第28話 閑話 ミアの修行
~side ミア~
ライトが死んでしまった。
冒険者になると言って、街を飛び出した幼なじみの少年を追って隣町まで行った私が聞かされたのは、残酷な結果だった。
たった十三歳の新米冒険者を囮にして、逃げ出してきたパーティーがいる。その話を冒険者ギルドで聞いた時、私は耐えがたい悲しみに襲われた。次の日、涙を流し尽くした私が感じたのは、その悲しみ以上の怒りだった。
「絶対に敵を討ってやる……」
これはもう決定事項だ。だけど、私にはその力がない。だらか私も冒険者になって強くなる。そして、どれだけ時間がかかっても敵を討ってやるんだ。
ライトを見殺しにした冒険者の名前はわかっている。シリル、リビー、グレースこの名前はヤツらがこの世からいなくなるまで、決して忘れない。
私は神殿に赴き、"剣士"になった。最終的には"
神殿から帰ったその足で馬車に乗り、ホロの村へと帰った。
▽▽▽
三日間かけて村に帰ってきた私は、村に着いたのが夕方だったので、すぐにライトのお母さんの元へと向かった。このつらい結果を報告するために。
「ライトのお母さん……」
仕事を終えて店を出たところのシンディさんに声をかける。それだけで涙が出そうになった。
「あら、ミアちゃん!? どうしたのこんなところで? ずいぶん疲れてるようにみえるけど」
ビスターナから戻ったそのままの格好だったので、顔も身なりもひどいことになってたと思う。
「あの、シンディさん。ライトのことでお話ししたいことが……」
「えっ? ライトのことで話? ミアちゃんまさかライトのことを追いかけていったのかい?」
もちろんライトが死んだなんて知らないシンディさんは、今も冒険者として頑張っているであろう息子に期待している様子がありありと浮かんでいた。
(言えない……。ライトが死んだと知ったら、シンディさんは絶対に生きていけない。知らなければ……知らなければこの先も幸せに暮らしていけるはず)
「いえ、実は私も冒険者になってライトと一緒にパーティーを組みたいなって思って、隣町で剣士になってきたんですよ」
思わず作り笑顔でそんな嘘をついてしまった。
「あらやだ! ミアちゃんまで冒険者にならなくていいのに。でもミアちゃんならしっかり者だから、ライトと一緒にパーティーを組んでくれたら安心だわ!」
シンディさんの笑顔に、胸が締め付けられる。でも、この嘘は一生突き通さなきゃならない。
「まずはこの村で少しレベルを上げて、それからどこかで本格的に冒険者として活動します」
「そうなのね。でも、十三歳の女の子が冒険者だなんて、お父さんとお母さんは許してくれたの?」
心配そうなシンディさんの言葉に、でも私の決意は揺らがなかった。
「大丈夫だと思います。父は私を冒険者にしたがっていましたから」
「そう、もしライト会えたらお母さんは元気にやってるって伝えてね!」
「はい、必ず伝えますね」
それだけ言うと、シンディさんにさようならを言ってすぐその場を後にした。もう涙が我慢できなかったから。
家に戻った私は、お父さんとお母さんにライトが冒険者になったことを伝え、私も冒険者になると言った。ライトの死については、この狭い村ならすぐにシンディさんの耳に入ると思ったから言わなかった。
もちろん最初は早すぎると反対されたけど、元々私を冒険者にしたかったお父さんは、この村でレベルを10まで上げることを条件に許してくれた。
それから私は学校に通いながら、帰ってきたら剣の練習をする毎日を過ごした。一週間に二日はお父さんに稽古をつけてもらい、それ以外は自分でトレーニングした。
最初はつらかったけど、ライトの無念を思えば何とでもなった。そんな生活を二週間ほど続けると、お父さんから魔物を狩る許可をもらえるほど鍛えられていた。
そこからレベル10になるまではさらに2週間ほどかかったが、あれから一ヶ月、ようやく冒険者として独り立ちする許可を得た。二週間でレベルを10上げたことについては、お父さんは素直に驚いていた。
「じゃあ、行ってきます!」
冒険者になった本当の理由は言えないし、これから私がすることは決して許してもらえないと思うけど、これだけは絶対に成し遂げなければならない。一ヶ月前に誓った敵討ちは、一切色あせることなく私の心に残っている。
