第22話 vs デュエルウルフ

 ~side メグ~


 私の名前はメグ。チーム龍の爪ドラゴンクロウのメンバーの一人。今日はいつものメンバーに加え、ちょっと怪しい? いいえ、かなり怪しい結界師の少年ライト君と一緒に、未完成の迷宮ラビリンスに来ている。


 このライト君は、結界師でありながら私とディータの傷を治し、単独で十層のフロアマスターを倒して私達のピンチを救ってくれた、とんでもない結界師なのだ。


 その実力を見込んで、リーダーのブライアンが二十層までの協力を取り付けたのが昨日の話。


 ところが、今、十一層に入って最初の魔物との戦いで私の命は尽きようとしていた。


 二体のデュエルウルフに先制攻撃を仕掛け、私の魔法とティーダの不意打ちで、一体に大ダメージを与えたまではよかった。

 しかし、次に唱えた雷の壁サンダーウォールはデュエルウルフの身体能力の前に全く役に立たなかった。雷の壁をブライアンごと簡単に跳び越え、今、目の前にデュエルウルフの大きな牙が迫っている。


 魔法を詠唱する時間もない私は、大きく開けたデュエルウルフの口を避けることもできず、頭からかじられる……そう思った瞬間……


「危ない!」


 ジェフリーが私の身体を突き飛ばした。地面に倒れ込む瞬間、私を突き飛ばしたジェフリーと目が合った。彼は死など恐れていないかのように、私に向かって微笑んでいる。おそらく私を怖がらせないようになのだろう。


「いやぁぁぁ!」


「「ジェフリィィィ!!」」


 私の叫び声と仲間達の叫び声が重なった。




 ~side ライト~

 

 メグさんとティーダさんの不意打ちで、一体のデュエルウルフは大ダメージを受け動きが鈍っている。しかし、もう一体はメグさんが唱えた雷の壁サンダーウォールどころか、立ちはだかったブライアンさんまで楽々跳び越えてしまった。


 今まさに、デュエルウルフの牙がメグさんを助けようとしたジェフリーさんに迫っているのだが……何をみんなそんなに焦っているのだろう。こういう時のために、僕が物理防御フィジカルディフェンスをかけておいたんだけど。やっぱり気がついていなかったのかな?


 ガキィィィン!


 デュエルウルフがジェフリーさんに噛みついた瞬間、耳障りな金属音が鳴り響いた。もちろん、僕の結界がデュエルウルフの牙を防いだ音なんだけどね。


「「「えっ?」」」


「ガウ?」


 四人の声とデュエルウルフの声が、疑問形で重なる。


 上半身を前後からガシガシ噛まれながら、傷一つ負うことなく、呆然と自分をかじっている巨大な狼を見つめているジェフリーさん。


 その様子を、口をあんぐり開けて見守る仲間達。


「どういうこと?」


 先程まで涙を流していたメグさんは、無表情でそう呟くのが精一杯だったようだ。


【あいつらいったい何をしているんだ?】


 レイの言う通り、みんなはボーッと立ち尽くし攻撃する気配がない。


「あのぅ、物理防御フィジカルディフェンスをかけさせていただいてますので、今のうちに攻撃していただけると……」


 あまりにみなさんが呆然としているので、ガシガシ音に耐えられなくなった僕が声をかける。


 その声にみなさんがハッと我に返り、ブライアンさんとティーダさんは、デュエルウルフに向かって走り出し、メグさんは雷魔法の詠唱を始めた。


 ジェフリーさんは……まだかじられ続けている。


 バシュ!


 メグさんが放った雷の鞭サンダーウィップが、デュエルウルフの両足を焼いた。そこで、ようやくデュエルウルフはジェフリーさんを解放したが、両足を焼かれ動けなくなったところに、ブライアンさんとティーダさんの必殺技が炸裂し、逃げることもできずあえなく絶命する。


 残っていたデュエルウルフは、最後の抵抗を試みるも、最初のダメージが尾を引いていたのかブライアンさんとティーダさんの連携の前に沈んだ。


「「「…………」」」


 魔物を倒し終えた4人だったが、なぜかその場に立ち尽くしたまま動かない。


【だから、なんでいちいち動きを止めるのか……】


 その状態が三十秒ほど続き……


「あ、レベルが上がった」


 僕の脳内にレベルアップが告げられた。


「あ、俺もだ」

「俺も」

「私もですね」

「私も」


 四人が無表情のまま呟いたのを見ると、龍の爪ドラゴンクロウのみなさんもレベルが上がったようだ。


(その割にはあんまり嬉しそうじゃないなぁ)


【お前の結界が弱くて、ちょっと怪我しちゃったとか?】


(えっ!? そうなの? だとしたら大変だ!?)


 僕がひとりで慌てていると、メグさんがその訳を教えてくれた。


「ライト君に質問。あの結界はあなたが?」


「えっ? もちろん、僕の結界ですが何かおかしかったでしょうか? もしかして、ジェフリーさんに傷をつけてしまいましたか!?」


(あの程度の攻撃なら、完璧に弾けると思ったのに!? やっぱりレイの言った通りだったのか!?)


 そう思った僕は、慌ててジェフリーさんの方を見ると……めっちゃ首を横に振ってる。どうやら、怪我はしていないようだ。よかった。だけど、だとしたら何がおかしかったのだろうか?


「違う。そっちじゃない。むしろ逆。何であんな強力な結界が張れるの?」


 えっ? そっち? 結界ってそういうもんじゃないの?


「あれ? 結界って、相手の攻撃を防ぐものだと思ったのですが、おかしかったですか?」


「あなたのランクと結界の強度が釣り合ってない。あんな強力な結界はEランクには無理」


 なるほど、前回も似たようなことを言われたような……。結界師になりたてで、Eランク冒険者の僕にはもっと弱い結界を張れというわけか……そんなことできるかい!


【あはは! 結界が硬すぎて文句言われるとは! やるなライト!】


(うるさい! 誰も怪我しなかったんだからいいだろう!)


 せっかく活躍できたと思ったのに、こんな突っ込みが待っているとは……と、ちょっとがっかりしていたら……


「だけど、ありがとう。おかげでジェフリーが、いえ、私達全員が死なずに済んだ」


 いきなり頭を下げられた。落としておいてからの、お礼に思わず赤面してしまった。


【こ、この女……狙ってやってるとしたら、何て高度なテクニックを……惚れちまうだろう!!】


 僕が赤面してしまうくらいだから、レイは当然大興奮だ。


「これじゃあ、最初に助けてもらった時と同じ質問攻めね。謝る」


 おそらく他のみなさんも聞きたいことがあったのだろうが、メグさんがみんなの疑問を抱えたまま、自己完結してしまったので、それ以上の追求が来ないで済んだ。


(みんなを助けられたし、結果的にはよかったのかな? だけど、わざと弱い結界を張ることは……ないよね?)


 そんな曖昧な決意を胸に、次の階層を目指して進むのだった。

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