第23話 決戦の前に

 十一層からスタートした地下迷宮ダンジョン攻略は、最初の戦いこそ大変だったが、その後は僕の結界を信用してくれたのか、『防御無視の捨て身戦法』に変えたようで、次々と格上の魔物を倒しながら進んでいった。


 ブライアンさんに至っては『クセになるぜ! この戦い方!』なんて言いながら、わざと相手の攻撃を受けてから、動きが止まったところに渾身の一撃を食らわせるといった戦い方を繰り返している。


【何か、どこかで見た戦い方だな……】


 レイの言うように、僕の脳裏に斧を持ったムキムキのおじさん達の姿がよぎる。


 あの時も思ったが、これがクセになって結界師がいない時に同じことをされると……さすがに大丈夫だよね?


 魔物を倒しながら一日一層のペースで進んでいき、九日目には十九層へと到達していた。


 階層は下に行くほど、造りが複雑になり魔物も強くなっていくのだが、それ以上のペースでレベルが上がっていったので、一日一層のペースを保てたのだ。


 竜の爪ドラゴンクロウのみなさんは、この九日間でレベルが8つ上がり、ブライアンさんは32、ティーダさんは30、メグさんとジェフリーさんは29になっている。白魔道士のジェフリーさん以外は、ゴブリンキングならソロでも倒せるくらいの強さだ。


 それぞれジョブクラスも上がっており、ブライアンさんはBクラスに、他のみんなはCクラスに到達している。


 そして、僕はというと……



名前 :ライト

性別 :男  

種族 :人族

レベル:30(36)

ジョブ:結界師

クラス:B(A)  

職業 :冒険者


体力 :155(775)

魔力 :255(2225)

攻撃力:85(772)

防御力:85(771)

魔法攻撃力:130(2908)

魔法防御力:220(2811)

敏捷 :95(780)

運 :185


(オリジナルギフト:スキルメモリー)


ユニークスキル 

効果持続 Lv11

(無詠唱・並列思考・消費魔力減少・魔力回復速度上昇

攻撃力上昇(中)・防御力上昇(中)・魔力上昇(小)

魔法攻撃力上昇(中)・魔法防御力上昇(中)

敏捷上昇(中)・鑑定 Lv11・探知 Lv13・隠蔽 Lv6

思考加速 Lv14・集中・獲得経験値倍化・経験値共有

アイテム効果アップ)


ラーニングスキル 

結界術A Lv16

(炎魔法SS Lv30・風魔法SS Lv30・土魔法SS Lv30・雷魔法SS Lv30

水(氷)魔法SS Lv30・闇魔法SS Lv30・光魔法SS Lv30・聖魔法SS Lv30

重力魔法SS Lv30・時魔法SS Lv30・空間魔法SS Lv30・錬金術SS Lv30

剣技D Lv1・槍術D Lv1・斧術D Lv1・弓術D Lv1・拳術D Lv1・盾術D Lv1

暗技D Lv1・短剣術D Lv1・強化魔法D Lv1・加工D Lv1・採集D Lv5

算術D Lv5・裁縫D Lv1・農耕D Lv1・採掘D Lv1)


 習熟度もLv16まで上がって、結界術がAクラスになった。ステータスもどんどん上昇している。


(農民のユニークスキルである"獲得経験値倍化"があるから、レベルの上がりがみんなより早い。相変わらずステータスの善し悪しはわからないけど、結界師なのに攻撃力が剣士のブライアンさんの倍くらいあるのはいいのだろうか?)


【そんなもん、高い方がいいに決まってるだろう。俺の父さんが言うには、勇者なんて素の攻撃力が2000くらいあったらしいぞ。それに比べたら、772なんてまだまだだな)


 結構上がったと思ったステータスも、勇者に比べたらまだまだだとわかりホッとしたところで、先頭のブライアイアンさんが二十層へと降りる階段を見つけたようだ。


「いよいよ次は、目標としていた20層だ。最初の部屋は安全地帯だろうから、そこでしっかり休んでからフロアマスターに挑戦しよう。出発前にここのフロアマスターの情報を買っておいたから、休憩中に作戦も立てておきたいところだな」


 リーダーのブライアンさんの言葉にみんなが頷き、二十層へと向かう階段を降りていった。




▽▽▽




 そこは十層と同じように、小さな部屋と奥に大きな扉がしつらえてあった。


 ずっとジャングルのような密林にいたので、そこから解放されようやくホッと一息つく。密林の中での野営は、結界を張って見張りを立てていても、心が休まることはなかったからね。


 みんなも敷物の上でくつろいだり、メグさんは簡易型のテントの中で着替えたりしている。


【ライト、忘れ物を取りに行く振りをしてテントに……】


(何を言ってるんだよレイ!? テントではメグさんが着替えてるんだよ? 大体、中に入ってないのに忘れ物があるわけないだろう!)


