第14話 護衛クエスト1日目

 銀の雫シルバードロップのみなさんとパーティーを組んだ翌日、次のクエストを受けようとギルドを訪れると……


「おい、来たぞ!」


「なあ、ライト君。僕らとパーティーを組んでくれないか!?」


「おいおい、抜け駆けするなよ! そんなEランクパーティーより、俺達Dランクの蜘蛛の毒スパイダーポイズンと一緒に、Dランククエストを受けようではないか!」


「ライト君だったかしら? そんなむさい男どもと一緒より、私達女王の騎士クイーンズナイトと一緒にワイバーンを倒しに行きませんこと?」


 ギルドに入って早々、なぜか僕をパーティーに誘おうとするたくさんの人達に囲まれてしまった。


(こ、これは、どういうことだ?)


「はいはい、クエストボードにメンバーカードを貼っていない人を、個人的に誘うのは禁止ですよ!」


 僕が突然のお誘いに困惑していると、昨日対応してくれた受付のお姉さんが助け船を出してくれた。


 その声を聞いた冒険者のみなさんは、いったん僕を解放してくれたのだが、今度はクエストボードの前に集まっている。どうやら、僕がカードを貼るのを今か今かと待ち構えているようだ。


 その様子を見て、僕を助けてくれたお姉さんに何があったのかを聞いてみた。


「昨日、あなたが帰った後、銀の雫シルバードロップのみなさんはこのギルドの酒場で夕食を取られたのですが、その時、周りにいた冒険者さんから『どうやってワイバーンを倒したのか?』と質問攻めにあっていました。

 最初は、『戦っている最中にワイバーンの頭に雷が落ちた』の一点張りだったので、倒し方は結局わからず仕舞いでしたが、話は段々とどうやってワイバーンの攻撃から身を守ることができたのかに移っていきました。

 そちらについても、初めは『運が良かった』で済まそうとしていたみたいですが、お酒を飲んでいたことと、あまりの質問攻めに、つい『あなたの結界のおかげだ』とお話しされてしまったと聞きました」


 そうか、そんなことがあったのか。別に結界については隠していたわけじゃないけど、言われてみれば結界の強さも驚かれてたんだった。


【あいつらのせいで大変なことになったな】


(うん、でも悪気があったわけじゃなさそうだし、あの人達はいい人達だったよ)


 レイも僕がそう答えるとわかって聞いたのだろう。おかげで、気持ちの整理もついたし。


 ただ、この状況じゃ、メンバーカードは貼れない。となると、今日はソロでクエストでも受けようかな。


 掲示板の方に群がっている人を見てそんなことを考えていたら、受付のお姉さんがそれを察してくれたのか、面白そうなクエストを紹介してくれた。

 それは、隣町のランドべリーへ向かう商人一行の護衛クエストで、あと一人冒険者を募集しているというものだった。Eランクから受けることができ、護衛なので、結界師の僕でも役に立てるんではないかと思われた。


(うん、思い切って隣町に移るのもありだよね!)


【ああ、ここにいたらしばらくはこの状況が続くだろうな】


 レイも僕の考えに賛同してくれている。


 しかも、このお姉さんによると、ランドベリーの北には神々が造ったと言われる、地下迷宮ダンジョンと呼ばれる地下何十層からなる迷宮があるらしい。


 この地下迷宮ダンジョンは、下の階層に行くに従って魔物が強くなっていく性質があり、レベル上げには持って来いの狩り場なのだそうだ。


 さらに、地下迷宮ダンジョン内には、隠されたお宝やはるか昔に使われていた高性能な魔法道具マジックアイテムなどが見つかることもあるというのだ。


 もちろん危険もあるが、レベル上げとお金稼ぎに持って来いのこの地下迷宮ダンジョンは、冒険者達に人気があり、ランドベリーの街はここビスターナとあまり変わらない大きさなのに、ギルドはここの倍以上の人で賑わっているとのことだ。


【ククク、地下迷宮ダンジョンは常に死と隣り合わせの危険な場所。そこで出会った男女は、危機意識で興奮しているのを恋愛感情と錯覚してしまうと本に書いてあった。これは、行くしかないな】


 何だこの無駄知識は? 一体、この賢者はどんな本を読んでたんだ!?


 脳内賢者の無駄知識に驚かされた僕は、ありがたい情報をくれたお姉さんにお礼を言い、クエストボードに貼られている残り一枚になった護衛募集の依頼書を持って、再び受付に戻って来た。


 その様子を見た、周りの冒険者のみなさんが大層がっかりとしていたが、もう僕がクエストを受けてしまってはどうしようもないと悟ったのか、それぞれ自分達のパーティーメンバーとこの後どうするのかを相談し始めたのだった。




 ▽▽▽




 依頼書には集合時間と場所が書かれており、丁度、今日がその日だったため遅れないように、急いで集合場所である北門へと向かう。


 そこにはすでに、今回の依頼を出した商人が三名と、護衛のクエストを受けた四人パーティーが二つ集まっていた。



「それじゃあ、お互いに自己紹介をしましょうか。私はランドベリーで武器、防具店を営んでいるダリルと申します。今回の護衛クエストの依頼主になります。本日は護衛をよろしくお願いします」


