第26話 ダンジョンひとり旅 ⚪︎

 ギルドへと戻った僕達は、地下迷宮ダンジョンで得た素材やお宝を換金し、十一層から二十層までの道のりと、フロアマスターについての情報をギルドへと提供した。かなりの稼ぎになったので、僕も大金貨二十枚ほど分けてもらえた。

 地下迷宮ダンジョンに籠もっていたのが十日くらいだから、一日辺り大金貨二枚と考えると、地下迷宮ダンジョンってかなり儲かるんだな。


 でもちょっと思ってしまったことがある……


(これ、やっぱり一人の方が楽だし、稼げていいかも……)


 確かにパーティーは寂しくなくていいんだけど、自分を偽りながらだとちょっと疲れてしまう。それに、戦闘に関しても一人の方がよっぽど楽な気がした。

 ということで、今回は二十層到達祝賀会をキャンセルして、ちょっと休んだらまた地下迷宮ダンジョンに潜ってみようと思う。


【俺はお前の苦労がさっぱりわからんから言わしてもらう……今度は美人の女の子だけのパーティーに入れ!】


 人見知りで内気な僕に、何という無理難題を押しつけるんだこの脳内賢者は……


 僕が祝賀会をキャンセルすると、メグさんはあからさまにがっかりしたけど、男性陣はなぜかホッとしたような表情を見せていた。


 そして宿に戻り、夕食を食べて十日ぶりに汗を流して、布団へと潜り込んだ。『僕が眠っているときには、レイの意識はあるのかな?』なんて考えている内に、僕はいつの間にか眠ってしまっていた。




▽▽▽




 次の日朝早く支度を終えた僕は、一人未完成の迷宮ラビリンスの二十層へと転移した。


「さてと、ジャングルの次は何かな?」


【せめてメグたんを誘ってくれれば俺のやる気も出たのに……】


 僕の独り言に反応し、ぶつぶつ文句を言っているレイ。そんなレイの文句を聞きながら二十一層へと降りていくと、目の前に現れたのは辺り一面の砂とゆらゆらと揺れる蜃気楼。


「この階層は砂漠か……。これはある意味迷路よりもつらいかも……。しかし、地下迷宮ダンジョンってどうなってるんだろう。こんな地形を作れるなんて」


 森林や砂漠が地下迷宮ダンジョン内にあることにまず驚いた。ここなんか、上を見れば太陽らしきものまで再現されている。ただ、蜃気楼で遠くはよく見えないし、三百六十度似たような景色だから、下に降りる階段を見つけるのはつらそうだ。


【俺が読んだ本によると、地下迷宮ダンジョンは生きているらしいぞ。その仕組みまではわかっていないが、自分を成長させるために色々な仕掛けを作っているという話だ。宝箱があったり、魔物が住み着いていたりするのは、人間をおびき寄せてその魔力を吸収するためなのかもしれないな】


 何だか物騒な話を聞いていしまった。だけど妙に説得力のある話だったので、僕は自分がここで死んで、地下迷宮ダンジョンに吸収されてしまう姿を想像して、思わず身震いしてしまった。


 ちょっと弱気になってしまったが、ここにずっととどまっているわけにはいかないので、とりあえず重力魔法と風魔法を併用して真上に向かって飛んでみる。


 空から見ると多少蜃気楼が薄れて見えたので、探知の結果からここから一番遠いところにいる魔物の方に向かってみることにした。


 基本空を飛んでいき、魔物を見かけたらレベル上げも兼ねて魔法で倒して行くことにする。ここではサソリ型の魔物や蛇型の魔物が多く見受けられた。


 つい今しがたも、砂の上を歩いていた2本の尾を持つ、ツインテールスコーピオンを空から氷魔法の一撃で倒したところだ。


 確か、あの尾は討伐クエストの素材になっていたはずだから、ちゃんと持って帰ろう。今回は魔法の袋マジックバッグがあるので、素材も多めに持てそうだし。


 この階層はLv40以上の魔物が多い上に、ひとりだから人目を気にせず遠慮なく狩ることができるので、レベルがどんどん上がっていく。


 最初に探知した魔物を倒し、そこからまた一番遠いところにいる魔物を目指すといった方法で進んで行くと、程なくして下へと降りる階段を見つけることができた。


 階段を降りた先の二十二層もまた砂漠で、結局、どの階層も攻略するのに四時間ほどかかった。つまり、夜まで頑張って四階層進んだ計算になる。この調子なら、明後日には三十層まで到達できそうだ。