【いや、忘れ物というのは例えであって……テントの中を見れれば理由は何でもいいんだが……】


 よし、こいつを最低賢者と認定しよう。まさか女の子の着替えを覗こうとするとは。しかし、レイのせいで僕がメグさんの着替えを意識してしまったのも事実。シーンと静まりかえった中で、メグさんの着替えの音がかすかに聞こえてきて……


「「「…………」」」


 レイを含めた全員が息を呑んでその音に聞き耳を立てていた。


「着替えているとき静かだった。何かあった?」


 テントから出てきたレイさんの質問に、みんな苦笑いを浮かべながら『何もなかった』と繰り返す。


「ならいい……」


 それ以上メグさんに怪しまれないように、リーダーのブライアンさんが話題を変え、この階層までの戦利品の分配を行うことにした。


 魔物の素材については、持てる荷物が限られているので、その大半は放置してきた。デュエルウルフの牙やデビルベアーの爪、シルバータイガーの毛皮少々、そしてそれらの魔石など希少なもののみ持ってきている。


 それから、途中で見つけたお宝が数点。まずは、風属性が付与された片手剣だ。これは、ブライアンさんがうっとりとした表情で見つめている。

 しかし、それも無理はないだろう。属性が付与されている剣といえば、それこそ大金貨を数十枚払ってでも手に入れたいという人が山ほどいるくらいだ。


 ちなみに、人工的に付与付きの武器を作ろうと思ったら、腕のいい鍛冶師が作った武器に、魔道士が希少な付与クリスタルに付与したい魔法を込めて、それを付与師が武具に付与するという流れになるらしい。


 鍛冶師が作った武器の出来はもちろん、魔法を込める魔道士のジョブクラスやステータスによってその性能には大きく差が出て、さらに付与師のジョブクラスやステータスによっても付与するときのロスに差が出る。


 つまり、ステータスが高い魔道士に魔法を込めてもらい、できるだけよい武器に、ステータスが高い付与師に付与してもらった方が、より効果が大きい魔法道具マジックアイテムになるというわけだ。

 それでも、運が悪けれが失敗することもあるので、有能な魔法道具マジックアイテムともなれば、それこそ値段がつけられないようなものもあるそうだ。


 その他の戦利品を見ると、わずかながら物理防御力が上がるペンダントも見つかった。こちらは顔にこそ出さないが、メグさんやジェフリーさんが、チラチラと視線を送っている。

 後衛にとって、手軽に身につけることができて、防御力が上がる魔法道具マジックアイテムは垂涎ものの一品なのだろう。


 こういった、身体強化系の魔法道具マジックアイテムは鍛冶師と支援魔道士と付与師の合作で作れるようだ。


 僕はここで、ふと思いついたことがある。付与クリスタルを使うのは、付与師が魔法を使えないからだろう。魔法を使える付与師がいたら、付与クリスタルはいらないのではないかと。


(レイはどう思う?)


【そうだな、俺はメグの服がハラリと落ちる音がなんとも言えず興奮したな】


 何を言ってるんだこの男は……。人の話も聞かずに、まだメグさんの着替えに執着しているとは……


 まあいいや。機会があれば、付与師のジョブクラスを上げて確かめてみよう。


 さらに炎魔法が封じ込められている付与クリスタルがひとつ見つかった。これはこのままでも使うことができ、一回きりだが中に封じ込められている魔法が発動する。何が封じ込められているのかわからないのが少々難点らしいのだが、僕が鑑定で見てみるとBクラスの炎の爆発フレアバーストだった。よっぽどのピンチにならない限り、持ち帰って付与師に売るのがいいんじゃないかと思う。


 一応、最初の取り決めでは平等に山分けするとなっていたが、どれも僕には必要ないので、竜の爪ドラゴンクロウのみなさんに譲ることにした。魔法道具マジックアイテムに関しては、フロアマスター戦でも役に立ちそうだしね。その分、素材を多くもらうか、フロアマスターを倒した後に出るアイテムで調整してもらうことにした。


「それじゃあ、二十層のフロアマスターの情報だが……」


 気になってたお宝の配分についての目処が立ち、ホクホク顔のブライアンさんだったが、フロアマスターのことになると気持ちを切り替えて、二十層攻略のための情報を話し始めた。


 なんでも、二十層のフロアマスターは、ゴールドリオンというライオン型の魔物と言われているそうだ。

 このゴールドリオンは、レベルは40を超えており、雷属性を有している。運が悪ければ、Lv45に達する個体に当たることもあるらしい。唯一の救いは、群れるのを嫌う性質があることで、ここでも単独で待ち構えているだろうというのが、ブライアンさんが買ってきた情報の全てだ。


 さて、その情報が正しいのかどうか、探知と鑑定を駆使して確かめてみよう。


[ゴールドリオン:Lv45:体力652:魔力325:攻撃力683:防御力554:魔法攻撃力308:魔法防御力302:敏捷― スキル:―]


(お、鑑定が上がって見える項目が増えてる……って、ここでLv45って……ブライアンさん運悪すぎでしょ!)

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