 全員が揃ったところで、依頼主の商人さんから自己紹介が始まった。


 続けて自己紹介したのは荒波レイジングウェーブのみなさんで、斧戦士のマックスさん、エドガーさん、トールさんと支援魔道士のコーラルさんという斧戦士が三人というバリバリの武闘派集団だ。リーダーのマックスさんがCランク、他のメンバーがDランクのパーティーだ。


 もうひとつのパーティーは竜の息吹ドラゴンブレスという男性二人、女性二人の四人組で、剣士ラルクさんと盾士のアランさん、黒魔道士のノエルさんと白魔道士のミカさんというバランスの取れたパーティーだ。こちらは全員Dランクだそうだ。


「こんにちは、Eランク冒険者で結界師のライトといいます。まだ冒険者になりたてですが、よろしくお願いします」


 一番遅くに来た僕が、最後に自己紹介をする。


【おいライト、荒波レイジングウェーブには近づくな。男四人でよくパーティーなんか組めるな。それよりも、竜の息吹ドラゴンブレスと仲良くなれ。あそこの女の子二人はまだ若いし、美人だからな!】


 平常運転の脳内賢者はいつも通り放っておくとして、全員の自己紹介が済んだ僕達は、細かな取り決めを確認してすぐに出発となった。


 馬車は三台用意されており、ダリルさんが先頭の馬車を、後ろの二台をダリルさんが連れてきた店の者が操るようだ。


 それぞれの馬車には、今回取り引きされた物がびっしりと積んであるのだが、ダリルさんは、取り引きの最後の最後で『傷ひとつないワイバーンの素材を手に入れることができた』と、上機嫌だった。


 何だか、聞き覚えのある素材だけど、それほど珍しい物ではないだろうからたぶん気のせいだろう。


 その馬車を取り囲むように、冒険者のみんなは歩いて護衛する。鎧を着て歩くのは大変そうだが、戦闘に使う物以外の荷物は馬車に乗せてもらっているので、これでも狩りに行くよりは楽なのだそうだ。


 先頭の馬車はチーム荒波レイジングウェーブのみなさんが、後ろの馬車は竜の息吹ドラゴンブレスのみなさんが護衛している。僕は結界師ということで体力がないと思われたのだろうか、ちゃっかり真ん中の馬車に乗せてもらった。

 もっとも、前後どちらから襲われても、すぐ助っ人にいけるように真ん中に配置されてるんだと思うけどね。


 レイは視界に入らない後ろに竜の息吹ドラゴンブレスのみなさんがいるのが不満らしく、ぶつぶつと文句を言っていた。


 ビスターナからランドベリーへは何事もなければ、三日ほどで着く距離だ。一日目は御者をしているダリルさんの店の人とおしゃべりをしながら、何事もなく過ぎていった。


 そして夜は、商人のみなさんは中央の馬車で寝ている間、当然冒険者達が交代で見張りをすることになる。僕は、荒波レイジングウェーブのリーダーで斧戦士のマックスさんと、竜の息吹ドラゴンブレスの黒魔道士、ノエルさんと一緒に見張りをすることになった。


 レイは一日の欲求不満を解消するかのごとく、なめ回すようにノエルさんを観察していたようだが、僕はむしろマックスさんの話に興味が沸いた。


 マックスさん達荒波レイジングウェーブはランドベリーを拠点としており、当然地下迷宮ダンジョンの常連なのだそうだ。そこで、地下迷宮ダンジョンについて色々と情報を仕入れることができた。


 ランドベリーの北にある地下迷宮ダンジョンは、『未完成の迷宮ラビリンス』と呼ばれ、内部は巨大な迷路のようになっているそうだ。現在確認されている最下層は地下三十八階層で、未だに踏破されていないらしい。


 地下迷宮ダンジョンには、十階層毎にフロアマスターと呼ばれる強力な魔物がいて、次の階への扉を守っている。マックスさん達も十階のフロアマスターを倒せずにいるのだそうだ。


 ちなみに地下迷宮ダンジョンには、十層ごとに転移石と呼ばれる魔法陣が設置されており、フロアマスターを倒し、その先の小部屋にある転移石に自分の魔力を登録することで、次からは入り口横にある転移石から、登録している階層に転移することができるらしい。


 一緒に話を聞いていたノエルさんも、地下迷宮ダンジョンには興味津々みたいで、身を乗り出してマックスさんの話を聞いていた。特に、地下迷宮ダンジョンで希に見つかる宝箱の話では、メモを取りながら聞くほどの真剣ぶりだった。


 マックスさんの話を聞いていると、あっと言う間に時間が過ぎて、すぐに見張りを交代する時間になった。僕は、マックスさんにお礼を言い、持ってきた寝袋にすぐに潜り込む。もちろん、周りに結界を張るのは忘れない。


 結界師のユニークスキル効果持続と、ステータス上昇の補正がかかって1800を超える魔力を持つ僕ならば、常に魔力を消費する結界であっても一晩くらいなら余裕で持つのだ。


 そして一日目の夜は、魔物の襲撃もなく無事に過ぎていくのだった。

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