見た目は笑顔で、心の中はドス暗いもやもやを抱えて私は再びホロの村を後にした。
▽▽▽
ホロの村を出発して三日後、馬車から降りた私はすぐにビスターナの冒険者ギルドへと向かった。いくら私がレベル10になったからとはいえ、すぐにあいつらを追いかけることができるわけではない。当然、この一ヶ月で向こうだってレベルを上げているだろうし、何よりあいつらがどこにいるのか情報を集めなければならい。
それから、私自身のレベルアップだ。ここで色々なパーティーに参加し情報を集めながら、あいつらより速いスピードでレベルを上げなければ、復習なんて夢のまた夢に終わってしまう。
そのためにも、積極的にギルドランクを上げて少しでもレベルの高いパーティーに所属しなくては。
カラン、コロン
私の今の心とは正反対に、軽やかな音が鳴り響く。
「いらっしゃいませ! 冒険者登録をご希望ですか?」
受付嬢のお姉さんが、すぐに私に声をかけてくれた。見た目から、冒険者登録を希望している新人と間違われてしまったけど。
「いえ、冒険者登録はもう済ませています。今日からこの街でしばらくレベル上げと、ランク上げをするつもりです。私の名前はミア、これからよろしくお願いします」
しばらくこの街を拠点にするつもりだから、受付のお姉さんに自己紹介をしておく。第一印象がよければ、色々お得な情報を教えてもらえるかもしれないか。
「あら、随分若い冒険者さんだこと。こちらこそよろしくね!」
受付のお姉さんからメンバーカードをもらい、掲示板の右下に貼り付ける。これを見た誰かが、私をパーティーに誘ってくれるといいんだけど。
私は待ち時間を利用し、ポーションを数個購入し、武器や防具を眺めて時間を潰した。
今ある武器と鎧はホロの村でお父さんのつてで用意してもらったものだ。一ヶ月使って身体に馴染んできてはいるものの、もともとそれほど性能がいいものではないので、ここでお金を貯めてよりいい武器や防具を揃えることも、復讐という目的を早く達成するために、必要不可欠な要素なのだ。
しばらく武器を眺めていると、私のギルドカードが淡く光った。誰かが私のメンバーカードを受付に持っていってくれたらしい。すぐに受付に戻ると、若い女性がリーダーをしている女性だけの4人組のパーティーを紹介してもらった。
彼女たちは最近パーティーを結成したばかりのFランク冒険者で、これから近くの森でクエストをこなしながらレベル上げをするそうだ。
とりあえず一緒に行ってみて、よかったらこのままパーティーの固定メンバーにならないかと誘ってくれた。固定パーティーに所属すれば、安定して狩りに出かけることができるのでその条件で同行させてもらうことにする。ただ、ここである程度レベルを上げたら、ある目的のためにパーティーを抜けなければならないことをリーダーに了承してもらった。
「それじゃあ、早速行きましょう!」
「「「はい!」」」
明るいリーダーの雰囲気そのままのパーティーと一緒に、初めて同レベルの仲間達とのレベル上げに参加するのだった。
▽▽▽
「おつかれさまー!!」
「「「お疲れ様です!」」」
お昼を挟んで半日ほど森でレベル上げをした私達は、クエストを二つこなしレベルをひとつあげて帰ってきた。私もレベルが1つ上がり11になっている。初パーティーにしてはいい感じで戦闘に貢献できたので、しばらくは一緒にレベル上げをすることになった。
今日の報酬で三日分の宿代と食事を稼ぐことができたので、パーティーのみんなとギルドで夕食を取って今は宿に戻ってきている。そして湯浴みをしてベッドに横になった私は、今日の戦いぶりや稼ぎを参考に今後の計画を立てていた。
(効率はよくないけど、危険は少ないわね。まずはこのパーティーでしばらくレベル上げをして、レベル20になったらもう一度計画を立て直さないとね)
ある程度の計画を立てて満足した私は、もう一度復讐する相手の名前を呪文のように繰り返し唱えながら、浅い眠りにつくのだった。次の日、とんでもない出来事に襲われるなんて夢にも思わずに。
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