを躱した。


「き、貴様! 魔道士ではないのか? なぜこの槍を躱せる!?」


 無様に地面を転がされたことが許せなかったのだろう、立ち上がったザムスはさらに怒りを増したようで、額で青筋がぴくぴく動いている。


「いや、そんなこと言われましても、心臓を狙われたらそりゃ躱すでしょ」


 確かに、魔族は人間より身体能力に優れている。さらにザムスはレベルが75とかなり高い。人間ではレベル100に到達しても、この域までたどり着けるかわからないくらいだ。


【はっ! こいつなんか偉そうなこと言ってるが結構ビビってんじゃねぇのか?】


 言われてみれば、恐怖を怒りで誤魔化しているような雰囲気も感じられる。


「そういうことを聞いたのではないのだが……ええい! ならば魔法で……暗黒の霧よ、その者に永遠とわの戒めを暗黒の霧ダークミスト!」


 闇魔法、暗黒の霧ダークミスト。クラスによって、様々な状態異常を引き起こす魔法だ。Cクラスで毒状態に、Bクラスで睡眠状態に、Aクラスで石化状態に、Sクラスでは呪い状態にすることができる。状態異常を引き起こす闇魔法は、魔法防御マナディフェンスでは防ぐことができず、結界魔法Bクラス精神防御マインドディフェンスを使えないと自分を守ることができないのだ。


 さらに言うと、AクラスやSクラスの闇魔法を防ぐには、結界術も同クラスまで上げなければならない。また、自身の魔法防御力も重要で、相手の魔法攻撃力を上回っていないと完全に防ぐことはできない。


精神防御マインドディフェンス!」


 しかし、僕の結界術はSクラス。いや、先ほどの三百体の魔物のおかげでSSクラスに上がっている。魔法防御力もザムスの魔法攻撃力より高いので、Aクラスの闇魔法も易々と防いでしまった。


「な、なぜだ!! 貴様は魔族の私よりステータスが高く、結界術もAクラス以上だというのか!?」


「なぜでしょう? 気合いがはいっているからですかね?」


「そんな訳あるか!」


 最早、ザムスに僕を倒す手段はない。ならば、後は僕がザムスを倒すのみ!


【ライト。魔族は光属性の攻撃に弱いはずだ】


 レイのアドバイスに従って、僕は光魔法を放つ。


光の雨ライトニングレイン!」


 光魔法Sクラス、光の雨ライトニングレイン。空から光の矢が無数に降り注ぎ、触れた者を蒸発&浄化させる回避不能な圧倒的広範囲魔法。


「バカな!? ここにきてさらに光魔法だと!? 主よ、こいつはまずいです! 我らの計画に支障を来す存在です! ウギャァァァァ!!」


 無数の光りに身体を貫かれ、その身を滅ぼした魔族ザムス・F・デラクール。その目的はわからなかったが、何やら任務とか計画とか主とか、かなり不穏な言葉を残していったよ。一応、ギルドに報告とかしておいた方がいいのかもしれない。


【よし、ギルドに戻って可愛い受付嬢に報告だ!】


(……)




▽▽▽




「いやー、マジ助かったよ! ありがとう、どこの誰だか知らないがあんたすげえな! 結界張ってくれたのも、とんでもない攻撃魔法で魔物を殲滅してくれたのもあんたなんだろう!? どうなってんだ? って子どもかよ!?」


 ビスターナの街に戻った僕は、その場で後処理をしていたクロムさんにお礼を言われてしまった。でも、よかった。この感じだと、あの時森の一部を焼失させたのが僕がだってことには気がついていないみたいだね。


「初めまして。ランドベリーで冒険者をしているライトです」


「おいそこの坊主! お主があれをやったのか? もしそうならば、お主は一ヶ月ほど前、近くの森で巨大なニンブルウルフを倒さんかったじゃろか?」


 僕がクロムさんに自己紹介をしていると、ハワードさんも近寄ってきて会話に参加してきた。しかも、このおじいさん、僕が森を焼失させた犯人だと疑っているようだ。このままではまずいので、誤魔化さなければ!


