第15話 護衛クエスト2日目
「おい、ライト! 急いでこっちに来てくれ!」
護衛クエストの二日目、出発してすぐに先頭の馬車を護衛するマックスさんに大きな声で呼び出された。どうやら野盗が現れたようだが、当然僕は探知でわかっている。
だけど、僕が必要とされるかどうかわからなかったので様子を見ていたのだが、どうやら前方での戦いで必要と判断されたようだ。
すぐに馬車を降りてマックスさんの元に向かうと、
彼らの装備はバラバラで、予想通り野盗と言われる類いの人達の様に見える。
その中でも中央で斧を担いでいる、一際身体が大きな人物は他の者とは違った雰囲気を纏っていた。
名前 :ゴラン
性別 :男
種族 :人族
レベル:23
ジョブ:斧戦士
クラス:C
職業 :野盗
体力 :209
魔力 :53
攻撃力:―
防御力:―
魔法攻撃力:―
魔法防御力:―
敏捷 :―
運 :―
ユニークスキル
攻撃力上昇(中)
ラーニングスキル
―
このゴランという男が、この中ではレベルもクラスも最高なのでリーダーで間違いないだろう。しかも、このゴラン、
人数が向こうの方が多いことを考えると、後ろにいる
間違いなく、この野盗の仲間で
「リーダー、数が多すぎます。後ろのパーティーを呼びましょう!」
【ライト、後ろにも敵さんがいることを教えてやった方がいいんじゃないか?】
レイが珍しく親切に進言してくれるが――
(そうだね、もしマックスさんが彼らを呼ぶと言ったら教えてあげよう)
僕もレイの意見には賛成だが、リーダーのマックスさんの答えを聞いてからでも遅くはないと思ったのだ。
「馬鹿野郎、こいつらの仲間がこれだけとは限らないだろう! もしまだ仲間がいて、後ろに隠れていたらどうするつもりだ!」
どうやら僕が忠告することもなく、マックスさんは最悪の状況を考えていたようだ。実際、探知など持っていないから、万が一を考えたのだろうけど、これだけの数の敵を目の前にして勇気ある決断と言える。
ただし、問題は四対十で勝てるかどうかなのだが……
鑑定を持っているとかあんまり知られたくないんだけど、リーダーの強さだけは伝えておかないと、被害が出大きくなりそうだ。
「マックスさん、あの中央で斧を担いでいるのがリーダーっぽいです。レベルは23。もしかしたらステータスや習熟度が、マックスさんより上かもしれません。街でお尋ね者の貼り紙を見たので覚えてます!」
僕の言葉に戸惑った表情を見せるマックスさん。それはそうだろう。あの街にお尋ね者の張り紙なんてなかったし、あったとしても今のレベルなんてわかるわけがない。
到底信じられないはずなのに、なぜかマックスさんはすぐに僕の目を見つめて、静かに頷いてくれた。何だか、信じてもらえたみたいでちょっと嬉しくなる。
(これは、マックスさん達を死なせるわけにはいかない!)
【男同士で見つめ合って気持ち悪いな】
この賢者はせっかくのいい雰囲気と、僕のやる気を台無しにする天才だな……
「エドガー、トール! 相手のリーダーはどうやら俺と同格らしい! ちょっときついと思うが残りの雑魚どもを任せていいか?」
「嫌と言っても、やらざるを得ないでしょう!」
「へへ、いつものことでしょ。その代わりコーラル、強化魔法はこっち優先で頼む!」
エドガーさんとトールさんも、マックスさんの言葉で覚悟を決めたようだ。支援魔道士のコーラルさんは防御力上昇の強化魔法の詠唱を始める。
「おい、向こうさんには魔法使いがいるようだ。一気に決めるぞ!」
盗賊のリーダー、ゴランのかけ声で剣や斧や短剣を持った野盗達が一斉に襲いかかって来た。
斧戦士は高い攻撃力が売りのジョブで、多少の盾や鎧はものともせずに破壊していく。しかし、敏捷や防御力はそれほど高くないので、素早い攻撃の前では簡単に傷を負ってしまうのが弱点だ。
それ故に、多少の傷は覚悟してひたすら攻撃していく戦い方なので、戦闘が終わった後は必ずと言っていいほど傷だらけになってしまうのが斧戦士の宿命なのだそうだが……
今日だけは違ったようだ。
~side マックス~
俺の名はマックス。チーム
俺らは二週間ほど前、ランドベリーでいつも世話になっている武具商人のダリルに頼まれて、隣町のビスターナまで護衛をすることになった。
片道三日の護衛を終えて、一週間ほどビスターナで久々の休暇を楽しんだ後、また帰りの護衛をしながらランドベリーに戻るって時の話だ。
約束の場所に到着すると、ダリルはいい素材が手に入ったと上機嫌だった。あまりに機嫌がいいから、俺もその素材を見せてもらったが、あれはとんでもない代物だったぜ。
何せ、Cランクのワイバーンの素材が頭の真ん中を貫く傷だけで、その他が丸々一体無傷で揃ってたんだからよ。
それから、ダリルが雇った別の護衛達と自己紹介をしてランドベリーに戻ることになった。ダリルが雇った護衛は
十三歳で冒険者をやってるってだけですげぇのに、レベル23でCクラスまでのラーニングスキルを覚えているって、将来が末恐ろしいと思ったよ。ただ、本人は全く自分のすごさに気がついていないようだったが。