 やはり空を飛んで探索できるのが時間短縮に繋がっているのだろうが、如何せん変わらない景色の中を丸一日飛び続けるのはかなり疲れる。


 肉体的にと言うより精神的に。効率を考えてソロで挑戦したけど、話し相手になってくれるレイがいなかったら早々に脱落していたかもしれない。


 こんなところでパーティーのありがたみを感じた僕でした。


 そして、次の日もその次の日も、似たような景色を眺めながら空を飛ぶ。時折魔法で敵を倒しながら、二日かけて残り六階層を攻略し、何とか三十層へと到達した。




▽▽▽




「さてと、少しレベルとステータスを確認しておこうか」


 二十一層からスタートして二十九層まで、だいたい二層毎に魔物のレベルが上がっているような感じがした。二十一階層ではLv40の魔物が多かったのだが、二十九階層ではその平均レベルが44まで上がっている。そして僕のレベルはというと、29階層の平均レベルと同じ44まで上がっていた。



名前 :ライト

性別 :男  

種族 :人族

レベル:30(44)

ジョブ:結界師

クラス:B(A)  

職業 :冒険者


体力 :155(955)

魔力 :255(2433)

攻撃力:85(952)

防御力:85(951)

魔法攻撃力:130(3148)

魔法防御力:220(3051)

敏捷 :95(960)

運 :185


(オリジナルギフト:スキルメモリー)


ユニークスキル 

効果持続 Lv20

(無詠唱・並列思考・消費魔力減少・魔力回復速度上昇

攻撃力上昇(中)・防御力上昇(中)・魔力上昇(小)

魔法攻撃力上昇(中)・魔法防御力上昇(中)

敏捷上昇(中)・鑑定 Lv15・探知 Lv18・隠蔽 Lv10

思考加速 Lv19・集中・獲得経験値倍化・経験値共有

アイテム効果アップ)


ラーニングスキル 

結界術A Lv20

(炎魔法SS Lv30・風魔法SS Lv30・土魔法SS Lv30・雷魔法SS Lv30

水(氷)魔法SS Lv30・闇魔法SS Lv30・光魔法SS Lv30・聖魔法SS Lv30

重力魔法SS Lv30・時魔法SS Lv30・空間魔法SS Lv30・錬金術SS Lv30

剣技D Lv1・槍術D Lv1・斧術D Lv1・弓術D Lv1・拳術D Lv1・盾術D Lv1

暗技D Lv1・短剣術D Lv1・強化魔法D Lv1・加工D Lv1・採集D Lv5

算術D Lv7・裁縫D Lv1・農耕D Lv1・採掘D Lv1)


【おいおい、レベルが40を超えちまったな。確か、料理人になるには40でよかったんじゃねぇのか?】


 確かにレイの言う通り、レベル上げの目的は料理人のジョブチェンジに必要な40までだったんだけど、ここまで来たらボスを倒して最下層まで行ってみたいという気になっていた。


(まあ、ぴったり40じゃなくてもジョブチェンジはできるし、ここまで来たら最下層を目指してみるよ!)


【最下層が何階層までなのか知らないが、三日も美人を見てないとつらくなってきたぞ。さっさと攻略して戻ろうや】


 僕の決意とやる気を削ぐことにかけては、天才的だなこの賢者は。




「どれどれ、三十層のフロアマスターはどんな魔物かな?」


 レイに削がれたやる気を取り戻すために、僕は大きな扉を開き広場へと入っていった。上の階と同じような砂漠の真ん中に、体長八メートルはあろうかという、真っ赤な鱗の大蛇がとぐろを巻いていた。しかも、五体も。


 そのフロアマスターのステータスをチェックすると――


[フレイムバイパー:Lv50:体力764:魔力548:攻撃力701:防御力654:魔法攻撃力541:魔法防御力548:敏捷― スキル―]


 これは中々の強さだ。ブライアンさん達がレベル50になっても、このステータスには遙かに及ばないだろう。やはり素のステータスは魔物の方が上なのか。まあ、その分、人間は武器や防具で補うんだろうけど。


 もしくは、もっとステータス補正が高いジョブに就けば対抗できるようになるのだろうか? それにしたって、そんな上位のジョブに就くにはレベルを上げなければならないわけで……