「な、なんのことでしょうか? 僕はずっとビスターナで活動していますよ」


「ふむ、じゃとしたら違ったか。あれだけの魔法を使えるなら、てっきりお主じゃと思ったんだがな」


 ちょっと動揺しちゃったけど、何とか誤魔化せたようだ。


 その後、ギルドに向かうがてら、三人で街の被害状況を確認して回った。


 けが人は少なからずいたが、幸いにも死者は出なかったようだ。街にも被害がなかったようで、とんでもないことになっているのは街の周辺だけである。


「しかし、とんでもない光景じゃな。こりゃあ、あの有名な観光地、『星降る大地』のようじゃな……。むしろ、あそこよりもひどいかもしれないがな」


 門の前を通りかかったところで、街の外を見たハワードさんが呟く。


「星降る大地?」


 僕が首をかしげて聞き返すと、ハワードさん説明してくれた。


『星降る大地』とは、今から千年ほど前、それこそ反逆戦争よりもさらに前にできたと言われている。そこは、巨大なクレーターのような跡が十数個密集してできている、むき出しの大地のことだ。

 森の奥深くにもかかわらず、千年経った今でも草木一本生えていない。一説によると、ひとりの魔道士の魔法でそうなったと言われているらしいのだが……


【まさか、あそこがまだあのままとは……】


(ん? レイ、どうかしたの?)


【えっ? いや、何でもないぞ! あはははは!】


 星降る大地の話を聞いたときから、なぜかレイの動揺が伝わってきた。本人が何でもないと言っているから、これ以上聞くつもりはないけど。


「どうしたんだ? 急に動きを止めて」


「あ、クロムさん何でもありません!」


 レイとの会話中は動きが止まっていたので、クロムさんが心配してくれたようだ。




 あの後、魔物の残党がいないか一通り街を見て回り、ギルドの前まで来たところで遠くからひとりの女性が駆け寄ってくるのが見えた。その服装、走り方からかなりの上流階級の人だと思われる。


「クロム、ハワード、ケガはないですか?」


「お嬢様!? 逃げてなかったのですか?」


「ここは私達の街です。街の人達をおいて逃げること何てできません!」


 駆け寄ってきた女性はあの時、クロムさんとハワードさんと一緒にいた、お嬢様と呼ばれる人だった。


【うひょー! もう会えないかと思ってたけど、こんなところでまた会えるとは! これって運命じゃね!?】


 先ほどまでの動揺はどこへ行ったのか、美人を見た途端に元気になって騒ぎ出すアホ賢者。


 しかし、この街を私達の街と言い切っちゃうこの人は、もしかして領主の娘さんとかなのか?


 クロムさんとハワードさんの無事を確認したお嬢様が、ふと僕の方を見つめ話しかけてきた。


「初めまして、私の名前はメアリー。この街の領主の娘です。今、ハワードから話を聞きました。あなたがこの街を守ってくれたのですね。街を……街の人達を守ってくれてありがとう」


 そう言って頭を下げるメアリーさん。ハワードさんとクロムさんは驚いて止めようとしていたけど、それを制して素直に感謝の気持ちを述べてくれた。領主の娘なんて偉そうな人が多いのかと思ったけど、一介の冒険者に頭を下げてくれる、心の優しい人もいるんだと思った。


【おいおい、見た目だけじゃなくて心も綺麗だぞこのお嬢ちゃん。もう、ライトにぴったりじゃねぇか!?】


 最早、言ってることが親戚のおばさんみたいになってきている脳内賢者は放っておいて、こっちも自己紹介しなくては。


「初めまして、ランドベリーで冒険者をしているライトです。今回は、その、たまたま運良く街を守ることができました!」


 正直に言うのが恥ずかしくて、ちょっと変な言い訳をしてしまった。


「うふふ、謙虚な方なのですね! でも本当にありがとうございます! あなたが来てくれなかったら、この街は滅ぼされていましたわ」


 僕の手を握りしめて、とびっきりの笑顔でお礼を言ってくれるメアリーさん。


(女の人に手を握られたことなんて、お母さん以外に経験がないから緊張しちゃう……)


