第5話 ジョブチェンジ ⚪︎
「ここがビスターナの街か! やっと着いたー!」
僕が人助けをしてからさらに二日歩き、予定通り五日間かけて何とかビスターナの街へとたどり着いた。レイの力を受け継ぐ前だったら、決してここまでたどり着けなかっただろう。
ビスターナの街は石でできた壁で囲まれていて、入り口には衛兵らしき人が二人立っている。そのうちの一人が僕に声をかけてきた。
「身分証は持っているか?」
僕は声をかけてきた衛兵さんに、村で発行されている身分証を見せた。
「ほう、ホロの村から一人で来たのか。しかも、その年で歩いてとは。中々根性があるな!」
そう言って衛兵さんは笑顔で通してくれた。あまり他人に褒められたことがない僕は、それだけで嬉しくなってしまう。いい気分にさせてくれた衛兵さんにお辞儀をして、僕は街の中へと入っていった。
ビスターナの街は僕が暮らしていた村の何十倍も大きく、人の数も比べ物にならないくらい多い。僕はまず、この人の多さに圧倒されてしまった。
【おいおい、人がこんなにいるぞ!? お、あんなところに綺麗な子が!】
どうやら僕の中の思春期賢者も、この街の大きさ、人の多さに大興奮のようだ。今すぐにでも街の中を見てまわりたい衝動に駆られるが、僕にはやることがある。
まずは神殿に行き、ジョブチェンジをお願いするのだ。神殿の場所は衛兵さんにしっかり聞いている。何でも街の東のはずれにあるのだとか。僕ははやる気持ちを抑えて、真っ直ぐ神殿へと向かった。
「ここが神殿か」
ビスターナの神殿は僕の村の学校くらいの大きさだ。他の神殿を見たことがないので、ここがどのくらいの規模なのかはわからないけど、お昼時のせいかとても空いているようで、あんまり目立ちたくない僕にとっては好都合だった。
神殿の中は、入り口から入るとすぐに縦に長い部屋になっていて、真ん中の通路の両脇には椅子が並んでいる。その先に祭壇があるので、神官の話を聞く人のための椅子なのだろう。
祭壇の奥に、高齢の神官が座っているのが見えた。どうやら、他に人がいないので本を読んでいるようだ。僕が近づいていくと、その気配に気がついたのか顔を上げ、僕を見ると本を祭壇の下にしまい立ち上がる。その時、チラッと本のタイトルが見えてしまった。
[週刊冒険者 美人冒険者特集!]
よし、見なかったことにしよう。
【おい、ライト。ジョブチェンジが終わったら、真っ先にあの本を買いに行こうぜ!】
僕が見なかったことにした本を、レイはしっかりと見た上、異常に興味を持ってしまったようだ。
(恥ずかしいから絶対に買わない)
あんなものを買いに行って、店員さんが若い女の子だったらどうするつもりだ。
【チッ! つれねえなぁ】
脳内でそんなやりとりをしながら、神官の元へとたどり着く。
「こんにちは。こんな時間に訪ねてくるとは、ジョブチェンジでもしにきたのかな?」
ゆったりとした白い布を巻いたような服装の年配の男性が、厳かな雰囲気で声をかけてきた。
(今さら厳かな雰囲気を出されても……)
本のタイトルが見えてしまった僕はそう思ったが、神官の男性があまりに堂々としているので、突っ込むことなどできやしない。
「はい、ジョブチェンジをお願いしたいのですが」
本のタイトルが見えたことなどおくびにも出さず、自分の用件を伝える。
「よろしい、ジョブチェンジするには銀貨二枚がかかるがよろしいかな?」
なるほど、ジョブチェンジには銀貨二枚かかるのか。母からもらったお金は十分に残っているが、無駄遣いするほどたくさんあるわけではない。
しかし、スキルを獲得することは強くなること、ひいては生存率が高まることに繋がると思うので、ケチケチするつもりもない。
僕は金貨二枚と銀貨八枚を払って、剣士、槍術士、斧戦士、弓術士、拳闘士、盾士、支援魔道士、鍛冶師、裁縫師、採集師、農民、採掘師、商人そして、結界師の14個のジョブからそれぞれのユニークスキルとラーニングスキルを獲得した。
最後に調理師のジョブに変更してもらおうと思ったときに、衝撃の事実を知った。何と、調理師は最上位ジョブといってレベル40にならないと、ジョブチェンジできないというのだ。
(レイ、どうしよう?)
