第25話 20階層攻略!

「さて、あなたに聞きたいことがたくさんあるけど、聞いていいのかどうかわかならい」


 ゴールドリオンを倒し、威圧も解け、一息ついたところでメグさんがそう切り出してきた。


「できれば聞かない方向でお願いします」


 わからないと言うことなので、本音をぶつけてみる。


「そう、それはわかるけど。このままじゃ眠れない」


【よし、眠れないなら俺が相手をしてやろう!】


(頼むから、できもしないのに毎回いやらしい方向で反応するのはやめてほしい……)


【むむ。お前がヘタレだから、どういうときに、どういうセリフを言えばいいのか教えてやってるんだぞ! 俺はお前と五感を共有してるんだから、俺だって頑張る権利があるはずだ!】


 とんでもない理屈をこね回してくる勘違い賢者はおいておくとして、改めてメグさんの顔を見る。


 メグさんも以前食事をしたときに約束したから、余計な詮索はしたくはないのだろうが、このままスルーするにはあまりに大きすぎる疑問なのだろう。その苦しそうな顔に、僕の心もちょっと揺れ動いてしまった。


「それでは、何か一つだけ質問にお答えします」


 これが、僕ができる精一杯の譲歩だと思って言ってみた。


「ありがとう。それじゃ、お言葉に甘えて……あなた、彼女いるの?」


「えっ?」

「えっ?」

「えっ?」

「えっ?」

【おっ!】


 僕を含めた男四人の素っ頓狂な声が響き渡った。若干一名、脳内賢者は期待に満ちた声を上げていたが……


「一つ質問していいと言われたから、今一番聞きたいとを聞いた。何か問題ある?」


 全くもって予想外もいいとこの質問だが、当のメグさんはいたって真剣な顔をしている。一方、残りの三人は絶望的な顔で、そんなメグさんを見つめている。


「あ、あの。他のこととか聞かなくていいんですか?」


「それを聞かなくても、夜は眠れる。むしろ、こっちの質問が大事」


 メグさんは僕が思っていたより、真っ直ぐ一直線な人だった。


【ゴクリ】


 脳内に響き渡る生唾を飲み込む音。何でもない時は調子がいい脳内賢者は、本当にそういう場面が来た時には途端にへたれ賢者になるらしい。


「メ、メグ……ライト君はまだ十三歳のはずじゃ……」


「うるさい。口を挟まないで。私だってまだ二十歳。私が百二十歳の時、彼は百十三歳。全く問題ない」


 ブライアンさんの絞り出すような抗議の声は、わかるようなよくわからないような理屈で切って捨てられる。


「あの、答える意味があるかどうかはわかりませんが、約束でしたので一応お答えします。その、かの…じょ? は、いません」


 彼女どころか、友達すらいない僕だから……


「そう。よかった。これで今夜も眠れそう」


 何がよかったのかわからないが、満足そうなメグさんの顔を見るとそれ以上何も言えなくなってしまった。


【お、俺が寝かせなぃぞぉ!】


 ヘタレ賢者は無理に絞り出したせいか、声が裏返ってしまっている。まあ、メグさんには聞こえてないけど。


 メグさんの質問は突拍子のないものだったが、おかげで他のことを追求されずに済んだ。ただ、男性陣からの視線が痛い……


 その後はとりあえず、戦利品の確認となった。結構いい報酬が出ていたけど、ご機嫌のメグさん以外は暗い顔をしていたのが何だか申し訳ない。


【ライトが悪いわけではないが……モテる男はつらいって本に書いてあったのはこういうことだったのか】


 何やら今の状況を分析している人がいるが、放っておこう。


 ゴールドリオンを倒したときに出た宝箱からは、大金貨や宝石に加えて、古びた革の袋が出てきたので、僕はその古びた革の袋を戦利品としていただくことにした。


 みんなもっと価値のあるものを持って行けと言ってくれたんだけど、実はこれ、小さいながら魔法の袋マジックバッグなんだよね。誰も気がついていないようだったけど、僕は鑑定してわかっちゃいました。