護衛一日目は何もなかったんだが、二日目の出発してすぐにそいつらは現れた。十人ほどの野盗でライトが言うには、リーダーは俺よりも少し強いらしい。教えてもらっておいて何だが、なぜそんなことわかるのか一瞬疑問に思ったのを覚えている。
だが、なぜか信じられる気がしたんで、俺が野盗のリーダーの相手をして、エドガーとトールに残りを任せることにした。ちょっと、きついが万が一のことを考えると、
結果的には、後方に五人の野盗が潜んでいたから俺の判断は間違っていなかったんだが……四対十でもいけると思った俺の判断は盛大に間違っていた。
野盗のリーダーは本当に俺よりも強く、三人の仲間も九人の野盗相手に、一方的に攻撃されてしまったのだ。
本来なら俺の判断ミスで仲間を失い、護衛の任務は失敗に終わるはずだったのだ。だが、結果的に俺達は無傷で十人の野盗を倒すことができたのだ。なぜかって? 今からそれを教えてやろう。
まず最初に苦戦を強いられたのは、エドガーとトールだ。俺ら斧戦士は敏捷が低いから、剣士や盗賊相手には少々分が悪い。素早い動きで翻弄され、攻撃を当てる前にこちらの傷がどんどん増えていってしまうからだ。
向こうもそれをわかっているのだろう、剣士や盗賊を前面に出してきやがった。
お互いに誤算だったのは、あの結界師ライトの存在だろう。
あのライトと自己紹介した結界師は、自分はEランクの冒険者だと言っていた。Eランクの冒険者が使える
「
と、まだ可愛い声でライトが叫ぶと、三人同時に薄い光の膜が身体を包み込んだのだ。それだけで、びっくりして俺は一瞬動きが止まっちまった。
戦闘中に動きを止めるなど、防御力が低い斧戦士にとっては致命的な隙かと思えたが、相手の野盗のリーダーも驚いて固まっていたようで命拾いしたぜ。
しかし、エドガーとトールの方はすでに乱戦になっていて、
ギィィン!
いきなりの致命傷かと思われる攻撃に、エドガーの顔が引きつっていたのを覚えている。ところが、金属がぶつかるような音がして片手剣が弾き返された。エドガーの脇腹に傷一つつけることができずに。
これには野盗も驚いたようだったが、そこはさすがに百戦錬磨の悪党達。直ぐさま、気持ちを切り替えて、複数の仲間と共に結界を壊しにかかったのだが――
ギン、ギン、ギィン!
三方からの同時攻撃を受け、エドガーは躱しきれずにいくつもの斬撃を身体に受ける。だが、そのことごとくが最初の片手剣と同じように、傷一つつけることなく弾き返された。
ここまで来ると、さすがに鈍いエドガーも異変に気がつく。しかし、エドガーの強いところは、その異変ですら利用してしまう神経の図太さだ。ダメージがないとわかるや否や、防御を一切捨て攻撃のみに集中し始めたのだ。
自分の身体に剣身を受けながら、その武器が弾かれ動きが止まったところに、
それを見たトールも、防御を一切捨て同じように野盗達をたたき伏せていく。
圧倒的に有利なはずの野盗達が、次々と倒れていく姿を見て、野盗のリーダーも焦ったのか、俺との勝負を急ぎ大技を繰り出してきた。斧術ラーニングスキルCクラスの"斧術・剛"。自分の斧の強度を増し、硬い鎧を壊すのに特化した、一点集中の大技だ。
俺もとっさに同じ技で対抗しようとしたのだが、エドガーの戦いぶりに見とれ、反応が一瞬遅れてしまったため、その強烈な一撃を左腕で受けてしまうことになっちまった。あの時は、腕が一本無くなるのを覚悟したのだが……
ガキン!
あの時、俺と野盗のリーダーは同じ顔をしていたね。目を大きく見開いて、口はこれでもかってくらいに開けて……
だってよ、野盗のリーダーの斧が根元から折れ、後ろに飛んで行って地面に刺さっちまったんだから……
俺も無抵抗の敵をいたぶる趣味はないんだが、さすがにこの状況で攻撃しないほど間抜けでもない。武器をなくし、無防備になったリーダーを倒すのは、当たり前だが難しいことではなかった。
俺達が全員野盗をたたき伏せたところで、馬車の後方を見に行ってみると、
~side ライト~
「いや、助かった。改めてお礼を言わせてくれ。正直、お前さんの結界を舐めていたが、あの結界がなかったら俺達全員やられていただろう。本当にありがとう!」
僕は野盗退治が終わって早々、
さらに、エドガーさんやトールさん、コーラルからもお礼を言われ、最後にはパーティーに誘われるほどの勢いだった。
【頼む。絶対このパーティーだけは止めてくれ……】
身体を持たないレイだったが、その声はなぜか疲れ果てていた。
まあ、そんなこと言われなくてもこのパーティーに入るつもりはなかったので、丁重にお断りしたけど。
生き残った野盗は
どうやら、ここ最近問題になっていた野盗集団のようで、もうすぐ討伐依頼がでるところだったらしい。そんな野盗を壊滅させたことで、後でランドベリーの領主から褒美が出ることになった。お金がもらえるのも嬉しいけど、いいことをしたと評価されるのはもっと嬉しいね。
そんなことがありつつ、僕らはランドベリーの街へと入っていった。
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