【おふ……手が温かい……これはもう……結婚だな……】


 結婚のところはさておき、僕もお嬢様の手のぬくもりに癒やされていると、横から口を挟んでくる人物がいた。


「あー、メアリーお嬢さん。俺も結構頑張りましたよ……」


 なぜか物欲しそうな顔をして、両手をお嬢様の前に差し出すクロムさん。


「そう、ありがとうクロム。それで、ライトさんはなぜこの街に?」


 そんなクロムさんを一瞥することもなく、僕との会話を続けるメアリーさん。クロムさんが差し出した手のやり場に困りながら、とっても寂しそうな顔をしている。


【ふっ。このお嬢さんはお前より俺を選んだようだな!】


 自分の姿が見えないことに気がついていない、お間抜け賢者の戯言は放っておくとして、僕はメアリーさんの質問に答えるべく口を開く。


「あの、ランドベリーのギルドにいたらこの街が魔物に襲われているって聞いて、それで急いでやって来ました」


「なぬ!? クロムが応援を頼んでから来たというのか? 馬車で三日はかかる距離じゃぞ!? それをたった数分で着いたというのか!? どうなっておるのじゃー!!」


 ハワードさんがあまりに大きな叫び声を上げているので、周りの兵士や街の人達が遠巻きにこちらを見ている。当の、ハワードさんは大声の出し過ぎで咳き込んでいるし……


「えーと、そこは……気合いですかね?」


「まあ、ライトさんが気合いを入れると何でもできるのですね!」


 痛い。メアリーお嬢さんの熱い視線が痛い……


「……クソ。なんで初対面のこいつばっかり……」


 こっちの槍使いさんは完全にいじけてしまって、話を聞く気もなさそうだ……


 何はともあれ、無事ビスターナを守ることができてよかった。この後僕は、ギルドに報告することがあると言って三人と別れた。


 お嬢様と脳内賢者が名残惜しそうにしていたが、僕はあんまり目立ちたくないのでさっさとギルド内へ入ろうしたときにふと思った。


(これだけ大きなできごとだから、大きいギルドに報告した方がいいのかな? ここのギルドはまだ忙しそうだし、どうせ転移で戻るんだからビスターナで報告することにしよう)


【おい! 美人の受付嬢はどうするんだよ!】


 僕の思いつきに脳内賢者は大反対しているが、その反対理由は大したことじゃないのでさっさと戻ることにした。 


 戻るついでにステータスを確認してみると、低ランクながら三百体の魔物を倒したのと、レベル75の魔族を倒したおかげで、僕のレベルは大幅に上がり、結界術もSSランクに到達していたのだった。



名前 :ライト

性別 :男  

種族 :人族

レベル:40(60)

ジョブ:結界師

クラス:B(SS)  

職業 :冒険者


体力 :190(1315)

魔力 :300(2849)

攻撃力:120(1312)

防御力:120(1311)

魔法攻撃力:200(3628)

魔法防御力:290(3531)

敏捷 :135(1320)

運 :305


(オリジナルギフト:スキルメモリー)


ユニークスキル 

効果持続 Lv30

(無詠唱・並列思考・消費魔力減少・魔力回復速度上昇

攻撃力上昇(中)・防御力上昇(中)・魔力上昇(小)

魔法攻撃力上昇(中)・魔法防御力上昇(中)

敏捷上昇(中)・鑑定 Lv21・探知 Lv22・隠蔽 Lv12

思考加速 Lv24・集中・獲得経験値倍化・経験値共有

アイテム効果アップ)


ラーニングスキル 

結界術SS Lv30

(炎魔法SS Lv30・風魔法SS Lv30・土魔法SS Lv30・雷魔法SS Lv30

水(氷)魔法SS Lv30・闇魔法SS Lv30・光魔法SS Lv30・聖魔法SS Lv30

重力魔法SS Lv30・時魔法SS Lv30・空間魔法SS Lv30・錬金術SS Lv30

剣技D Lv1・槍術D Lv1・斧術D Lv1・弓術D Lv1・拳術D Lv1・盾術D Lv1

暗技D Lv1・短剣術D Lv1・強化魔法D Lv1・加工D Lv1・採集D Lv6

算術D Lv11・裁縫D Lv1・農耕D Lv1・採掘D Lv1)

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