 いずれ自分で作りたいと思っていたんだけど、それまでのつなぎに丁度いい。これがあれば、旅が随分楽になると思うんだよね。思わぬところで、いいものが手に入りました。


 それから、相変わらず機嫌がよさそうなメグさんを先頭に、奥の小部屋へと入っていく。


「これが二十層の転移石か!」


 落ち込んでいたブライアンさんも、二十層の転移石を見た途端、元気を取り戻したようだ。残りの二人も、同じように輝く瞳で転移石を見つめている。


「これで俺達も有名になるな!」


 二十層を攻略したとなると、ティーダさんの言葉通りに龍の爪ドラゴンクロウは一躍、時の人になるだろう。二十層を突破したパーティーはそれほど多くないようだし、フロアマスターを含め、その情報だけでもほしがる人は少なくないはずだ。

 それに加え、道中で手に入れた数々のお宝、何より今後二十層からスタートできるというアドバンテージは、特に地下迷宮ダンジョンの奥でしか手に入れることができない素材集めなどで、大いに役立つことになるだろう。

 もっとも、今の龍の爪ドラゴンクロウのみなさんが、二十一層以降の魔物を倒せるかどうかは微妙そうだけど。まあ、それにしたって大きなアドバンテージになるには違いない。


 二十層の小部屋は、十層のものとさほど変わらない造りをしていた。違うのは転移石と魔方陣が青白く光っているところだ。十層では白い光りだったけど、こちらはそれに青色が混じっている。


「では、早速戻ろうか!」


 十層の時と同じように、ブライアンさんが最初に戻るようだ。約十日ぶりに地上に戻れるので、ブライアンさんは早く戻りたくてしかたがないようだ。淡く光る球体に手を乗せ魔力を込めると、魔方陣が青白く光り輝き、ブライアンさんの姿が見えなくなった。

 続いて、ティーダさん、ジェフリーさんと同じように転移し、メグさんと二人きりになる。


「割と本気だから。真剣に考えてくれると嬉しい」


 そう言い残して、メグさんはさっさと転移してしまった。残された僕は……


【ライト! 男になるんだ!】


「い、いや、無理でしょ?」


 いくら何でも十三歳の僕にはまだ早いと思う今日この頃でした……


 


▽▽▽




 僕が最後に入り口に転移すると、すでにそこは騒がしくなっていた。ブライアンさん辺りが自慢しているのかと思ったが、そうではなかったようだ。

 僕は最後だから気がつかなかったが、どうやら二十層から転移すると、こちらの魔方陣も青白く光る仕組みのようなのだ。その光をたまたま見た冒険者が、二十層から転移してきたことに気がつき、騒ぎとなっていたのだ。


「おい、ブライアン!? お前達がどうやって二十層を攻略したんだよ? まだそんなレベルじゃないだろう?」


「いや、俺だってさっきの戦いで34になってるんだが……まあ、それはあれだ、チームワークの勝利だな!」


 背中にハルバードを担いだ大柄な男性が、ブライアンさんを捕まえて質問している。それに、曖昧に返すブライアンさん。


「34ならいけるか? いや、無理な気がするが……実際、魔方陣は青く光ってたしな。っで、フロアマスターはどうだった?」


「ああ、フロアマスターは……」


「ストップ! ブライアン、それ以上はダメだ! この情報だってお金になるからな。まずはギルド行って報告だ!」


 そこに待ったをかけたのが、龍の爪ドラゴンクロウの財布のひもを握っているティーダさんだ。龍の爪ドラゴンクロウのお金を管理しているティーダさんにとっては、情報だって稼ぐための手段になるのだろう。


 フロアマスターの情報を聞きそびれたハルバードの男は。『チッ』っと舌打ちしながら帰って行った。


「すまないティーダ。ちょっと浮かれていたようだ」


 ブライアンさんも素直に頭を下げる。


「なに、気にするな。それよりさっさとギルドに戻って、お宝を換金してこようぜ!」


 ティーダさんの言葉にみなが頷き、その場にいた冒険者達の尊敬やら嫉妬やら羨望やらの眼差しを受けながら、意気揚々と歩き出した。

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