【どうもこうも、ここで40までレベル上げするしかないだろう。まっ、今のお前ならそう難しいことじゃないはずだ。スキルもステータス補正も予想通り残ってるし、さっさとレベルを上げて調理師のジョブをゲットしようぜ!】
危なくパニックになりかけた僕だったが、レイのおかげで落ち着きを取り戻すことができた。幸い、今のジョブは最後に変更した"結界師"になっているから、自分が戦わなくてもパーティーを組んで後方支援をしていればレベルを上げることができそうだ。
そう考えた僕はひとまず神官にお礼を言って神殿を後にした。僕の事情を知らない神官にとっては、大金を払って無駄にジョブチェンジしているように見えたのだろう。僕が神殿を後にするときには、
ステータス
名前 :ライト
性別 :男
種族 :人族
レベル:5
ジョブ:結界師
クラス:D
職業 :なし
体力 :78
魔力 :1419
攻撃力:75
防御力:73
魔法攻撃力:1978
魔法防御力:1881
敏捷 :45
運 :30
オリジナルギフト:スキルメモリー
ユニークスキル
無詠唱・並列思考・消費魔力減少・魔力回復速度上昇
攻撃力上昇(中)・防御力上昇(中)・魔力上昇(小)
魔法攻撃力上昇(中)・魔法防御力上昇(中)
敏捷上昇(中)・鑑定・探知・思考加速・集中
獲得経験値倍化・経験値共有・効果持続
ラーニングスキル
炎魔法SS Lv30・風魔法SS Lv30・土魔法SS Lv30・雷魔法SS Lv30
水(氷)魔法SS Lv30・闇魔法SS Lv30・光魔法SS Lv30・聖魔法SS Lv30
重力魔法SS Lv30・時魔法SS Lv30・空間魔法SS Lv30・錬金術SS Lv30
剣技D Lv1・槍術D Lv1・斧術D Lv1・弓術D Lv1・拳術D Lv1・盾術D Lv1
強化魔法D Lv1・加工D Lv1・採集D Lv1・算術D Lv1・裁縫D Lv1
農耕D Lv1・採掘D Lv1・結界術D Lv1
とりあえず、今獲得できる有用そうなユニークスキルは大体覚えることができた。これだけスキルがあれば、ひとまず死ぬことはそうそうないだろう。ちなみに表示されるステータスは、ジョブ補正が入った数値になるようだ。
この後は、冒険者ギルドに行って登録をしよう。それから、どこかのPTに混ぜてもらってレベルを40まで上げるのだ。そうすれば、晴れて調理師のジョブをゲットしあの街を目指すことができる。
僕は来た道を戻り、今度は冒険者ギルドを探すのだった。
▽▽▽
神殿から戻ってきた僕は、大きな通りにあった露店で魔物の肉を刺している串焼きを買い、ついでに冒険者ギルドの場所を聞いたおかげで迷うことなくギルドに着くことができた。
カラン、コロン
ギルドの扉を開けた瞬間伝わってくる熱気。人の背丈はあろうかという、銀色に輝く大剣を持った男。黒装束に身を包み、短剣を両腰に差した小柄な男。白いローブに身を包んだ、優しそうな目の若い女性。
さらに、ドワーフ族やエルフ族など人族以外の種族も少なからずいるようだ。僕がいる田舎では、めったに見る機会がなかったので、それだけで気持ちが高ぶってしまう。
彼らの装備もまた、田舎育ちの僕には見たことがものばかりだ。母が務める食堂に来ていた数少ない冒険者達が自慢していた鎧や剣よりも、明らかに高価で性能のよい装備に見える。その装備を眺めているだけでも、一日ここで過ごすことができそうだ。
【おお! アレはまさしく本で見たエルフのねーちゃんでは!? くぅー、エルフはみんな美形っていうのは本当だったんだな。よし、ライト。早速、あのエルフのねーちゃんに声をかけるんだ!】
僕が装備に見とれている間に彼は何を見ていたのだろう。何をもって早速と言っているのか理解できないので、とりあえずこの脳内の声は無視することにした。
僕は気持ちを切り替えて辺りを見回す。
すると、正面にある大きな掲示板が目に入った。その掲示板には、たくさんの四角い紙が貼られており、冒険者達はその紙を取ると右側にある受付へと持っていく。
この掲示板はクエストボードと呼ばれ、魔物の討伐や指定品の採集、隣町までの護衛など様々な依頼(クエスト)が張られているのだ。
何やら掲示板の前で、大声で文句を言ってる若い男もいるようだが、ああいうのを見ると僕をいじめてきたヤツらを思い出す。できるだけ、関わり合いにならないようにしよう。