【自分のステータスを棚に上げて何をいってるんだか……】


 レイの言う通り、ステータスの数値は僕の方が高いんだけど、いまいち実感がないから自分が強いとは思えないんだよね。


 ステータスをチェックしたところで改めてフレイムバイパーと向かい合う。どうやらこの三十層は、この魔物を五体同時に相手しなければならないようだ。


(やっぱりひとりで来て良かったかも。五体だとフォローが大変だし……)


 五体の魔物を相手にするのは結構大変なことに思えるが、魔法を使える僕にとっては意外と楽なんだよね。

 何せ、同じ魔物が五体ということは、弱点が一緒だから弱点属性の範囲魔法で一網打尽なのさ。

 名前からして炎属性の魔物だろうし、ここは一発水属性の強めの魔法を試してみるか。


【それなら水魔法SSクラスの大津波ダイタルウェーブなんてどうだ? 一度、SSクラスの魔法も見ておいた方がいいだろう。ここなら周りへの被害も抑えられそうだしな】


(そ、そうなのかな? ちょっと前までAクラスが最高だと思ってたんだけど、SSクラスなんて使って大丈夫かな?)


【まあ、大丈夫だろ。ただ水の量が多いだけだし】


 話を聞くと、それほど強い魔法じゃないみたいだから、レイを信じて使ってみることにした。


「よし、じゃあ使ってみるよ。大津波ダイタルウェーブ!」


 水属性のSSクラス大津波ダイタルウェーブ。全てを飲み込む荒れ狂う大津波。部屋に入ったばかりで、魔物がまだ戦闘態勢に入る前に放った大規模魔法。


 おそらくこの五体の大蛇は、初めて見る大津波に、何が起こったのかもわからずに絶命しただろう。っていうか、かなり大きいこの部屋が一瞬水で満たされたからね。僕も溺れるかと思った。


 レイはただの水って言ってたけど、大量の荒れ狂う水ってこんなにもヤバイものだと初めて知りました……




 しばらくして、水が引いた部屋に残された全長八メートルほどの五体のヘビを解体し、牙や皮の丈夫そうなところを魔法の袋マジックバッグに詰め込んで、奥の部屋へと移動する。


 そこには緑色に光る魔方陣と転移石が置いてあった。


「うーん、まだ余裕があるから魔力の登録だけしておいて、次に進もうか」


【美人美人美人美人美人……】


 若干壊れかけの賢者を無視して、さっさと魔力を登録し、次の階層へと進む。


 そして、三十一層に降り立った僕を待ち受けていたのは、最初の階層と同じ無機質な壁に囲まれた迷路だった。


「最初に戻ったみたいだなぁ」


 そんなことを考えながら歩いていると、すぐに魔物と遭遇した。もちろん、最初と同じような低レベルの魔物のはずもなく……


[ミスリルゴーレム:Lv45:体力731:魔力490:攻撃力633:防御力745:魔法攻撃力390:魔法防御力507:敏捷― スキル―]


 身体全体がミスリルでできた魔法生命体。硬い身体は物理攻撃に強いが、魔法には若干弱いようだ。弱点属性をつければ上手く倒せそうだけど……


【ゴーレム系は鉱物でできている場合が多いからな。おそらくヤツら土属性で、弱点は風属性だろう】


 さすがは古代賢者。この辺りのアドバイスはとても頼りになる。さっきまでは壊れかけだったけど。


大気の振動エアバイブレイション!」


 風魔法Aクラスの大気の振動エアバイブレイション。大気を細かく振動させ、その衝撃波をぶつける魔法だ。この魔法をまともに受けたミスリルゴーレムは、僕に近づくことすら許されず砕け散った。上手いこと弱点をつけたようでよかった。


【お前の魔力なら弱点も何も関係ない気もするがな……】


 ん? レイの呟きはよく聞き取れなかったけど、きっと油断するなってことだよね。


 僕は砕け散ったミスリルゴーレムの破片で、比較的大きめのものを魔法の袋マジックバッグに入れて先へと進む。


 三十一層から三十九層までは地道に歩いて攻略したので、かなり時間がかかってしまった。魔法の袋マジックバッグのおかげで、食料をたくさん持ってくることができたからよかったが、これがなかったら食料的に厳しかったかもしれない。


 一層攻略するのに大体一日間かかり、四十層のフロアマスターの部屋に来るまでには九日間もかかってしまった。


 ただ、その分レベルも上がったし結界術ももうすぐSSクラスに上がるというところまできていた。


 そして、四十階層のフロアマスターは……

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