第2話 File name_memories_002
「-♪ -♪」
「ど、どうかな?」
マキちゃんが不安そうな声で問いかける。
「うん、ばっちり! さすがマキちゃん。思わず聞き惚れちゃた」
「……良かったぁ。それで、サムネなんだけど……、こんな感じでどうかな?」
マキちゃんから一枚の画像が送られてくる。
「どれどれ……」
「コラボ配信 サムネイル(仮)」と名前の付けられた画像をクリックし、確認する。
「シンプルだけど、そっちの方が分かりやすいかなと思って、どう?」
「うーん」
マキちゃんの言う通り、送られてきた画像は曲の題名と私達の立ち絵が貼り付けられているだけのシンプルなものだった。
シンプルな分、笑顔で金色の髪をなびかせている少女とマイクを持った銀髪の女性に目が行きやすく、立ち絵のシンメトリーにも問題はなかった。
これはこれで悪くないと思う。
だけど……、
「これ、マキちゃんが作ったの?」
「うん、私、絵も得意だから。えっちゃんの立ち絵も私が書いたんだよ」
「そっか……。ごめん、今すぐ作り直して貰っても良いかな?」
「え……?」
驚きの感情が籠った小さな声をあげるマキちゃん。
「ごめんね、別にマキちゃんの作ってくれたサムネが悪いってわけじゃないんだ。立ち絵のレイアウトも完璧だし、全体的にアクセントのある印象に仕上がってる。でも……」
そう言って、マキちゃんにとあるサイトのリンクを送る。
「えっちゃん? これってもしかして……」
「そう、マキちゃんが昔投稿した『歌ってみた』の動画。マキちゃん、マキちゃんはこの動画のコメント欄にどんなことが書いてあったのか覚えてる?」
「えっと、一応コメントに目は通してるとは思うけど、何が書いてあったかまでは……」
「そっか。それなら見返してみて」
「う、うん……」
マキちゃんがコメントに目を通し始める。
そして次の瞬間、
「……あっ! そんな!! 私、なんてこと……」
ハッとした声を出しながら、先ほどの画像を開いた。
「クスッ、私が伝えたかったこと、分かってくれた?」
「うん。このサムネ、私の歌声と合ってない!」
「そう、マキちゃんの魅力はコメントに書かれていた通り、普段とは違う激しい歌声にあるの。でも、マキちゃんが作ったサムネからはそれが感じられない」
「……シンプルに作っちゃった分、物静けさが出ちゃったんだね」
「普段の配信ならそれでいいんだけどね。ただ、『歌ってみた』でリスナーさんが求めてるのは別のモノだから。それに、私も今回は激しめに歌ったから……」
「……えっちゃん、ごめん。作り直すから少し待っててもらっていいかな?」
「もちろん、楽しみに待ってるよ」
「期待してて、必ず、想像以上のサムネを作ってみせるから!」
間もなくして、マキちゃんから一枚の画像が送られてきた。
画像をクリックすると、以前とは打って変わった、余白が少なく、文字のジャンプ率も高いにぎやかなデザインのサムネが広がった。
「これなら……」
勝ち誇った様相がその声色から伺えた。
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