右手の受付の奥には、魔物の一部が置かれたカウンターがある。あそこは買い取りカウンターなのだろう。僕は自分が希少な魔物を狩って、大金を手にしているところ想像し、一人でにやけてしまった。
【何にやけてるんだ気持ち悪い】
先ほど無視した仕返しなのか、そんなことを言ってくるレイを再度無視し、さらに辺りを観察する。
すると左手に食堂兼酒場が見えた。まだお昼時だというのに、すでに酔っ払っている人がたくさんいる。おそらく彼らは、今日のクエストが上手くいって、小金を手にしたのだろう。何ともうらやましい限りだ。
さらにその奥には、ギルドショップが店を構えている。初心者にも扱いやすい武器や防具、回復薬や治療薬、魔力回復薬など、冒険に必須のアイテムが売られているようだ。
一通りギルドの中を観察した僕は、冒険者登録をするために受け付けカウンターへと向かった。
「いらっしゃいませ。冒険者登録をご希望ですか?」
「えっ? あっ! はい、わかりますか?」
受付にいた綺麗なお姉さんに見とれてしまい、少し動揺してしまった。
(人と話すことは苦手だけど、女の人に見とれること何て今までなかったのに……ハッ!? これはもしやエロ賢者の影響か!?)
【俺のせいにするな。だけどこの受付のお姉さんが綺麗なのは事実だ】
と、そんなやりとりがバレないように、僕は至って冷静を装って返答した。
「えっと、やっぱりわかりますか?」
「はい、これでも長いこと受付をやっておりますので、冒険者登録をしに来た方は何となくわかるのですよ!」
僕の質問に笑顔で答えてくれるお姉さん。その笑顔もまた素敵だ。
【おい、ライト。これはチャンスだ! あの笑顔は間違いなくお前に惚れている! 今日の仕事終わりの時間を聞くんだ!】
(頼む。少し黙っていてくれないだろうか。あれは営業スマイルといって、ここに来た誰にでも向ける笑顔なんだよ)
僕とレイの掛け合いの間も、お姉さんはてきぱきと話を進めていく。
「それでは、この登録用紙に必要事項を記入してください」
受け取った登録用紙には、名前やジョブ、レベルなどを書く欄があった。それらを全て記入し、受付のお姉さんに渡す。
「ありがとうございます。今、犯罪歴がないかをチェックし、問題がなければ冒険者カードを作成いたしますので、その間にクエストの受け方について説明させていただきますね」
そう言ってお姉さんは、冒険者のイロハを僕に教えてくれた。
お姉さんの説明をまとめると……
・冒険者にはFからSの冒険者ギルドランクというものが存在する。そのギルドランクは、指定されたランクの魔物を規定数倒したり、指定された素材を採集し規定数提出すると昇格できる。ただし、Aランクになると昇格試験があるため、ギルドが指定したランクの冒険者と戦い、その実力を認めてもらう必要がある。
・さらに、Sランクになるためには昇格試験の他にその人間性も審査される。具体的にはギルドマスターかそれに準ずる資格がある人の推薦があって、初めてその称号を手にすることができる。
実はさらに上のランクがあるらしいのだが、ここではその条件については教えてもらえなかった。
・クエストの受け方は二通りあり、ひとつは自分でクエストボードに貼ってある依頼書を持ってきて、クエストを受ける方法だ。その際、追加のPTメンバーが必要な場合は、クエストボードの右下に貼ってあるメンバーカードを見て、希望するメンバーのカードを受付に持ってくると、本人を紹介してもらえる。
ふたつ目は、逆に自分のメンバーカードをクエストボードの右下のスペースに貼る方法だ。クエストを受けたPTのリーダーが、自分のメンバーカードを選んでくれれば、受付がそのリーダーを紹介してくれる。
・受けることができるクエストは、自分のギルドランクより1ランク上までだ。最初はFランクからスタートなので、僕が今受けることができるクエストはEランクまでとなる。
受付のお姉さんの丁寧な説明で、ギルドに仕組みについて理解することができた。その説明が終わると同時に、ギルドカードができたようで、受付のお姉さんから茶色のカードを手渡された。その時、お姉さんの白くて細い指が、僕の手に触れたので、僕の顔は真っ赤になってしまった。
【お姉さんの指、すべすべして気持ちよかったな!】
全てを台無しにするエロ賢者の言葉は無視して、僕はクエストボードへと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます